上陸のドレスローザ
「う~ん…」
「戻ってこれたのか…?」
「ヨホホホ!おはようございます!いやあ素晴らしい合唱でしたね!」
「ピアノの音色も素敵だったわ。あれで最後なのが勿体ないくらい」
「ホントそうだな!おれも昔は…ん?どうしたルフィ」
「ウタがいねえ!」
「落ち着け。おれたちがサニー号で目覚めたように、ウタも体のある場所で目覚めてるはずだ」
いい夢を見た朝みたいな気持ちで目が覚めた。皆の声がする。
うんと、そうだ。夢の教会でウタとエレジアの人たちが歌ってくれて、それでおれたち外に出られたんだ。
あのゴードンって王様も、ウタとちゃんとお別れできてよかったんだと思う。あの人たちはもうこの世界から居なくなってしまったんだろうけど、でもきっと、いい人生だったって笑うだろうから。
おれ、あの人たちのことずっと覚えてるよ。
人が死ぬのは、忘れられた時。そうだよねドクター。
「起きたか野郎共!!ドレスローザまでもうちょいだぞ!」
「でけェ島だなー!!!」
舵を取るフランキーのよく通る声に、マストの上からルフィの歓声が続く。
「あんたはいつまで寝てんのよ!」
「う゛!なんだ島か…?」
ナミにはたかれたゾロも起きてきて、皆揃った。空も海も新世界の海じゃないみたいに静かで、心配することなんてなんにもないって風だ。でも。
「ルフィ!」
「おう!」
声をかけると、ルフィはマストをするする降りておれの所までやって来てくれた。
ドレスローザはもう目の前だ。だけどそこからの航路のことを、おれはちゃんと話しておかないといけない。
「おれがヤーナムに行きたいって言ったから、ドレスローザまで戻って来たけど…」
新世界に入ってすぐ、おれたちはドレスローザに向かった。おれは新世界に着いたら一度はヤーナムに行ってみたかったし、海賊用の出入り口はカジノ船以外に無いって前にローに聞いてたからだ。
ルフィはサンジを取り戻した後、新世界を逆走してドレスローザまで戻るって決めてくれた。ウタのライブをおれたちに、というよりルフィに見せるために映像電伝虫を持ってきたローも乗せて、ライブが終わったら上陸する予定だった。
「でも、それはエースが誰に殺されたのか知らなかったからだ。おれ、ルフィに迷惑かけるならヤーナムには行かなくていい」
そう言ったおれを、ルフィは時々見せるあの静かな顔でじっと見た。
「んー……お前はどうしたい?チョッパー」
「おれは…」
「おう」
おれの、やりたいこと。
「おれ、ヤーナムに行ってみたい。だって本当に凄い医療の街なんだ!ドラムにいたドクトリーヌの昔の知り合いの医者もいる!今おれが治せない病気だって、治す方法が分かってるものがあるはずなんだ…!!」
どこでだって、ヤーナムでだって沢山勉強して、それでいつか、おれは何でも治せる医者になるんだ。
だってこの世に治せない病気は、ないんだから。
「ししし…!よし!!行くぞ!!!」
おれの答えを聞いたルフィは、少しも暗いところのない顔で笑った。
こういう時、おれを誘ってくれたのが、仲間にしてくれたのがルフィでよかったって心から思う。
「なら、あと数日待つ必要があるぞ」
「??なんでだ?」
「グラン・テゾーロの周遊期間の問題だ。それまではドレスローザの船倉庫にこの船を預けておけばいい」
「船倉庫?」
「船を"持ち主問わず高額で"預かることで利益を得ている組合がある。ヤーナムに向かう連中は、元々豊かとは言えねェドレスローザの重要な資金源だ。だからこそお前たちのようなお尋ね者でも、街で問題を起こさねえ限りはお咎め無しってわけだ」
「つまり…好きに探検できるってことだな!」
「おおー!」
ドレスローザのあれこれを説明してくれたローに、向こうでゾロが片眉を上げるのが見えた。
「で、てめェはわざわざおれたちを出迎えにドレスローザで待ってたってのか?」
「いや…お前たちに合流できたのは偶然だ。あの国では最近妙な病が流行っている。おれは元々その調査の為にドレスローザに向かっていたんだ」
「え!?大変じゃないか!それならおれも一緒に診に行くぞ!」
「助かる」
感染症じゃねえと踏んでるが、と言ったローは口を引き結んで視線を落とした。
妙な病気。患者に会えたら、おれたちなら何か分かるかな。
大きな大きな岩に囲まれたドレスローザは、もうすぐそこまで迫っていた。