一触即発、旋回せし暴角と空を裂く流星

一触即発、旋回せし暴角と空を裂く流星

REGION





 とある島国の話をしよう。


その島では、サボテンが培養されており、食べれば不老を得る、国を転覆させるくらいの一時的な力を持つことができるなど様々な噂が立つほどに力強く育っているそうな。


……しかし、そのサボテンはあまり流通はされておらず一部の上流貴族…或いは強者のみにしかお目にかかれないという。

それは何故か?・・・理由は至極単純である。


そのサボテンにはサボテンを守る番人がいるからだ。


近くの大国では、“砂塵の悪魔”という名称で畏怖されおり。

近場に居る海賊たちが曰く、大地を揺るがす“砂中の巨影”がいると酒の肴で噂をするほどに有名な話である。


しかし、そこまで知名度があるにも関わらず姿・形など正体に関する情報は何一つ掴めていない。


とある、生還した者が語るには、砂漠の中で地中を潜る暴角を見たというが───


◇◆◇◆◇◆◇◆


「───長い。」


 そう言って、金眼を曇らせながら【裂空】の名を冠する海賊船長、セピアは金眼を曇らし、腕を能力で変化させて話を遮った。

 すると部下達は慣れた様子で手を空に置き『やめてください、姉御』と言いつつ、暴れ牛を宥めるかの様に腕を動かす。


「文句はなしでっせ。これは俺たちが姉御の退屈を紛らせようと血眼になって探し集めた情報なんで、無碍にはしないでくだせぇ。」


「……わかってるって。つまりお前らの話を要約すると、この島にいる悪魔ってのは、サボテンを愛していて、年中砂遊びしている摩訶不思議な生物ってわけだ。」

 腕の能力を解除しながら、私は口を尖らせ多少不満気に応える。

 私たち、千塵海賊団はこの島に入り砂原を越え、町や国、食糧を見つけたは良いものの、なんとなく面白い物がなかった。

そこで、私は部下達に『何か面白そうな話を持ってこい!』と要望を出した。


 そうして部下が持って来たのは、噂混じりの得体知れないのサボテンと、お伽噺の様な怪物の話だったわけだ。

 正直言って全く興味をそそられない訳じゃ無い。…が守っているものが秘宝や珍しい武器でもなく“ただのサボテン”では行く意味を見出せない。


「まぁ、それは良いとして。どうして今、こんなに人数が少ないんだ?…まさか、酒場で情報収集という名のナンパをしてる訳じゃ無いだろうなァ?」


 やれやれとでも言いたげな表情をしている部下達を、顔を引っ叩くかの様に言葉を投げつける。ただでさえ少ない船員が半数くらいになっているのだ、何か私に隠し事をして何かしているに違いない。

私はそう考えるが…


「あぁ、それは。姉貴の為に伝説のサボテンを入手しようと一部、採取しに出かけてるからでっせ。……そう言えば、もうすぐ帰って来そうな時間なんですがね。」

「……ふ〜ん」


これまた拍子抜けした答えが部下達から返ってきた。

 何だつまらない。酒にしろ、異性関連にしろ暴動さえ起これば多少は面白い事が起きそうだったのに。そう思い、外の景色を見つめる。

 外は相変わらず砂色の地面が広がっており、面白そうな事は一つも起こりそうも無い。強いて言うなら、遠くの方で黄砂が吹き荒れていることくらいで・・・・・ん?


 黄砂が吹き荒れている所を少し凝視した後、私はキャハッと小さく声を上げ、口を獰猛に歪めながら徐に外へと歩いていく。…どうやら今日は幸運に恵まれているらしい。


「姉御、何処へ?」


「ん?…あぁ、そのサボテン採取チームを散歩がてらに探しに行くだけさ。」


─────ちょうど良い退屈凌ぎにもなりそうだし?

そう部下に言い残すと、能力で姿を変化させ目的の場所まで全速力で向かっていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 見積もりが甘かった…。

希少なサボテンを採取しようとした部下達はあの”悪魔“の事を思い返しながら、逃走をしていた。


 最初はサボテンが生えている所に行って、もしも噂の”悪魔“に出会ったら、武器で追い払ったり環境を利用して逃げ去ったりして入手しようとする魂胆であった。

『所詮は尾鰭と背鰭のついた唯のデカい土竜であろう。』とこの時はそう勢い付いて目的地まで向かっていた。


 しかしながら、その作戦は失敗した。武具不足?情報不足による計画破綻?

無論両方正解だ、爆薬はあの怪物に食らわせても傷ひとつすら付けらず目眩し程度にしかならなかったし、手持ちの武器は奴の重厚な外殻に弾かれ傷ひとつもつけられなかった。

……問題は後者だ。

武器が効かないならばと、俺たちは砂漠の至る所にある巨大な『蟻塚』を利用して悪魔を砂地獄に落とそうと考えた。しかし、悪魔はそれを分かっているかのように尻尾で岩を飛ばして蟻塚から離れさせたり、意図的に流砂を発生させてもそれを跳んだり迂回されたりなどまるでこの土地を熟知しているかの様な動きをしていた。


─────まるで奴は“人間並の知性“があるとでも示すかの様に。


 つくづく哀れだと、振り返りながら自らを嘲笑する。

こんな事があるなら素直に姉御の元に帰っていれば良かった。

 しかし、もうどれだけ悔いようとも後の祭りであった。

…それを証明するかのように地面を掻き分ける轟音が直ぐ後ろまで来ている。後十数秒もしない内に自分達も他の者と同じように、あの“暴角”の餌食になる。後五秒…3…1……っ!‼︎


………?

 しかし、いつまで経っても想像通りの現実は来ず、代わりに“シュババッ!”と景気良く地面に突き刺さる鱗の音が彼らの耳に響いた。

…その音は彼らがよく身近に感じている音だ。


 それは、触れれば簡単に炸裂し敵を広範囲で裂傷させる下手な妖刀より危険な鱗。しかも、この鱗を持つ者はその鱗を千を有すると言われる幻の様な竜の姿をしていると言う、ゾオン系“幻獣種”の能力者───


「よぉ、お前ら。帰りが遅いと思ったら、私を抜いてなに面白そうな事をしてんだァ?」

───煌めく刃鱗を備え、鋭く強靭な鉤爪を持った竜人姿の”姉御(セピア)“が太陽を背にして羽ばたいていた。



 空を駆けて三十分近くの所に部下達はいた。『2本の角』とハンマーみたいな尻尾が生えた大型のトカゲを連れて。

恐らくアイツが”砂塵の悪魔“であろう。そう私の勘がそう告げている。

私が部下と怪物を俯瞰できる様な岩の柱に留まると。

『姉御だ!姉御が助けに来たぞ〜!』

と、皆大盛り上がりで私を褒め称える。さっきの悲観した雰囲気を吹き飛ばすかのように。

「ったく…お前ら、一瞬目を離したらボロボロじゃねーか」

『もうしわけ無いです。姉御』

そう言って肩を息をしながら、謝罪する部下たち…どうやら、あのトカゲに随分追い詰められた様だ。

「まぁいいさ…帰って反省会でもしてろ」

『ま、待ってください姉御!ソイツは───』


「───とてつもなく強くて、狡猾なんだろ?見ればわかる。」


 そう私が、食い気味に話すと、部下は口をつぐんだ。

現に今もこの悪魔は、私がさっき射出した飛刃と私の事を警戒しながらこちらの様子を見ている。よほど賢しい生き方をしている様だ。

……面白い奴だ。私はそう思いながら警戒している悪魔を見つめ返した。

部下はそんな私を少し観察し、潔くこの場を去った。気を遣わせてしまったか、もしくはこれから起こる戦闘に巻き込まれ無い様にするためか。

───まぁともかく、私たちの乱闘に手出しする奴は居なくなった。


「選手交代だ。精々楽しませて貰おうか!草食の悪魔様‼︎」


キャハハハッ!と笑いながら、そう言うと。悪魔に攻撃を仕掛ける為に翼を広げ岩の柱から飛び降りた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


まず先に攻撃を仕掛けたのは、セピアの方だ。翼を広げて、悪魔に急降下蹴りを喰らわそうとする。

───狙うは、歪に曲がった角。


 しかし、悪魔も首を捻ってこちらの蹴りを躱し、お返しと言わんばかりに角をこちらに叩きつけようとしてくる。

「…遅いっ!」

セピアはそれを上昇して避け、ガラ空きになった首元を裂こうと迫り、鋭利な爪で乱雑に切り刻む。

 凡百の大型生物なら、この技“千裂爪”で意識を刈り取ることが出来るだろう。


─── Grrrr…

…しかし、“砂塵の悪魔”の名は伊達では無いらしく、首の肉を裂かれ続けても尚、反撃しようと体に力を込める。セピアはその行動を観て、口許を三日月のように歪めながらその場を離れ、タックルを躱す。


「キャハハッ、そう来なくちゃなァ…!」

 空中に退避し、セピアは刃鱗を撒きながら“砂塵の悪魔”を見下ろす。

───次に悪魔がとる行動に期待の眼差しを向けながら。

 すると悪魔は地面に潜り始めた。ザザザッ…と砂の掻き分ける音を悪魔は響かせるが、その隙を見逃すセピアではない。

 潜り始めている所に刃鱗を撒く、背中・尻尾など様々な所に飛刃を飛ばし傷をつけたが、悪魔は止まらない。そうして完全に砂原に潜った後、沈黙だけが残った。


「……逃げた?」


 そう、セピアは一人だけ残された地上で翼をはためかせながら言葉にし一瞬考察するが、直ぐに訂正する。

 攻撃を仕掛けてから数分も経って居ないのと、奴は”砂中の巨影“とも表されて居た筈だ、潜ったその”先“がある筈であるともセピアは考えた。

 そして何より『アイツがこの程度でリタイアする程、弱くはない』という一種の期待が“撤退“というイメージを否定した。

……その考察は数秒もしない内に現実のものとなった。


ゴゴゴゴッ……‼︎っと砂地が鳴き───


───バァッと砂塵を巻き上げながら”暴角“が飛び出してきた。


「ハッ、やっぱりなァア!!!』

 そうセピアは歓喜し、”砂塵の悪魔“の奇襲を蝶の様にひらりと躱す。…そして、背後にいるであろう背中を見せているであろう悪魔に再び、千裂爪を喰らわそうと───


───ゾクリ…

 謎の悪寒がセピアを貫いた。セピアは急遽、身体を竜人の姿から千刃竜の姿へと変身させる。すると…


“ ダッ”という轟音の後、セピアの背中を暴角が穿つ。…あのまま竜人の姿のままであったのなら再起不能はやむなしであっただろう。……ゾッとする話である。

「……チッ!この───」


 セピアは角が刺さった背中を翼や尻尾をはためかせで無理矢理動かして引き抜き、”暴角“の主に飛刃を喰らせようと捉えようとする。

 しかし、また“ダッ”っと空中で音が鳴り、セピアが刃鱗を喰らわせる前に悪魔がこちらへと迫ってきた。


「……‼︎」

今度は不意を突かれて無いからか、セピアは悪魔の突進をギリギリ躱す事が出来た。

……だが、セピア表情はそれとは裏腹に驚きに満ちていた。


「コイツ…!空を『蹴って』移動してやがる…‼︎」

天を跳びながら迫ってくる“暴角”の猛攻を躱しながらそう言い愕然とする。『こんな生物が居たのか…‼︎』そう、脳に刻みつけながら…


───Grrrrrrr!

そしてその表情を見ながら悪魔は『空はお前らだけの特権じゃない』とでも話すかのように、唸りを上げ猛攻を繰り返す。

 まるで、『これから、図に乗った憐れな“愚者(セピア)”をこの角で突き刺し、蹂躙してやろう』とでも吐き捨てるかの如く。


「……」


その光景を見てセピアは───


「───舐めやがって…‼︎」


完全にブチギレていた。空を一番上手く飛べるという”誇り“や他人に自分を低く見られたことで起こった“憤怒“の感情から来るものではあったが、一番は───


「───テメェ、よくも私の体を“傷物”にしやがったなァ…‼︎!」

自身の”自己陶酔“を妨げられたことに対する怒りであった。


───Graaaar!!

『そんな事知るか!』とでも言うように、”暴角“は勢い良く近付いてくる。


「───ハッ!しゃらくせぇッ!!」

……が、刃鱗を逆立てたセピアは向かってくる角を掴み、近くの岩の柱に投げ飛ばす。


───Roaaaar!?

いきなり角を掴まれ、あらぬ方向に投げ出された悪魔は岩の柱に衝突しながらも、なんとか立て直し投げ出された要因となったセピアがいる“空”を見上げる。


『千刃───』

そこには翼を広げたセピアと、空を金色に染めるかの如く展開された“数多に煌めく刃鱗”が悪魔の方を向いていた。

『───【流星】‼︎』

そう言った後、セピアは悪魔に目掛けて急降下蹴りを喰らわせようと動く。瞬間、展開されていた刃鱗が“空を裂く“かのような速度で、悪魔目掛けて突き刺ささろうとする。

 悪魔も対応して地面に潜り退避しようとするが、一手遅い。全ての鱗が悪魔に突き刺さり、そして───

 速度と全体重を乗せたセピアの鉤爪が悪魔の顔面を捉えた。


───Gyeeeyaaa……⁉︎

どうやら、この攻撃は悪魔に響いたらしく、二本の内の一本が折れ、痛みを表現するかの様にのたうち回る。


「ハッ!今更、弱者気取りかよ…‼︎

だが、私をこんな姿にしたんだ。この落とし前は身体で払って貰わないと…なぁ‼︎!」

そういい、悪魔に向かって追撃を喰らわそうと飛び蹴りを仕掛ける。


───……ッ‼︎

しかし、悪魔も黙ってやられるわけではなく体を起こし、折れていない方の角で飛び蹴りを相殺する。


「ハッ、まだまだ元気みてぇだな…!

───なら精々、そのデカい図体で虚しく抵抗でもしておく事だなァ?」

と声を荒らげながら眼中の敵に対して怒りをぶつけるセピア。


─── GRAAAAR‼︎

それに対して、猛々しい咆哮で迎え撃つ“砂塵の悪魔”。

……この砂原での衝突は、まだ未だ始まったばかりである。


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