一体誰に似たんだか
「アヤネさん!お疲れ様です!」
「お疲れ様、16号、84号」
砂吹きすさぶアビドス高等学校。
かつては栄華を誇っていたらしい学校も今や生徒数はアビドス対策委員会の5人のみ。
しかしそんな閑散さを打ち消すように沢山の足音が校舎内に響き渡っていた。
量産型アリス、人手不足を補うため10台近く購入された彼女らは日々アビドスのため元気よく働いていた。
(みんな本当馴染んできましたね……来た時はみんな結構ぎこちなかったのに)
アビドス対策委員会、1年生の奥空アヤネはアリス達の姿を見て笑みをこぼす。
元々単なるオートマタのつもりで購入した彼女らであったが
いつしか感情らしきものを発現し、一部の子はヘイローを取得するに至ったのだ。
まるで後輩が沢山増えたような光景に、対策委員会の5人も以前より活気的になっていた。
(それに……個性も出てきた気もします)
初期設定で人格を設定できるという話で先輩であるホシノが簡易的に設定はしたのだが、
明らかにそれ以上の個性を彼女らは得ていた。
最初のうちは似たような彼女らもすっかり識別できるくらいに個性豊かになったものである。
(おそらくは学習機能によって周りの影響を受けやすいのかもしれません。
どことなく対策委員会の皆に似てるような気もします)
例えば160号はセリカと一緒にいることが多いため努力家で少し素直じゃない性格になっている。
そして時たま変なものに騙されたりする。腕に付けるだけで砂の影響がなくなる腕輪なんて存在しない。
46号はシロコと一緒にいるからかすっかし性根がアウトローになっている。
表情豊かで銀行強盗の話をするものだからアヤネがどれだけ雷を落としたことか。
(で、33号は……)
対策委員会の部屋に入るとそこには添い寝をしているホシノと33号の姿があった。
まるで姉妹のようなその2人にアヤネは微笑ましさを感じ、無言で毛布をかけた。
「本当、みんなに似ちゃいましたね」
「全然似てません!」
そう怒号を発したのは先程話題に出した160号だった。
160号はズカズカと部屋の中に入り、ホシノに触れないよう33号を引っ張り出した。
「あうう……おはようございます~160号……」
「おはようじゃありません!何寝てるんですか!仕事してください!」
「うへ~……33号はちゃんと仕事頑張ってます……」
「まぁまぁ、ホシノ先輩だってこうやってぐうたらしてるわけですし…」
アヤネがなだめようとするも160号の怒りは収まらず、
目を覚まさせようとぐわんぐわん体を揺らされて33号も涙目になる。
「160号は知ってます!ホシノ先輩はいざというときには皆を守ろうとするし
ちゃんとやることはやってます!表面ばかり似てどうしようって言うんですか!!!」
「うええ……そりゃ33号はホシノ先輩ほど強くもないし頭もよくありません…
でも頑張ってないわけじゃないんです!ほら!徹夜して書いたんですよ!」
そう言うと33号は160号に複数の紙を手渡す。
見た感じなにかの企画書のようで余ったスペースにお城のような落書きが描かれていた。
「人を集めるにはアビドスにもいい感じの観光名所が必要だと思って…
それで思いついたんです!アビドスの砂をたくさん使って砂のお城を作ろうかなって!
どうやったら砂が固まるとかいい感じの立地はないかって頑張って調べて…
160号だってミネラルクラフト好きですよね?」
「……て、徹夜してこんなこと考えてたんですか!?もう!ほら!みんなのとこに行きますよ!」
160号はその用紙を机の上に置き、33号の襟を掴む。
そのまま涙目のままの33号を引っ張って部屋から出ていった。
「だ、大丈夫なんでしょうか…」
「ま~大丈夫なんじゃないの~?あの程度の喧嘩なら大丈夫だよ~」
先程の喧騒で起きたのかホシノは毛布に包まりながら呟いた。
160号はあの書類を見て少しだけ興味を持っていたようだった。
仲は決定的にこじれることはないだろう。ホシノは安堵し目を閉じる。
そして33号を見てかつてを思い出す。
アリスの人格を設定する時、一瞬だけとある人物を再現しようか考えたことがある。
だがすぐに思い直した。そんなことをしても心の隙間は埋まらないから。
33号がああなってしまったのは他ならぬ自分自身があの人を真似ているからだ。
全く至極当然のこと。自分自身の振る舞いを笑うしかない。
……ただ、時々33号がうええと言うのは何故だろう。
私は言っていない。一体誰に似たのか。分からない。