三木下ナゾ 絆ストーリー 『日常と狂奔と、変わらない絆。』
"ふぅ…ミッション完了。"
戦闘が終わってもなおたちこめる硝煙。
状況終了を確認した生徒たちが響かせるリコイル音の中、先生は顔を上げる。
"みんなお疲れ様!今日はこれで終わりだよ。"
「お疲れ様です、先生!」
「ん、教室に戻る。」
「うへぇ〜おじさんはもう動きたくないよ〜」
それぞれ報酬やら戦利品やらを握り締めながら、あるいは早く休みたいとぼやきながら校舎へと帰っていく。
ここはアビドス学区の市街地。日に一度は必ず暴動を始めるヘルメット団をすべて制圧し、今日も疲れたと帰宅を始めるころ。
先生は、常に視界のギリギリ右端に映り込む生徒と、目の前でぐちゃぐちゃの血溜まりになっている生徒を見つめていた。
"…それで、イヌとナゾは戻らないの?"
「いつまで経ってもリスポーンできないのでこのゲームはクリアできません」
「糞珍歩あほあほイヌ野郎がリスポーンしないと私も帰れないから待機中だね」
"そっかぁ…。"
二人の名は変奈イヌと三木下ナゾ。
少し前にアビドス周辺に突然現れた二人は「モロッコ村学園」の出身を名乗っていたがそんな学園は存在せず、しかし身元不明のまま放置するのも忍びないという先生及びアビドス対策委員会の尽力によって、一応はアビドスの生徒として保護?されている。
出自は不明だが実力は確かなもので、イヌはメイン火力、ナゾは後方支援としてアビドスの生徒たちを支えてくれている。
…イヌのおかしな言動については、いろいろと放置されたままだが。
「よしリスポーンすることに成功した」
「これで私たちの家に帰ることができるね」
「おっとその前に戦利品の回収をしなければ」
「戦利品は投稿者のリスポーンが遅すぎて少し前に消滅したね」
「(アンニュイヌ)
なんてことだそんなことをされてしまってはリスポーンしたばかりの投稿者の装備が潤わず金玉や珍棒や酸素の受け渡しを行っている金玉や珍棒や血液の主な循環を担っている金玉や珍棒を守ることができないじゃないか!」
「一応私が回収した分から少しわけることはできるよ」
「あぁ^〜ナゾパイセンのおかげで死ぬことがなくなったぜ」
思えば、不思議なことが一つ。
彼女らは出会ったころから当然のように一緒にいるが、一体いつから二人でいるのだろうか。
もといた学園は"D"という謎の存在によって滅ぼされてしまったらしく、現に彼女らと同じ学園からやってきた生徒を先生は見たことがない。
最悪の場合を考えるならば、その生徒たちは全滅してしまったのだろうか。
そんな胸に痛みを覚えることを考えながら、先生はふたりを見つめる。
「おや先生どうしたんだいまさか投稿者が手に入れた戦利品を欲しがってるんじゃないだろうな仕方ないなぁ見せてやろうほれほれどうだうらやましいだろう欲しいって言ったってあげないよ」
「そんなことは全然なくてアレは私たちの出自について考えている顔だね」
"取ったりしないよ…そしてナゾはなんで私の思考が読めるのかな?"
イヌの暴走に若干呆れつつ、先生はナゾの推測に焦りを覚える。
私そんなに分かりやすかったかな…?などと思案していると、イヌが急に瓦礫の方へと歩き出した。
"イヌ?どこにいくの?"
「あっちによさそうな素材が見えた気がするので回収に向かいます!」
"えぇ…。"
「ああなった投稿者は誰にも止められないね」
"うーん…撤退までには戻るんだよー!"
半ば諦めながらイヌを見送り、それならイヌが戻るまで待とうとその場に座り込む。
するとすぐそばにナゾがぺたっと座ってきた。
"ナゾ?"
「先生が何か言いたげだから聞き出そうと思ってここに座ったね」
"そっ…そうなんだ?"
ナゾの、感情を孕んでいるのかわからない、妙に曇ったようにも見える瞳が自分を見据えていることに気づき、困惑する。
いつもイヌと絡んでいるところしか見ていないため彼がナゾについて知っていることは少ない。
"…うん、聞きたいことは一つ、あったかな。"
この際だし、と腹を括り、兼ねてからの疑問を口にする。
"イヌとナゾは、モロッコ村?学園から来たらしいけど"
"その…学園の他の生徒さんとかはいないの?"
「!」
そう質問した瞬間に、ナゾの体が少し反応したのを感じる。
表情は相変わらず無のままだが、その小さな体躯がさらに小さくなったように思えた。
"ごっ…ごめんナゾ!悪気はないんだけど…!!"
「まぁいずれ話すことになる話ではあったから話すよ」
"あっそうなんだ…?"
「大した話じゃないんだけどね」
そう言って、ナゾは自分とイヌの過去を語りだす。
血と脳漿の臭いが充満する、地獄のような過去を。
まるで、昨日の昼下がりに起きた、なんでもない。
ちょっとした出来事かのように。
☆ ☆ ☆
(パパン!パン!パンパン!!)
(タタタタタタタタタタタタッ!!)
(ダラララララララ………)
(バガァアアアアァァァァァンッッッ!!!)
「うわ今すごい爆発が起きたぞなんだろう投稿者の前方から聞こえた気がしたけど」
「投稿者の耳は今のところ狂ってないから確実に前方だね」
モロッコ村学園改め、Mrokzoleid HighSchool学区内。
突如現れた正体不明の巨大存在に対し、生徒たちは己の武器を手に必死に抵抗している。
銃弾と砲弾が飛び交い、支援を要請する生徒たちの絶叫が響き渡る中、こうした状況に慣れてしまっているイヌとナゾは冷静を保ったまま街中を走り抜けていく。
「いたぞあいつがここを襲撃したやつに違いないしかしデカすぎるぞなんだアレは!!」
「こいつは突如Mrokzoleid HighSchoolに向かって侵攻を始め生徒たちを頃しまくっていることで有名な人間の屑ことD改めデカグラマトン・ビナーだね」
「食らえThrowing Dagger
食らえThrowing Dagger
食らえThrowing Dagger
当たりません
当たっても効き目がありません」
「キヴォトス内にときたま現れるデカグラマトンはちょっとやそっとでは貫けない激硬(げきかたし)装甲を標準装備してるから玻璃の刀程度で倒せるわけがないね」
「くそっここは投稿者の秘密兵器で………」
「イヌちゃん!ナゾちゃん!危ない!!」
(どんっ)
「えぇ?」
突き飛ばされ、本能的にイヌとナゾは自分を突き飛ばした存在の正体を確認する。
赤色の髪に、お気に入りだと言っていた桃色のジャケット。
華奢な手はほのかに桃色に発光しており、それがいつも自分たちを治療していた神秘の光であることに気づく。
二人を突き飛ばしたのは、治療が得意なあの生徒だった。
(ぐちゃ。)
直後、ビナーの嫌になるくらい真っ白な機体が彼女を轢き潰す。
鮮血がその白をちょっとだけ赤色に汚し、伸ばされていた両腕だけがその場に残る。
あたたかな光は、後悔を貪るように1、2回瞬いて消えてしまった。
「…。」
「……。」
「…死んだんじゃないか?」
「よわい」
腕を一瞥し、二人はすぐに白影を追いかける。
その手にいつも通りの装備を持って。
☆ ☆ ☆
"…………。"
「その後もDの攻撃でモロッコ村学園の生徒は私たち以外全滅したね」
"……………。"
あまりの悲惨さに、先生はなかなか言葉を紡ぐことができなかった。
連邦生徒会や他の学校の支援も望めない中で、自分たちだけで戦い、無惨にも命を落としてしまった生徒たち。
そして、そんな過去を背負いながらも、今日も元気に任務をこなし、曲がりなりにもアビドスの生徒たちと楽しげに生活しているイヌとナゾ。
そんな二人の現状に、そうと気づかず二人と接していた自分の察しの悪さに。
彼は、嫌気が、さして…………
「でもまぁ、あれは絶対にいなくならないからね」
"え?"
突然ナゾが口にした言葉。
耳に響くその言葉は、ほのかな温かみを持っていた。
絶対に、いなくならない。
ナゾがイヌに寄せている絶対の信頼。その一端を垣間見て、先生の思考が止まる。
"いなくならないって、どういう…。"
「ほら今戻ってきたし」
「今戻ったぞナゾと先生あれ何でそんなとこで座り込んでるんだ?」
「撤退時間はとうに過ぎてるね」
「やっべぇ先生から言われたこと忘れてた」
「記憶喪失ですか?😅😅😅」
「何だとぅこれを見てみろヘルメット団が持ってた保存食のキャロリーメイトだぞ」
「よこせ」
「は?」
素材調達も終わったのか戻ってきたイヌに、いつも通りナゾは罵倒を投げかける。
イヌはその罵倒に若干しかめっ面しながらも、すぐに戦利品を取り出し振り回している。
(あぁ、そうか。)
その様子を見て、ようやく先生は気づく。
(たとえ悲惨な過去があったとしても。
きっとイヌとナゾは、このまま変わらずにいると決めたんだろう。)
そう、どんなことがあっても。
二人の絆は、きっと変わらない。
この先も、きっと。
ずっとずっと、変わらないままで。
"よし!帰ろう!!"