一回ぽしゃったから流れめっちゃ変わったよね
アクアが事故にあった、事故を起こした犯人はそのまま逃げてしまったけど…あかねおねえちゃんが追ってるみたいで。代わりとして私とミヤコさんが私とアクアのかかりつけの病院に駆け付けた、ここなら最悪何とかなりそうな気がする病院だったから私とアクアとで決めた病院だったのだが、今問題に直面している。それはアクアの血液量が危険域に到達しているという事で、少しまずい状況でもあるらしい。ただ少しおかしいのは私もアクアも前もってある程度の自分の輸血用血液を用意していたはずなのに、それがないという所で何か少し違和感を感じているけど、まずは病院に急がないといけない。
「ルビー…貴女の言い分が正しければ、アクアも用意はしていたのよね?」
「うん。ママがそういった理由で死んだときに用意できることはしようってアクアが提案してきたから、私もそれに倣って一緒に抜いてたの」
「それなのにそれがない事に貴女は違和感を覚えているのね?」
「だって病院側はそんな事しないし、するとすればアクア本人の意思でしょ?…だったらあり得るかもしれないって思ったんだ、復讐を終えたら消える気みたいだったから…」
「復讐で自分が一命をとりとめて輸血なんてされたら困るって事を考えたって事ね」
「今のアクアならやりかねないからさ…」
私の中でアクアの評価は一度地の底まで落ちた。その後紆余曲折あって昔のような関係まで戻ったのだけど、アクアはよく俺が居なくなった後でもお前が安心して活動できるようにとか、そんな理由で色々な事をしてくれてる。そんな事なんて必要ないのに、一緒に生きていたいだけなのに。
「ミヤコさん、もしもの時は私の血で輸血するから」
「それはいいのだけど、貴女なんでそんなに険しい顔をしているの?」
「最悪の場合、アクアが死ぬからだよ」
「ルビー…」
「日本人ってそもそもが輸血された時ソレが発症する確率が高いんだって、だったら他人の誰かの血でその可能性があるよりも、私の血を輸血したい。私はアクアの妹だから、アクアと双子だから。死なせてしまうなら私の血であってほしいの。私はきっとそのことを後悔するだろうけど、誰かの血よりかは私の血で生きてほしいし、死んでほしい」
「問題はアクアのほうよ、あの子が納得するならそれでもいいわ。母親としては生きてほしいもの、少しでも確率が高い方が良い」
「けど、これだけは譲れないんだ。私が私であるために、アクアがアクアでいるためにも。選択肢はこれしかないんだ」
気持ちがはやる、アクアの事だから復讐の終わりが見えた時に自分が生き残る可能性を潰したかったんだろう、その一つとして輸血用血液の破棄も考えて実行した、けど私がいる、私が身近に戻ってる。これが私にとっては最大のメリットでアクアにとっては最低のデメリットもなってしまったのだけど、私はアクアに生きてほしい。もともと流れてる血は同じだけど、その血より私の血にしてほしい、私のお兄ちゃん、私のせんせ、私だけのアクア、そうなってほしいから私の血液で輸血をする。
「先生、アクアはどうなんですか?!」
「彼の輸血用血液を破棄した日の自分を殴りたいところですね…」
「じゃあやっぱり、アクアは血液が足りないんですね?!」
「はい、誠に残念ながら…このままでは、間違いなく」
「…先生、私の輸血パック使う事ってできますか?」
「近親間の輸血は非常に危険だという事を理解されてましたよね?」
「だとしても日本人だと800分の1なんでしょ?だったら私の血でも良いじゃないですか!」
「自分に禁忌を犯せと?」
「それでアクアが救えるんです、考える必要なんてありますか?」
「君は初めて出会った時に比べると随分としたたかになったね…、良いでしょう。その兄を地獄に誘うかもしれない行為に自分も相乗りさせていただきます。」
「それで、おにいちゃんの様子は」
幸いというべきなのだろうか流れた血液量の割には安定しているようにみれるが、やはりというか全体的に血色が悪く、肌も白い。呼吸も細く、確かに持ちそうにないだろう。でもだからと言って諦めるつもりはない、ここで誰かの血を輸血するなら私の血しかありえないだろう。漸く仲直りして、おにいちゃんの前世を知って私の前世をようやく話す決心がついたばかりなのだから、一人で逝かせなんてしない。生きるのも逝くのもずっと一緒なんだよ。
「では処置に入ります、貴女の血液に放射線照射はしておりますがもしこの2週の間でその様子が見られたら、その時は…」
「分かってます、最悪を迎えても私も兄も後悔はしません。それが過去に交わした約束でもありますので」
「ルビー、貴女は何時アクアとそんな約束をしていたの?」
「7歳の時、アクアができる事をやろう。リスクを極限まで減らそうって私に伝えてきて私はその言葉に頷いたの。それなのにアクアが反故しようとしてるから、怒ってるんだ。仲直りした日にずっと一緒に居てくれるって言ったのも嘘だったかもしれないことにね」
「…貴女、ますますアクアの事が好きになったのね…親としては複雑だけれどあなたが幸せなら、良いと思うことにしておきます」
「ごめんね、ミヤコさん。もしかしたら孫を抱かせることできないかもだけど」
「そうね…でもまずはアクアが生きていけたらいいわね」
「うん、本当にそうだね…」
あの事故から二週余りたつが未だに発症の知らせは来ていない。私たち兄妹の絆が勝ったのだろう。今日はアクアと面会できるようになる初日、数冊の小説とゼリーをもって病室に行く、家族が真っ先に会えるのだから、私が行くに限るとミヤコさんが送り出してくれた、おにいちゃんと久しぶりに会話ができる、それが嬉しくてたまらないし、やりたいこともたくさんあるんだ。
「おにいちゃん、げんきー?」
「ああ、大丈夫だ」
「もしかして…怒ってる?」
「血縁同士だと危ないと教えた筈だが?」
「でも他の誰かの血で死なれたら困るし…怒ってるのは私も一緒なんだからね?」
「輸血用血液の件だろ、もう逃げも隠れもしねぇよ」
「仲直りした日の事、覚えてるよね?」
「一人にはしない、ただ今回の件はマジで不慮の事故だからな?」
「だとしても不安にさせたおにいちゃんがわるい!」
「…どうしたら、許してくれる?」
「そうだなぁ…まずは、退院したら時間を作って二人で旅行に行って、ママのお墓にも行って、色々したいことやりたい!それと、アクアが話してくれたように私の前世も話すよ、きっと私たちにとってこれも凄く重要な事だから」
「そうか…つまり、俺は逃げれないってことだな?」
「この期に及んで逃げるつもりだったの?」
「いや、ただの自己確認…それで早急にやりたいことがあるんだろ?」
その発言を待っていた、おにいちゃんからするのを。こうやって誘導すればおにいちゃんはにげれないから、まず逃げ道を絶つ。これはあかねお姉ちゃんに聞いた方法でこうすればいう事を聞いてくれやすくなるとの事。だから試してみたら案の定随分とあっさりと進んだ。
「あのね、おにいちゃん…」
「ん?」
「私の初めて、あげるね」
そう言って私はアクアにキスをした、真っ白で私にとってもアクアにとってもなじみの深いこの真っ白な空間で。誓いと束縛の絆として兄とか妹とかも関係なくただ男女の繋がりとしての束縛を、アクアに施す。
「私ね。アクアの事、大好きなんだ。兄妹とかそんなの全部関係ない位にアクアの事が好き、せんせの事が好き。今さらながら分かったけど、あかねお姉ちゃんにだって渡したくないくらいアクアが好き。だから改めて今日からの私の一生と共に歩いて行って欲しい…今までの兄妹以上の関係が私は欲しい」
数瞬の沈黙の中、アクアは頭を振り、ただ私に問う。
「俺は、生きてていいのか?」
「生きていてほしいよ、傍にいてほしい」
「復讐以外の道を知らない」
「それなら一緒に他の道を探そうよ、私と一緒に探そう」
「…未だに有馬やあかねに惹かれてるぞ」
「あの二人なら私がどうにかしてみせる、それに私たちの関係の前じゃ二人に前に立ってもらわないと」
「…ますますアイに似てきたな」
「…うんっ!だって私たちはママの忘れ形見だよ?」
「分かった、この身に流れる二つの証に誓って。俺の一生を持ってして君の道を共に歩こう。………その、だな、世間体をたてに僕も自分の感情を隠そうと思っていたんだ。そんな僕でも君が良いというのならこれからの僕の命は君の物だ」
そんな事を頬を少し赤く染めた兄が言うのだから私は嬉しさいっぱいで兄の腕の中に飛び込む。あの日私のした決心は間違いではなかった、兄がこうして生きて私と共に生きていくことができる。そうだ、だって私たちは双子星。共に生きていかなきゃ消えてしまう双子星。
「不束者で至らぬ点ばかりある私だけど一緒に生きて行こう?」
「ああ、俺たちのどちらかが朽ちるまでこの命を共に」
『私/僕は貴方/君を愛してる』