一年後のバレンタイン
どんなお料理でも作ってくれる拓海だけど、2月14日のチョコだけは作らせないのが、あたしたちのお約束。
今日はあたしが腕を奮ってみんなに気持ちを届ける番。
お母さんと、あんさんと、あたしの三人でキッチンに並んで、チョコを溶かして、ミルクを混ぜて、思い思いのチョコを形作っていく。
あたしが作ったチョコは、ホワイトチョコで、形は三角、中に梅ジャム、ブラックチョコを混ぜたクレープで包んだおむすびチョコ!
これはお父さんの分。
これは門平さんの分。
これはマリちゃんの分。
これはメンメンの分。
それとコメコメにも、パムパムにも。
もちろん、ここねちゃんや、らんちゃん、それにあまねちゃんも!
あたしの大切なみんなに向けて、大好きって気持ちを込めて、チョコをラッピングしていく。
一人一人にメッセージカードを添えて、でーきた!
そしたら、あたしの横でお母さんがチョコの数を数えて首を傾げた。
「ゆい、肝心の誰かさんの分が足りなくない?」
あたしの反対側から、あんさんも覗き込んできて、
「あら〜、たっくんたら、ゆいちゃんに怒られるようなことでもしたのかしら」
だってさ。
ううん、違う違う、違いまーす。
ちゃんとここにあるよ。
でもね。
「拓海の分はね……ちょっと、特別な感じにしたくて……」
こっそり用意した、ハートがいっぱいのラッピングシートを、ちょっとドキドキしながら取り出すと、お母さんとあんさんが揃って「きゃー💕」って、若い女の子みたいな声を上げた。
「そっか〜、ようやくゆいもそういうお年頃になったのね〜。むしろ、やっと、と言うべきかしら……」
「いい、ゆいちゃん。たっくんはお年頃の恥ずかしがり屋の意地っ張り屋さんのツンデレさんだから、テンパって意地悪なこと言っちゃうかも知れないけど、本心はゆいちゃんのこと大好きだから絶対大丈夫よ!」
うーん、あたしまだ告白も何もしてないのに勝手に拓海の気持ちバラされちゃった。
うん、そりゃ拓海があたしのこと「好き」ってのは知ってるけど、それって、あたしが今まで「拓海が好き」って気持ちと多分一緒だと思う。
でも、あの時からちょっとずつ、あたしの「拓海が好き」って気持ちは形を変えていってて……
隣に居てふんわりして温かくてゆっくりできた「好き」から、今は、ドキドキして、熱くなる「好き」になってた。
拓海も、あたしと同じ「好き」になってくれるのかな。
あたしの「好き」が変わっていたのを自覚した頃、拓海はなんだかすごく大人びたように見えた。
お互い中学生だった時は、拓海も子供みたいに慌てたり、焦ったり、そんな子供っぽい可愛いところが多かったけど……
……高校生になったからなのかな。背も高くなって、雰囲気も落ち着いてて、あたしのことを真っ直ぐに見つめて、優しく微笑んでくれて……そばに居るだけで、あたしの存在を包むみたいな大きな温もりを与えてくれる。
でもそれって、まるでお父さんかお兄ちゃんみたいで、拓海にとってあたしはいつまで経っても妹扱いなのかな、って不安になる。
だから、ちゃんと気持ちを伝えなきゃね。
おばあちゃん言ってた、家族っていうのは、血の繋がりじゃない。気持ちを繋げた人たちのことを言うんだって。
だから、拓海にあたしの気持ちを伝えるんだ。
彼と、もっともっと家族になりたいから。
ずっとずっと、家族で居続けるたいから。
……お父さんとお母さん、門平さんとあんさんみたいな、家族になりたいから。
広げた大きなラッピングシートに、おむすびチョコを二つ包む。一つは拓海の分。もう一つはあたしの分。
メッセージカードに【拓海へ】と書いて、少し迷って、その後にハートマークを付け加えた。
ラッピングにメッセージカードを添えると、お母さんたちから、おまじないをしなさいって耳打ちされた。
ちょっとくすぐったい気持ちになりながら、ラッピングしたチョコを両手で持って、唇を寄せた。
どうか、これを食べてくれた拓海が、胸も、お腹も、あたしの気持ちでいっぱいになりますように。
ラッピングに触れた唇を微かに動かして願いを呟く。
2024年2月14日。あの日から一年経って迎える、あたしたちの新しいバレンタインデー。