三人称改稿案2-4

三人称改稿案2-4

でゅらはん

第弐話 嘘の夢 指折り数えて 待ち続け




「うぐっ……!?」


再びログインした零門の目の前にはさっきの姿見。直視しないように即座に後ろを振り返る。


「ひとまず、この姿をどうにかしなきゃ……って声高いな……」


アバターは中学時代ベース。つまり再現される声帯も中学生のそれである。零門はなるべく声を低めに抑えながら話すことに決めた


「まずこの見た目をどうにかしなきゃ……」


アバターの体形に関してはおいそれと変更することはできない。だが、装備に関しては変更できると零門は踏んでいた。しかし、復帰したてで右も左も分からない状態。それに対する救済措置はゲーム側からすでに準備されてある。


このゲームには膨大かつ複雑なUI補助のために全プレイヤーそれぞれに独自のガイド妖精(正式名称:MENU)が存在しているのだ。MENUにはプレイヤーそれぞれが自身で命名した名前があり、名前を口にすることで呼び出すことができる。肝心の名前、それはパッケージの中にソフトと共に入れられていたメモに書かれてあった。「未来の私へ。今度こそ大切にしてあげて」という言葉と共に。


「来て、|嘘夢《ライム》」


その名前に零門は頭を抱えた。自分の名前のみならずMENUにもそんな名前を付けていたという事実に。



―――Calling……Calling……



名前を呼んでおよそ2秒、零門の目の前に小さな魔法陣が描かれ、中から紫色の髪をした妖精がひょっこりと顔を出した。


「……」


紫髪のゴスロリ姿のガイド妖精――|嘘夢《ライム》はキョトンとした顔で零門を見つめる。まるでフリーズしたかのように。


「……」


「……」


「こんにちは。ライム」


零門は少し気まずそうに挨拶をした。それを受けた嘘夢の目が段々と潤んでいく。


「れ、零門様……? 零門様ですのよ…ね……?」


まるで目の前の光景が信じられないかのような、ほんの僅かな希望に縋るかのような、そんな顔、そんな声音。


「そうだよ。ひさしぶッ!?」


零門が「久しぶりだね」の一言も言い終わらないうちに嘘夢が大の字姿で私の顔面に抱きついた。零門の顔面にひしと抱きついたまま嘘夢はワンワンと泣き喚く。


「あぁ~ん! 零門様ぁ~! ライムは信じてましたのよぉ~! いつかまた逢える日が来るってぇ~!」


「もごごご」


「零門様を待ち焦がれて幾星霜。ライムはずっとずっとずぅ~~~っと待っておりましたのよぉ~! またお会いできて嬉しいですのよぉ~!」


「もご……っ! とりあえず一旦顔から離れて! お願い!」


零門は嘘夢の熱烈なハグをどうにか引きはがし声をあげると「あら、ごめんなさいまし!」の言葉と共に嘘夢は距離をとった。その瞳がまだ少し潤んでいるのが零門には確認できる。


「ライムは零門様とお会いできた喜びでついついはしたないことをしてしまいましたのよぉ……」


手のひらサイズの小さな妖精は、その小さな手で小さな顔を覆いクイクイと体を揺らす。その様子を見ながら零門は伝えるべき言葉を口にした。


「……ごめんね。」


「もう離れないと誓ってくださいますのよ……?」


「え、いや……それは……」


「誓ってくださいますのよ……?」


ズイッと近づいてきた嘘夢に零門は少し目を反らす。

実際のところ、零門もとい柚葉はこのゲームを続けるかについては消極的だった。あくまで今日ログインしたのは親友との約束のためであり、自分から進んで復帰しようと決めたわけではないからだ。慣れない一人暮らしと大学生活との兼ね合いを考えれば、時間と金の消費が膨大なMMOを続けるのはリスクが大きい。


「誓ってくださいますのよ……?」


「~~~ッ!」


嘘夢はもう一度迫る。その目はうるうると輝き、今にも涙が零れんばかりだ。サービス開始から7年超、様々なユーザーの引退を引き留めてきた運営の奥の手である。無論、それでとどまらなかったユーザーも数知れずではあるのだが。


「と、とりあえずそうならないためにあなたを呼び出したの!」


「そうでございますのね! ライムは零門様のためなら何でもやってみせますのよ!」


苦し紛れの応答で零門は返事を保留する。そんな応答にもかかわらず、嘘夢は嬉しそうに零門の周囲をくるくると回って喜びを表現した。


~~~~~~~~~~


「さて、なんなりとお申し付けを。それがあなた方“お墨付き”に仕えるMENUの務めですのよ」


そんな台詞と共に嘘夢は胸に手を当てフフンと鼻を鳴らす。


「うん。それじゃ私の種族と装備のデータをお願い」


「わかりましたのよ! ローディンローディン……」


独特な呪文……というよりもLoadingな文言と共に表示用のウィンドウが構築されていく。


MENU……すなわちメニュー。つまりはこの妖精たちがいわゆるゲームにおける「メニュー画面」なのである。アイテム使用や装備の変更、情報確認にログアウト、各種設定のカスタマイズetc……といったRPGにおけるメニュー操作はほぼ全てこのMENUを通して行う。世界観とゲーム的都合のすり合わせの結果このような形となったのだ。


「ローディンローディン……出ましたのよ!」


――――――――――


Player Name:|零門《レモン》

Level:200


―――


States[-]

HP:480 / MP:2541

ATK:8325 / DEF:825

MAT:7631 / MDE:965

AGI:1663 / DEX:23 / LUK:-190


―――


Species[-]

半魔

(種族補正値)

 HP:0.8 / MP:1.25 

 ATK:1.25 / DEF:1.0 

 MAT:1.25 / MDE:1.0 

 AGI:1.2 / DEX:0.75 / LUK:0.5

(その他補正)

世界の忌子(NPCの初期好感度:最低)

出来損ない(モンスターからのヘイト:最大)

原初魔法適性:◎/理論魔法適性:△


―――


Job[-]

アサシン(破門)

 HP:1.0 / MP:1.0 

 ATK:1.2 / DEF:1.0 

 MAT:1.1 / MDE:1.0 

 AGI:1.2 / DEX:1.2 / LUK:1.0

(その他補正)

破門(ジョブの特殊補正を受けられない)


―――


Equipment[-]


Weapon(R):戦女神の涙痕【憂】

 Accessory Slot(1):---


Weapon(L):戦女神の涙痕【嗟】

 Accessory Slot(1):---


Hed:凶星の眼帯〔呪〕

 Accessory Slot(1):神害の紋様〔呪〕


Torso:エグリゴリ・ケージ〔呪〕

 Accessory Slot(1):シンズスカーフ〔呪〕

 Accessory Slot(2):---


Arm:雷獣の封帯〔呪〕

 Accessory Slot(1):黒金剛の指輪

 Accessory Slot(1):黒金剛の指輪


Waist:鈍蛇のベルト〔呪〕

 Accessory Slot(3):---


Leg:ムスペル・グリーヴ〔呪〕

 Accessory Slot(2):呪縛の黒鎖〔呪〕


――――――――――


「……なんで全身の防具が呪われてるの?」


様々な疑問が脳裏に浮かぶ中、零門が一番に選んだのはそれだった。


「呪いの装備は外せない代わりにとても強力な力を秘めてますのよ! それに全身を呪いの装備で統一することによって『呪いの寵児』や『兇運』といった強力なパッシブスキルも発動されますのよ! とてもロックで素敵ですのよ」


「いやいや、そんな歌舞いたこともうするつもりないから。この見た目も大半は装備が原因なんだから着替えれば……」


[この装備は呪われているため装備解除できません]

[この装備は呪われているため装備解除できません]

[この装備は呪われているため装備解除できません]

[この装備は呪われているため装備解除できません]

[この装備は呪われているため装備解除できません]


「~~~ッ!」


五重に表示された無慈悲なウィンドウを前に零門は絶句する。しかし、そこはRPG。きちんと救済措置は準備されているものであり、零門は当然それに縋る。


「……ねえライム、呪いの解除ってどうすればいいの? やっぱり王道の教会?」


「もちろんですのよ。呪いの解除は教会の役目ですのよ。でも零門様は……」


「よし! 早速教会まで行くよ! ライム、案内お願い!」


なお、数分後に零門はこの選択を後悔することになる。



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第参話 いるだけで 世界に人に 嫌われて




「ああ! なんと禍々しく罪深い姿か!」


零門が解呪のために協会に入った瞬間、神父は無慈悲にも門前払いを告げた。


「半魔よ! 半魔が来たわ!」

「ああ、神よ! この地に災いが降りかかるというのですか!?」


続けて二人のシスターも零門に対して拒絶の意を示した。


「あの、解呪してほしいんですけど……」


拒絶の言葉にめげず、零門は交渉を試みる。だがそんなことを聞き入れてくれるはずもなく……


「貴様に与える神の施しはない!」

「呪わしい!」

「汚らわしい!」


「そ、そんなことは言わずせめてお話だけでも……」


尚もあきらめない零門に対し、神父たちは教壇に陣取り音頭を取った。


「貴様らは悪魔から産み出されし禁断の忌子! 存在自体が呪われておるのだ! 去らぬというのなら実力行使あるのみ! ゆくぞ! シスター達」


「「はい!」」


横並びに陣取った三人はそれぞれ大きく振りかぶり、零門へと渾身の一撃を見舞う。


「清めの塩ォーッ!」

「聖なる聖水ィーッ!」

「破魔の魔石ィーッ!」


~~~~~~~~~~


「しょっぱい……」


「零門様、そんなに気を落とさないでくださいまし」


「うん……大丈夫……」


清めの塩(塩)、聖なる聖水(塩水)、破魔の魔石(岩塩)による文字通りの塩対応。「呪いの装備を解除してもらおう作戦」は見事に瓦解した。


「はてさてどうしたものか……」


「見た目を変えたいのならアクセサリーもおすすめですのよ!」


「それだ!」

 

そう、このゲームのアクセサリーはプレイヤーの見た目にも干渉する仕様なのである。マントや外套といった大きめのアクセサリーであれば

無論「マントの下は下着」だとか「コートの下は下着」だとかいう服装は変態のそれに変わりはないのだが、零門は完全にそのことを失念している。そもそも……


「というわけで装備屋に行くよ! ライム、案内お願い!」


協会で拒絶されたほどの人間が一般的な店で受け入れられるなどという甘い幻想を持つのが間違いなのである。


~~~~~~~~~~



・一軒目


「半魔なんてお呼びじゃねぇんだよ! あっち行け!」



~~~~~~~~~~



・二軒目


「今日はもう閉店だよ! 半魔なんかにウチの大事な商品は売れないね!」



~~~~~~~~~~



・三軒目


「去れィッ! さもなくば貴様を武器の素材にしてくれるッ!」



~~~~~~~~~~



・四軒目


「そのがまがましいすがた! おまえ、はんまだな! えほんでよんだぞ! やっつけてやる!」


「おい! マルコ! 止めるんだ! その人に近づくんじゃない!」


「お願いします! 私たちはどうなっても構いません! 店の商品も全部差し上げます! だからあの子だけは見逃してください! マルコは私たち夫婦の大事な宝物なんです!」



~~~~~~~~~~



「私だって好きでこんな姿してるんじゃないのにぃ~!」


人気のない裏路地、零門の叫びが木霊する。ある種当然としか言えない結果ではあったが、それでも零門は叫ばずにはいられなかった。


「そう落ち込まないでくださいまし。零門様」


「う、うん……大丈夫……ありがと、ライム」


「恐縮ですのよ! 零門様!」


「マルコ君かわいかったな……ご両親の事あんなに大切に想ってるんだ。泣きながら私に立ち向かってきたんだよ。すごく良い子だよ。良い子。ご両親もマルコ君をすごく大事にしてるのが伝わってきて…感動の親子愛になんかジーンと来ちゃったよ。でも悪者は私だよ。心が痛いよ」


ブツブツと呟きながら零門は項垂れた。


「はぁ~……泣きたい」


「零門様……」


「大丈夫、大丈夫……泣き言は二言までで終わらせるから……ふぅ……」


二言どころではない泣き言で何とか心を落ち着いたのか、再び状況の把握に乗り出した。教会で解呪はダメ、装備屋でアクセサリーを買うのもダメ。それならばどうするべきか。


「そういえば焦ってスルーしてたけどみんな気になること言ってたな……ライム、『半魔』についての詳細情報をお願い」


「了解ですのよ! ローディンローディン……」


――――――――――


【半魔】

半魔はヒューマンと悪魔の契約により産み出された世界の忌子です。

悪魔との契約で生み出されたが故に神の寵愛を半分しか与えられず、またその多くは親の愛を知らないまま育ちます。


人からは忌子、魔族からは出来損ないとして忌避されるため人間社会や群れといった正規のコミュニティに居場所がありません。裏社会に身を投じるか誰とも何とも関わらずに一人彷徨う者が大半を占めます。


故に暴走する者も数多く存在し、半魔による災いは世界各地で確認され深刻な問題となっています。


[種族補正]

MP,ATK,MAT:25%Up / AGI:20%Up / HP:20%Down / DEX:25%Down / LUK:50%Down

世界の忌子(NPCの初期好感度:最低)

出来損ない(モンスターからのヘイト:最大)

声なき者の声(モンスターが何を考えているか分かる時がある)

原初魔法適性:◎/理論魔法適性:△


――――――――――


そう、これが零門がNPC達から拒絶されていた原因であり、ついでに言うとNPCからチラチラと目線を集めていた理由である。変態チックな見た目が問題ではないのだ。そもそもNPCは見た目でプレイヤーを差別はしないため、零門の懸念はある意味自意識過剰であるともいえた。


このゲームにおけるNPCとの交流は「好感度システム」によって左右される。好感度が底辺の状態だと、店で買い物ができず、教会では相手にされず、宿屋にも泊めてもらえないのだ。マナーの悪いプレイヤーに対する罰則的な意味合いもあるが、フレーバー再現のため半魔にも同レベルの措置がなされている。

余談だが宿屋で眠れないと臨時セーブしかできないため救済措置として町のすぐ外で野宿することが許される。零門がログイン時に町の外にいたのはそのためだ。


「フレーバーに力入ってる作品は嫌いじゃないんだけどなぁ……今はそれが恨めしい……」


ゲーム的都合と世界観の表現にはどうしても相いれない要素というのが発生するのが常である。今の零門は世界観の表現のせいで不憫な目に遭っているといえるだろう。そしてこの状況を打開するヒントも世界観の中にあった。そう、今零門が開いている半魔のフレーバーテキストの中にだ。


「ライム、この街の裏社会にコンタクトとれる場所は?」


「ローディンローディン……表示しましたのよ!」


目の前のマップに赤いマークが表示される。


「よし、行くよライム!」


「いいですのよ? こういう場所は危険がいっぱいですのよ!」


「大丈夫! 私を信じて!」


その言葉と共に零門は駆けだすのだった。



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第肆話 瞬く間に 裏の社会を 駆け上がれ



オルタナティブ・ワールド・コーリングは、|基《・》|本《・》|的《・》|に《・》街の中で武器を振るったり魔法を唱えたりすることはできない。


「基本的に」と前置いたのは、例外的に武器や魔法を使う特殊な場面があったり、武器や魔法を扱える場所が存在するからだ。前者は割愛させてもらうとして、後者はどんな場所が当てはまるのか?


例えば、修練場。

新人から廃人まで様々なプレイヤーたちが集い武器や魔法、スキルの練習を行う場所。ダメージ数値の可視化、HPやMPや装備の耐久値といった数値の消耗は0、弓矢等の遠距離武器の残弾数は無限、リキャストタイムは自由に設定可能等々、差し支えなく練習ができるよう特殊な調整がなされている。


例えば、闘技場。

プレイヤー、NPC、モンスターを問わず多くの腕自慢が集い競い合う場。開催される大会に応じて魔法禁止やスキル禁止や武器種限定等といった制限を適用でき、フィールド内のオブジェクトもある程度自由に配置することが可能となっている。



そして零門が現在進んでいる裏路地。

不良、荒くれ者、盗賊、犯罪者といった表社会からのあぶれ者が集った裏社会の入り口。十歩歩けばアウトロー達(※モンスター扱い)が飛び出してくるこの場所は、システム上ちょっとエンカウント率高めな事以外は外のフィールドと同等の処理がなされている。


==========


Aさん「金を寄こしなァ!」

Bさん「ブッ飛ばすぞテメェ!」

Cさん「歯向かってんじゃねぇぞコラァ!」


三者三葉、それでいてどこか似通った雰囲気と言動の荒くれ者ABCが零門へと襲い掛かる。


「ふぅー……ッ!」


零門は一息入れて両手に武器(短剣)を展開、そのまま真っ直ぐ荒くれ者たちへと突っ込み、瞬く間に先頭のAの懐へ。


「あなた達に用はないから」


Aを切り刻み、続くBを回し蹴りで壁に叩き付ける。残ったCをハイキックで空高く蹴り上げればそれで終了。荒くれ者3名は仲良くそろって気絶する。


「お見事ですのよ! 零門様!」


「はいはい。ありがと」


「気絶」とはいっても経験値やドロップアイテムは入手でき、プレイヤーが目を離せば姿が消える。倫理的な観点で人型Mobを殺せないというだけであり、扱いはモンスターを倒すのとそう変わらないのだ。


「さて、ターゲットはここだよね?」


「そうですのよ! 来ますのよ!」


直後、物陰から大きな影が飛び出し、零門の前に立ちはだかった。


「俺様は『剛腕のゴンザレス』様だァ! 俺様に何の用だァ?」


剛腕のゴンザレス……狭い裏路地に似つかわしくない巨漢であり、縦は零門の2倍、横は零門の3倍超、そして剛腕の名に相応しく片腕だけで零門一人分の大きさを誇る。


「ちょっと野暮用でね。ぶっ飛ばしに来ました」


「上等だァ!」


突撃する零門に対し、ゴンザレスが己の身の丈程もある大剣を豪快に振り下ろす。それを横に回避しすれ違いざまに切り刻む。


「フンッ!」

「よっと!」


続く横薙ぎの大振りをジャンプで回避。両手の短剣を装備解除し、代わりに黒い大剣を展開。空中で大上段に構え言い放つ。


「ごめんだけど、あと二人残ってるの。さっさと終わりにさせてもらうよ!」


零門の両腕と大剣が白い光を帯びる。零門の視界にはゴンザレスの額から股下までを両断する白い線が表示されている。スキルの発動指示線だ。スキルの発動を選択するとこの線が表示され、線の指示に従って攻撃することによってスキルが発動する仕組みとなっている。


零門は指示通りにゴンザレスの額から股下までを大剣で斬り下ろした。直後、ゴンザレスの身体を両断するかのように光が迸る。スキルの成功判定による追加ダメージ炸裂のエフェクトである。大剣の攻撃そのもののダメージとスキル成功による追加ダメージは瞬く間にゴンザレスのHPを削り切った。


音もなく倒れ気絶したゴンザレスを傍目に、零門は武道をやってた時の癖で残身をきめる。そしてぽつりと呟いた。



「あれ? おかしいな……? オルワコって剣と魔法の王道ファンタジーの世界観じゃなかったっけ? なんで私は路地裏クライムアクションを……!?」


それを知るには時を5分ほど遡る必要がある。


~~~~~~~~~~



「おやおや、半魔のお嬢ちゃんがお客さんとは珍しいさね。こんな寂れた露店に何の用さね?」


マップに示された赤いマーク。零門がそこで見つけたのは襤褸布を纏いカーペットの上にいくつか怪しげな品を並べている露天商らしき老婆だった。


「寂れた露店……ね……」


「ウチは裏の店さね。寂れちゃいるが表じゃ出回らないブツも取り揃えてるさね。」


このゲームの裏の店は普通の道具屋と比べると値は張るが表では取り扱わない珍しい品を取り扱っていたり、表社会では入店拒否される訳アリでも取引ができる。フレーバー再現の意味合いが強いが、零門のようなプレイヤーの救済も兼ねていた。


「何をお求めさね?」


「何か素性を隠せるものが欲しい」


「おやおや……? これまた訳アリ中の訳アリさねぇ……そんなアンタにゃこれがオススメさね」


老婆は懐から何やら包みのようなものを取り出す。


「『|偽装外皮《フェイクスキン》』。纏えば素性も種族も偽れる優れものさね」


「これ売ってくださ……」


「だが売らんさね」


「ありが……え?」


混乱する零門をよそに、老婆はヒョイと包みを懐に戻しながらこう告げる。


「裏の世界は信用第一! どこの馬の骨とも知れない小娘に商品は売れんさね。アンタに売れるのはせいぜい薬草くらいさね」


そう言いながら老婆が叩き付けたのは相場と比べて3倍高い薬草。


「はあ? それじゃどうすれば……」


「ぱんぱかぱーん! クエスト発生! ですのよ!」


「クエスト発生!?」


嘘夢がクエスト発生のアナウンスを告げる。それに続くかのように老婆は語りだした。


「ブツを売ってほしいのなら信用、信用が欲しいなら自分の力を証明して見せるさね!」


そう言いながら老婆は零門の前に三枚の手配書を突き付ける。


「『剛腕のゴンザレス』『猛毒のジョニー』『業火のオスカー』……この街の裏社会で悪名を轟かす三人さね。コイツらを倒せば売ってやらんこともないさね」


「……なるほど……そういうことね。大体理解した」


先述した通り、このゲームにおけるNPCとの交流は「好感度システム」によって左右される。好感度が底辺なら取り合って貰えないことは先述した通り。では逆に好感度が上がればどうなるか? アイテムをくれたり、売ってもらえる品が増えたり、割引してくれたり……そういった優遇措置が受けられるという寸法である。ここのところフラグ外しまくりの零門も大方その仕様をゲーマーの勘で察した。


「受けて立とうじゃない! ライム、クエスト受注お願い!」


「了解ですのよ! クエスト『裏社会を駆け上がれ』受注ですのよ!」


「ケッケッケ! アンタがどれだけやれるか楽しみにしてるさね!」



~~~~~そして現在~~~~~



「ヒャッハァー! 俺は『猛毒のジョニー』! お嬢ちゃん! ここは君みたいなカワイコちゃんが来るとこじゃないぜェ?」


「お褒めの言葉ありがとう」


緑色の舌でナイフを舐め回しながら零門に忠告(?)してきたのは第二のターゲット『猛毒のジョニー』。筋肉隆々の巨漢だったゴンザレスとは打って変わって、筋や肋が目立つ長身痩躯の不気味な男だ。しかも誰かさんのように怪しげなタトゥーを全身にいくつも刻んでいる。


「なんか気に食わないなッ!」

「ヒャハァ!」


ジョニーは零門の先制攻撃を仰け反り気味に回避。ステップで距離を離すと同時に毒針を吹き放つ。零門が毒針の回避した先には投げナイフ、それを弾いた隙を突くようにジョニーが飛び掛かる。


「チッ! 厄介な……!」


零門はジョニーの腹を蹴った勢いのまま後方へ跳び、ジョニーが至近距離へ放った毒霧から辛くも逃れる。毒攻撃、遠距離攻撃、そして見た目通りの素早さが武器のトリッキータイプと零門は分析した。


「時間があれば鬼ごっこに付き合ってあげてもいいんだけどね……!」


しかし今の零門は急ぎの用事の最中であり、のんきにスピード勝負に乗る余裕はなかった。故に……


「凍てつけ!」


その言葉と共に振りかざした零門の右手から放たれたのは白い冷気! 放たれた冷気は瞬く間に裏路地を氷の世界へと変え、逃げるジョニーの足を捕らえ釘付けにする!


これがこのゲームの魔法であり、厳密に言えば半魔の魔法だ。


「二人目……!」


釘付け状態のジョニーの首を|赤い光《スキルエフェクト》が一閃! 納刀と同時にジョニーは気絶!


「完っ了~!」


~~~~~~~~~~


「俺様は『業火のオスカー』! 俺様の魔法でテメェを消し炭にしてやらァ!」


野蛮!粗暴!野卑!暴虐! おおよそ魔法使いに似つかわしくない暴漢『業火のオスカー』が髑髏の杖を構える! その杖の先には人一人包み込めそうなほどに巨大な火球!


「いいね。それじゃ火力勝負といこう!」


掲げた零門の右腕が地面をも焼き焦がさんばかりに赤熱を放つ! |込めた魔力《消費MP》に応じて威力と範囲が増すのが半魔の魔法の特性!


「フレイムスフィア!」

「燃やせ!」


右腕から放たれた火炎の渦は|火属性中級魔法《フレイムスフィア》を呑み込みオスカーを呑み込み裏路地を真っ赤な灼熱地獄に染め上げる! 火炎が止んだ跡には黒焦げ状態で気絶したオスカーが! あくまで気絶!


「全員倒しましたのよ! 流石ですのよ零門様!」


「よし! ライム、あの露店まで案内お願い!(道忘れた)」


「了解ですのよ!」


~~~~~~~~~~


「おやおや。予想してたよりもずっと早かったさね。これは驚きさね」


「これで売ってくれるよね?」


零門はせっつく。そんな零門に対し、老婆は一本指を突き付けて静止を促した。


「ふむ……もう一つ条件があるさね」


「えぇ~~~!」


「アンタは強い。実力は認めてやるさね。だが態度が気に食わないさね。調子に乗ってるさね。故に……」










「アタシが直々にアンタを叩き潰してやるさね!」

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