「一目惚れ」

「一目惚れ」


ゴマフビロードウミウシのぬいぐるみを見つけた時の反応。クルーにウミウシがいなかった場合の妄想

ifロー=ロー 正史ロー=“ロー”で表記しています


新しい島に着いた俺は日課となった雑貨屋巡りに繰り出す。今日のお供は珍しいことに“ロー”だった。なんでも散策に出ようとしたら俺と一緒に行ってくれと言われたらしい。多分独りだと行動範囲が広すぎて中々帰ってこないと思われたんだろう

「またぬいぐるみを探すんだろう?」

「あぁそのつもりだ。付き合わせてすまない」

「別に構わない。俺もなにか小物を見ようと思っていた」

これは本心なのだろう。“ロー”との行動は心地良い自分同士だからか変な気遣いが要らないのだ

「小物と言うとペンとかか?シロクマペン気に入ってるもんな」

「あれは別に……使い勝手が良くて使ってるだけだ」

可愛い物好きな所を指摘すると少し拗ねたように顔を逸らすのもいつもの事でつい意地悪を言ってしまう。何時もキャプテンとして凛としている“ロー”は眩しくて敵わないと思うがこの時ばかりは俺がお兄ちゃんになれたようで嬉しいのだ

「ふふっはいはい」

「なんだその顔はっ絶対に分かっていないだろ」

「わかってるって、ほら店だぞ」

むくれる“ロー”を宥めながら雑貨屋へと入る。店内はレースなどがあしらわれていて如何にも可愛い物好きが来る店と言った感じだ。男2人で来るとこでは無かったかなと思い入口で固まっているとこれまたフリルたっぷりの可愛い服を着た店員さんが出てきた

「あらあら〜兄弟でお買い物?双子ちゃんかしら〜可愛いわねぇん♡」

横で“ロー”が凄い顔で固まっている。俺も同じ反応をしたい。何故ならその可愛い服を来ているのは何処からどう見てもガタイのいい男性なのだ。声も野太い声を無理に裏返しているのだろう

「えっえっと店を間違え……」

こくこくこくこく

ちょっと“ロー”凄い勢いで首振ってるけど取れないか!?というか右袖掴みすぎてめちゃくちゃに捻れてるんだが……

「あらそう〜?残念ねぇ。ここに入って来た時の顔には確かに可愛いを見つけた喜びがみてとれたのだけど……」

「うっ」

「お嫌いじゃないんでしょ〜?か、わ、い、い、も、の♡別にいいのよ?恥ずがしがらなくて可愛い好きに男も女もないんだから」

「可愛いものは嫌いじゃないがその姿は視覚的にキツイ!」

とうとう“ロー”がぶちまけてしまった。俺達はどちらかと言うと見た目で人を判断する方では無いし医者としてそういう人にも理解はある方だがそれでもやっぱりキツイものがあったのだ。救いがあるとすれば店員さんの服がスカートではなくスボンスタイルだったことだけで、それもフリルたっぷり仕様なのだが

「あぁあんまりアタシみたいなのに慣れてないのね。ごめんごめん」

ふと男の人が普通の声に戻った

「私は別にオカマじゃないよただ単純に可愛いものが好きなだけ、君たちと同じさ。ただ普通に男性がしてるんじゃやっぱり引かれちゃうことも多くてね。オカマの方がまだ抵抗なく買ってくれるんだよ。1つの商法さ」

「そういうものなのか……不躾な反応をしてすまない」

「いいよいいよ。それより見たいものがあるんじゃないのかい?」

店員さんが上着を羽織りながら俺たちに尋ねる。フリルがだいぶん隠れて少し抵抗感が無くなった姿に気遣ってくれたのだと分かりほっとした

「小物とぬいぐるみを見せて欲しいんだが」

まだ袖を掴んでいる“ロー”の頭をポンポンと撫で尋ねる

「とびっきり可愛いのがあるよ」

そう言って店員さんが出してくれたのは ウサギの耳のようなものが着いた丸っこい生き物でそれがなにかすぐには分からなかった。ただつぶらな瞳やもふもふとしたからだ短い耳がとても可愛く一目で目を奪われてしまう

「ゴマフビロードウミウシだよ。可愛いだろ?普通は黄色なんだけどまれに白いのがいてね。白うさぎみたいなんだ」

「ウミウシ……」

残念だがうちにそんな名前のクルーは居ない。ぬいぐるみ集めの目的は元々クルーと同じ生き物を揃えたいという俺のわがままだ。クルーと関係のない生き物まで増やすべきではないだろう。断腸の思いで棚に戻そうとする俺の袖を“ロー”が引っ張る

「こいつ可愛いな。ペンもぬいぐるみも是非とも買いたいんだが……ペンはともかくぬいぐるみは俺の部屋には置けそうにないな。資料が多すぎる」

「あらあら残念だね」

「……だけどローの部屋になら置き場所があるよな?」

「えっ?」

「資料が片付いて部屋に置き場所が出来るまであんたの部屋に置かせて貰えないか?」

同じ俺だからわかる“ロー”の部屋が片付く事など永遠にない。つまり、自分が置かせてもらっているだけだから買ってもいいという事なのだろう。単純に“ロー”も気に入ったのもあるだろうがそれでも今の俺にとっては嬉しい後押しだ

「分かった。ならそれまでは俺の部屋で預かるよ」

こうして俺は新しく可愛いクルーを手に入れたのだ。尚、クルーと同じ名前のぬいぐるみを探してると言ったら店員さんが

「あぁじゃあこの子はあんたでいいじゃないか。ちょっと待っていてくれ」

と言って何やら奥で作業をし始めてしまった。数分後に戻ってきた手には“ロー”とお揃いのミニチュア帽子があってウミウシに被せてくれる。可愛いがさらに可愛いになって店内ではしゃいでしまったのは俺と“ロー”と店員さんだけの秘密だ

「“ロー”!ほらおまえだって」

「あぁ」

「迎え入れてくれてありがとう!」

この感謝はきっと一番の笑顔で伝えられたと思う

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