三帝同盟(上)

三帝同盟(上)


海軍本部


海賊にかかる懸賞金額の選定と人選。

真面目な話であるはずだが毎度この会議を主導するブランニュー准将の語り方は、

まるで芝居のようであり、これを聞くのを楽しみにする将校は意外と多い。


ブランニュー准将本人の気質もあるが、深刻な問題に対してユーモアな口調で語る才能があった。


しかし、今日この日。

会議室に入った時から緊張感が漂っていた。

元帥や大目付、大将がいたのに加え――――ブランニュー准将が深刻な表情を浮かべていた。


「皆さん、お揃いのようですね・・・では始めます。

 知っての通りワノ国にて、”ビッグ・マム”シャーロット・リンリンと”百獣”のカイドウが撃破されました。

 四人の内二名、しかもどちらも武闘派で知られる凶悪な海賊団が倒された事実!!

 これを機に我々は新たな皇帝・・・それだけでなく、三人の皇帝が手を結ぶ三帝同盟が成立する可能性を提示します!!!」


会議開始から投げ出された爆弾発言にどよめきの声が上がった。


「なっ・・・!!?海の皇帝達の同盟だと!!しかも四人の内三人が!!?」


「馬鹿な!海賊といえば互いにいがみ合うのが常識だ!

 それを利用する事で長年海の平和と均衡が保たれて来たというのに・・・!!」


「ありえない!海賊だぞ!親子でも殺し合う海賊だぞ!」


この場にいるのは皆歴戦の将校。

海賊の暴力、暴行、略奪の凄まじさを間近で見続けた者たちだ。

自由と仁義を口にしつつ、裏切りと陰謀を平然と企む連中であるのをよく知っていた。


「疑問はもっともです、しかし今は違います!

 新たに皇帝として君臨する”麦わらのウタ”

 彼女の存在がその可能性を示唆しています!」


麦わら帽子を被った紅白髪の少女が映し出される。

以前の懸賞金額の選定時よりもどことなく大人の色気を帯びている。


「ご存じですが”麦わらのウタ”は”赤髪のシャンクス”の娘!!

 親子関係があり、例え親子でも殺し合う海賊の世界において例外的にその仲は良好です。

 その証拠にこれまで父が率いる海賊団とは一度も矛を交えた事がありません!!」


”麦わらのウタ”の名は様々な意味で有名であり異質である。

ようやく二十歳を過ぎたばかりの、未だ少女の面影を色濃く残している女性だが、

彼女と彼女の仲間が発生させた数々の事件は将校たちに対して強烈な印象を残していた。


また、民間人から略奪行為はせず航路の道中でライブをしているだけと思いきや、

政府や海軍に一切の躊躇なく逆らう凶悪な面を持ちつつ、力亡き者たちを助けるお人好しであるのを知られていた。


「言われてみれば、頂上戦争では娘を助けに来たくらいだったな・・・」

「だがもう一人は?相手は誰だ?」


これまでの事件を振り返って納得するが、

たかだが二十歳程度の小娘が海の皇帝に君臨した事実に驚愕し、どよめく。


「もう一人は”千両道化のバギー”です!」


「バギーだと!?あの道化の?

 ”赤髪のシャンクス”と兄弟分とはいえ何故・・・?」


続けて道化師姿の海賊が画面に映し出される。

俗に”生きる伝説”と言える程度に修羅場を潜り抜けた経歴の持ち主だが、

それ以上に”信じられない”という感情が先立ち、ざわめく。


「おっしゃる通りです。

 ”千両道化のバギー”と”赤髪のシャンクス”は互いを意識している。

 すなわち、同じ海賊としてライバル関係にあるため手を結ぶ事は絶対ありません。

 で・す・が、ここで”麦わらのウタ”彼女がその間に挟まれば手を結ぶ可能性が高まります!」


「いがみ合う相手でも、間を挟めば・・・ありうるな」


徐々に事態の深刻さと”ありうる話”にうめき声が漏れる。


「加えて”千両道化のバギー”と”麦わらのウタ”の関係は、

 諜報によれば”まるで親戚の叔父と娘”のように親しい間柄にあります!

 彼の配下にいる海賊団も”麦わらのウタ”を熱狂的に支持する声が非常に大きいです!!」


止め、ダメ押しとばかりに仮定を裏付ける”事実”が提示される。

海軍にとって最悪な可能性、聞いている人間の顔は青い。


「さらにさらに、都合が良いことに”同盟の敵”がいます!そう”黒ひげ”です!

 彼は”白ひげ”を裏切り、その能力を奪い、領土を奪い取りました。

 ”赤髪のシャンクス”は仁義の点で決して彼を許すことはないでしょう。

 ”千両道化のバギー”は”白ひげ”の首を横取りした点で相いれないでしょう。

 ”麦わらのウタ”はその残虐な振る舞いを決して見過ごさない――――そう我々は考えます」


一気に語り終えたブランニュー准将。

この時点で四皇の内、三人が同盟を結ぶ可能性について、

誰も疑問を抱かなくなり、誰もが今までの海賊とは違う新時代の幕開けを予感させた。

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