不安定なキモチ
神永side in
仕掛けられたのか遠隔で発動したのか罠で別の部屋へと引きずり込まれてしまった。
幸いライダーと一緒だったのはまだ良かった、セイバーが出てきても最悪離脱は可能だ
「主殿ご無事ですか!?」
尻もちをついていた俺にライダーが声をかけてくる。
「大丈夫、心配しなくていいそれよりそっちの方は大丈夫か?」
「ええ、かすり傷ひとつ負っておりません」
なら何とかなるか…、しかしここは何処だ?暗くて遠くがあまり見えない…部屋と言うには広い気もするが
「…主殿此方に、敵がいます」
ライダーは何かを捉えているのか太刀に手を触れさせている。居合の構えのようなものか?即座に抜刀できるようになっている。
「ライダー、俺が式を放って明かりにするその間に仕留めてくれ」
「心得ました、合図はこちらでします」
そう言って鞄の中から式を取りだし構える。
「3…2…1…今です!」
「解錠(セット)!迸れ!!」
ライダーの合図と共に式を前方に投げつける、自焼している式の灯りで部屋が照らされる、そこにはゴーレムが大量にひしめいていた。
「行け!ライダー!!」
その言葉と共にライダーが駆け出す、太刀を抜き凄まじい速度で間をすり抜けながらゴーレムを切り刻んでいく。その速度は正直目には追えないほどだ。
「は、ははは!遅い遅い遅い!平家の一兵卒共の方がよっぽど恐ろしかったぞ!!」
…この際真名に繋がるようなことを口走っていることに関しては目を瞑るが気になることがある。ライダー、即ち騎兵の英霊のはずなのに一度も乗機に乗っていないのは気になる、戦闘場所の問題と言われればそうなのだが何故なのだろうか…乗機そのものが真名に繋がるから?
「ふぅ、こんな所か…全く、有象無象の相手をするのは面倒ですね」
ライダーが太刀を納刀し此方へ来る。
「主殿!やりました!」
その表情は先程までの苛烈さの欠片もない、褒美を求める犬のような表情だ。一体どっちが彼女の素顔なのだ?あの苛烈な顔が真実でこちらが皮を被ったのならいい、だがこの顔もあの苛烈さも共に真実であるとするならば
───キモチガワルイ
違う、そんなことは考えてはいけない。彼女は俺を信頼してくれているのだ、この考えはそれを裏切るものだ。
「まだ気を抜くなよライダー」
「ええ、わかっております…あそこですね」
ライダーの視線の先には扉がひとつ、あの先に何かがいるのだろう油断も隙も無く構えているライダー。
───扉が開き、セイバーが出てくる。
「流石にサーヴァントの足止めにはならないか」
「はっ、あの程度では眠気覚ましにもならんわ」
「そうか、ならばオレが目を覚まさせよう」
その一言と共にセイバーから恐ろしい魔力が噴き出る。
その光景を見たライダーは冷や汗を流し一言だけ
「宝具を、使います。でなければ勝てません」
───セイバーの実力はそこまでか
いや、竜殺しを行った大英雄だ。言ってしまえば極東の一英雄のライダーで厳しいのは当たり前と言えば当たり前なのだろう。
「わかった、決めてくれライダー」
ライダーの判断は基本的に外れることは無い、そもそも素人である自分が口を出すのも間違っているのだ。
だからここはライダーを信じる───
「っ!はい!」
「話は終わったようだな」
「律儀に待っているとは、騎士道精神とやらか?」
「いや、マスターからの命でな『もし仮に相手のマスターとサーヴァントが会話しているのであれば終わるまで待ってやれ』との事だ、曰く『最後の会話を邪魔するほど私は無粋ではない』らしい」
その言葉には嘲りや侮りがある訳では無い、淡々とマスターの言を伝えただけだ。そしてセイバー自身の意思が介在していない言葉から伝わるのは圧倒的なまでの自負、自身とそのサーヴァントこそがこの聖杯戦争において最強であるという事実が感じられるセリフであった。
「そうか、ならば其方こそ最後の会話にならなければいいな」
その一言と共にライダーの魔力量が高まっていく。セイバーもそれに気づいたのか剣を握り直している。
「───これぞ、我が伝説のひとつ。我が肉体は鳥の如く水面を舞う!」
ライダーの魔力が一瞬凪いだ、その次の瞬間
「『遮那王流離譚四景、壇ノ浦・八艘跳』!!!」
ライダーの姿が8つに増えた───!?
神永 side out