一つの結末の終わりの始まり
ベーコンスープ美味しい
「「「「「U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!」」」」」
──喧しい、ただただ喧しい。
何故、高々21歳の少女を救世主呼ばわりする?
何故、ただ迷い込んだだけの彼女をインクに染め上げる?
何故、彼女に何もかもを押し付けて笑っていられる?
縄で締め付けられている現状俺は何も出来ないが、頭だけがずっと回転し続ける。
『私はウタ!歌で皆を幸せにする女よ!』
あぁ、あの時の彼女は明るく自己紹介してくれたなと懐かしく思い出す。
・・・尤も今それと正反対な状況な訳だが。
「さあ、ヘンリー?ベンディ消えたらしいけど何処に居るのか知っている?」
第二のアリスエンジェルとまでは行かないまでも、インクの化物に変異してしまったウタが俺に問い掛ける。
ベンディの居場所なら知っている。
確かボリスの隠れ家に匿われている筈だ。
インクデーモンとしての力の殆どを奪われ、まだ正気だった頃の彼女に血統因子?なる物を与えられ生き延びたベンティはあのループの後も徐々にウタに力を吸い取られている様だった。
そこで各ループで毎回ボリスを頼り彼を匿って貰っていたのだが・・・・どうやらこのループで蹴りを付けなければならないらしい。
「インクデーモンの居場所など知らないな。・・・それよりも、ウタ!こんな事はもう辞めろ!『新時代』を作るのでは無かったのか!」
少しでも話題を逸らす。
各ループにおけるサミーの奴の末路を鑑みれば彼女にとって『新時代』と言う言葉とあのマークは特別な物である事は明白、だからこそこの話題で────
「『新時代』って何?」
───は?
「私はそんな事一言も言った事無いけど、ワタシと誰かとカンチガイしてナい?」
「───」
「マァ、良いか。・・・ミンナはヘンリーとベンディの子とどう思ってるぅ!」
・・・絶句している俺を他所にウタはインクの化物達──嘗ての人間達に問い掛ける。
「彼奴等のせいで俺は家にかえれない!」
「私には息子が居るのに!コイツ等のせいで、せいでぇ!」
「俺達は家に帰りたいのに、コイツ等が勝手な事をし続けているせいで帰れない!」
「僕を家に返せよ!インクデーモンの手先め!」
「開放しろよ!」
「「「「「─この悪魔共め!」」」」」
聞くに耐えないとはこの事かと俺は一人思った。
もし、ウタが自分達を開放する事が出来無いと知ったら今度は彼女を悪魔の手先呼ばわりするだろう。
・・・・・何も知らない癖に、俺達が何千回と同じループをしていると知らない癖に。
其れ等を知った上で彼女は、ウタは彼等を利用しているのだろう。
俺を折る為に、殺す為に・・・・ある意味救う為に。
「分かってる、分かってるよ皆。皆の苦しみは痛い程良く分かるから、今から言う事を聞いてね?・・・大丈夫、私が皆を導いてあげるよ。だから、私を信じてね?」
「「「「「U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!」」」」」
御目出度いコイツ等は気付かないのだろう、ウタの目が笑って無い事に。
ただ自分達が見たい物だけを見る中身の無い空っぽな連中だからこそ、ウタに利用される。
・・・この中の何人かは自分から望んで使い捨てられる奴も居るので騙していないのが、彼女が本物である証拠となっているのが忌々しい。
「インクデーモンはボリスの隠れ家に潜んで居る筈だから、皆で悪い悪魔をやっつけちゃおう!」
どうやら此方の考えを読んでいた読んていた様だが、お生憎もう二人共アリス達に預けてある。
それを薄々悟ってかウタは機嫌が悪い様だ。
「・・・・その前にこの元凶を今此処で、公開処刑を実行するよ!」
なる程そう来るか。
「良いぞ、やっちまえ!」
「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」
「斬首して晒し首にしてやれ!」
「痛めつけろ!」
自分で手を汚す勇気も無い木偶の坊達声を聞いてウタは乾いた笑みを作り、群衆は活気立つ。
・・・忌々しい、この世界が本当に忌々しい。
彼女を救ってくれ無い世界が忌々しい。
ウタが斧を振りかぶり、それを見て群衆は湧き出す。
「「「「「U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!U(ユー)T(ティー)A(アー)!」」」」」
・・・俺やベンディじゃあ駄目なんだ。
誰か彼女を────
「じゃあ、さよならだね。・・・また会おうね、インクのご同輩のヘンリーさ~ん♫」
────救ってやってくれ。