一束の白金
マレーシアから日本に数日滞在しに帰国した、久しぶりに吸う母国の空気はそれはもう美味かった。ネットを通じて石川周辺の事件を知ったり、書き込んだりすることもあるが、実際に会うことは何年ぶりだろうか。
いろんなことがあった。
現在は獣のような本能は衰えているが、最愛の人達が身近に居なかったら……ゾッとする。この暮らしを手にすることがなかったかもしれない。
家族とホテルまでの道は談笑しながら、会う人物について話し合っている。その途中で少し幼いが凛とした元気な声が聞こえてきた、目をやると道にテーブルを置いて販売している様子だった。白髪で赤い瞳を持つ容姿に白山を思い出すが、そう珍しい事はないと言い聞かせる。
「あ! そこの人たち! このグッズお一つどうでしょう!」
目をつけられた。
テーブルに置かれているグッズはオレンジ色の猫がチャーミングで値段はお手頃、案外商売は良好で女子の合間でかわいいかわいいと飛び交っている。
綺麗に整えられた白髪と制服を見て思い出すのは、学生時代の優希だ。今や、呪霊となった彼女だったが、美しさは損なわれずありのままを保っている。子供も生まれ、家族団欒でグッズを漁る姿は周りからどう見えるか。
呪霊が見える者からしたら、嫁が二人いるように思えるだろう。普通の人が視界に写るのは実際に愛子だけだ。
「……ってこれ。猫天与じゃね?」
「あれ? ヨウを知ってるの? なら話は早いね」
実はね〜ヨウファンクラブを成立して布教活動をしてるの、と初対面の少女が意気揚々に語りだす。その間に売れ行きは順調でありがとうございます! と笑顔で対応された男子は顔を赤らめてその場を去る。
「(……白山の血ってみんなこうなのか?)」
「買うの? 買わないの?」
黙る冬河を六月は急かしてくる。息子たちは買ったようでこの怪物姿カッケーって目を輝かせてる、妹は可愛くなーいと不貞腐れている。
「いやいや、これって、あー、あれだ。許可は貰ってるのか?」
「許可……? う、うん。貰ってるよ?」
嘘だ。
表情はとぼけている、明らかに申請していない。売り子は六月一人ではない。最近少し有名になってきている配信者も一緒に販売してる、大丈夫なのか? と不安が物凄く積もる。
「君たち、証明書を出しなさい」
案の定警察がやってきた。
「あっ、えっと……」
フードを被る青い女性が六月を庇うって警察と対話している。その隙に上の物を片付けてトンズラ漕ぐ。
「待ちなさい!」
「わ、悪気はないんですぅ! ごめんなさぁい!」
「アイツラ……」