1人目 剣士とホビウタ
オレはロロノア・ゾロ、世界一の大剣豪になる男だ。
麦わらの一味の船長モンキ・D・ルフィが海賊旗を掲げる前、ルフィが海賊の仲間探しをしている時に奴と出会い、一番始めに仲間なった。
今思うと、あんなちょっとそこまで釣りにでも行くような稚拙な船で、しかもルフィ自身は航海術を持っていないというのによくもグランドラインに入ろうと言ったものだ。
そんな今も昔も無茶で無謀なルフィには幼い時から一緒にいるという相棒がいた。動く人形ウタだ。
赤と白のツートンカラーに後頭部の部分で輪っかになっている髪はまるでウサギのようにピンと上がったり、ペタリと下がったりと感情の起伏で合わせて動く、ルフィ曰く不思議人形だ。
いっちょ前にプライドは高く、海を出て早々に腹が減ったオレ達は、空を飛ぶ鳥を食おうと、ルフィがゴムの能力で空に飛びだした……までは良かったが逆に鳥に咥えられてしまった。
そのアホのルフィを追いかけてオレが爆速で小舟を漕いでいた時、海で遭難して乗り込んできた海賊が無謀にも船を寄越せと脅してきた時に殴るかと思った時ウタが応戦した、その時の動きは人形といえど侮れんと思ったものだ。
「この船を寄越しなぁ”っ!!」
「大丈夫かって、ぎゃーっこっちきたっボバッ!!」
「っちょ!やめっ!落ちるっ!ふぎゃあっ!!」
小さい体でジャンプして柔らかそうな腕なのにドゴォッ!!と人形が出すにはありえない音でボッコボコに3人の海賊を瞬殺した。まるで「ルフィを見失ったらどう落とし前つけてくれる!!」と言わんばかりの気迫だった。
思わず関心して見てたら完全にルフィを見失い、さらに怒ったウタが3人の上で怒りを表すようにピョンピョン飛び跳ねて、オレには聞こえないように調節した音波攻撃を喰らわせていた。ファンシーな見た目ととは裏腹に「グエツ」「イッタ!!」「やめてくれぇ!!なっ、変な音??……っ!!耳がぁぁぁ!!」と海賊どもが悲鳴を上げていたから見た目よりもなかなか攻撃力があったんだろう、思わず「お前意外と重いのか?」と言ったらオレもウタにビンタされた、割りと痛かった。
ウタは本当に人間みてえな人形だった。
あいつらの仲間になって初めて上陸した島ではバギーたちが町を襲っていた。
ルフィを探そうとウタに声をかけたら、アイツは警戒しているウサギみてぇに髪をピョンと立てていた、両耳のヘッドフォンみてえな所にまるで聞き耳を立てるように手を当てて耳を澄ましていたかと思えば、クルリと実を翻してオレの肩に飛び乗ってきた。そして「そっちに進んで!」と言わんばかりにある方向を指?腕で指し示した。
マジで分かんのかと、外に当てもなく半信半疑でウタが示す方向へと進んだ。
真っすぐ進んでいるはずなのに、まるで「違う!」「そっちじゃない!」と言わんばかりに口や頬を引っ張ってきたり、時には頭も叩かれたりした、しかも「どうしようもないダメなやつ」と言う幻聴が聞こえそうな程、耳をショボンと下げて変わらない表情のはずなのに憐れむような雰囲気を醸し出していたのは今でも納得してねぇ。(何故かこの後の航海でもコイツも含めて仲間に同じような態度をとられたがオレは断じて方向音痴じゃねえ目的地がどっかにいっただけだ)
仲間が一人、また一人と増えるたびに「人形が動いたぁ!!」と驚かれては怒り、「人形のくせにっ!」と言われては落ち込み。髪の上げ下げで感情の起伏が読みやすく仕草が嫌に人間くさくて、そういう種族なのかと、他の仲間にもすぐに受け入れられていた。まあ、内にはエロだのトナカイだのロボにホネと人間かどうか怪しいメンバーも多数いるから動く人形がいてもいいだろう。
名前の通り、まるで歌うようにオルゴールのような音色を奏でていて、一味を時には癒し、時には盛り上げていた。ブルックが仲間になってからはさらに賑やかになった。
ルフィが、ことある毎に音楽家を仲間にしようと言うから、ウタは自分が音楽家と思っているのか、ウタなりの誇りがあるのかルフィに怒っていたこともあった。実際に音楽家が仲間になったらどうなるかと思ったが、ブルックとは何やら一緒に作曲しているらしく、なんとか仲良くやっているようで良かった。
2年の修行の間には、音に関する攻撃だけじゃなくてなんだや槍やら盾から付けた女騎士の恰好に変身できるようになっていた。フランキーのロボの変形には、まったく一ミリも興味のなかったナミやロビンにもウタの変身かなり好評だった。女の子の夢ェ?ワケわからん。
歌うオモチャの人形ウタは、俺たち麦わらの一味の仲間。トナカイだのロボだの骨だの、生物として不思議な者も多くいるこの一味で動く意志を持った人形なんて別に不思議でもなんでもない。
だからドレスローザで動くオモチャを見たときもおれ達は皆「ああ、ここはウタの故郷なのか」と思っていたのに、まさか本当に人間だったとは…、ウタがずっと髪をショボンと垂らし震えていた理由が漸く分かった、ウタにとってここはトラウマのような場所なのだろう。
ウタが過ごしてきたこの12年以上の苦しい気持ちを完全に理解してやれることはできない。
だが、たった一つだけ分かっていることがある。
トラ男には悪いが工場だけ壊すっていう作戦は変更だ、
アイツら全員ぶった切る。
ウタ、お前が人間に戻ったら本当の歌声ってやつを聞かせてくれよ。きっと一味の皆がそう思ってるからよ。