一生好きになれない

一生好きになれない



ただの怪文書SSもどき。

色んな概念お借りしてます閲覧注意です。




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昔からそうだった。

血だらけで走るアイツに引きながら俺は一緒に走ってた。でもお前が混ざることはほとんど無かった。

あの勝気な女や儚げな女から話しかけられて会話する事はあれど、自分から話しかけに行くことはほとんど無かった。


孤高なのか、人付き合いを面倒くさがる質なのか。あの時はよく分からなかった。


どちらでもないことを理解したのは、何回目かお前が先に通り過ぎたゴール板を駆け抜けた後だった。







「何やってるの、どいて」


引退するって聞いて、仄暗く明るくて喜びながらお前の事をずっと恨んでる。押し倒してる今だって、その言葉に恥ずかしがるような感情はひとつも籠っていない。単純に邪魔だから退けということ以外になんの意味もない、そういうお前が嫌いだし、そういうお前で安心してる。


「……退くわけ無いだろ」


怪我につけ込むような最低なヤツにはなりたくなかった。けど、そうさせたのはお前だ。

お前なんだよ。


「何で?」


多分本当に分かっていない訳じゃ無いんだろう。言葉として分かっていても感情を理解してくれるわけじゃ無いから、こんなにも無関心で他人行儀な音が出せるんだ。


気持ち悪い。


「……もう一回戦ったら、絶対に俺が勝ってたはずなんだ」

「…………それは譲れない」


だから嫌いだ。


「……何でお前は、いっつも俺を見ないんだよ」

「脚、痛いから止めて」


気持ち悪い。


「俺はいっつもお前を見てたのに。お前を見てるのに」


気持ち悪い。


「………だから、痛いんだって」


気持ち悪い。


「……止めない。お前に勝てるなら、もう何だっていい」


俺もお前も大嫌いだ。

俺はお前の事が大嫌いで、なのにそんな欲を湧かせてしまう、湧かせてしまった俺のことが気持ち悪くて大嫌いだ。

こんな感情をぶつけられておいて平然としてるお前のことが気持ち悪くて大嫌いだ。


全部全部噛み合ってない。これから噛み合うこともない。綺麗に回らない歯車を無理に回して、先に壊れるのはどちらだろう。


「お前なんかぶっ壊れちまえ」


何を壊すつもりだろう。脚か心か身体か腕が骨か心臓か腸かそれとも『カネヒキリ』っていう存在自体か。


……………………。


「嫌だ。絶対に」


焼き付く、灼かれる、妬ける、目。目の中。そうだ、これだ。こいつのこの目を俺はずっと壊したかった。戻ってこなくて良かったのに戻ってきて俺の考えていた雷神よりずっとずっとずっとずっと強いお前に逢えて本当はずっと戻って欲しかったような気もし始めて、けれど全盛期がズレていて一生叶わないままなんだったらやっぱり戻って来るなというような気もしていて、だから。


「簡単に壊れたりしないで」


それなら、また何度でも壊そうとできる。

俺に勝ちを譲らないなら、その権利くらいは許せよ。


「………………」


ああほら、お前やっぱりこっち見ねぇんだな。

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