ヴェルゴの話。

ヴェルゴの話。


ミニオン島にて。

ローを理解して肯定したいがラミ関係だけはどうしても理解も納得もできないヴェルゴさん

ヴェルゴ→ラミはシンプルな嫉妬が大きいけどこのファミリーの構成員のことなので考えてるうちに政府や海軍への恨みが湧き上がってきてる感じ





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「愚かな女だ、2代目コラソン」


弱く愚かな女だった。

あたかもローの全てを理解したような顔でおれの次にコラソンの座に就いたあの女は、ローの歩んできた道も、ローを傷つけた言葉も、何一つ理解なんてしていなかった。


「ローは救済の手を差し伸べているだけなのにな」


「何が救済よ…!行き場のない子供達を騙して、犯罪の手伝いをさせて、救いですって?あの人も貴方達も、人を不幸に陥れることしかしていないじゃない!!あの人はもう兄なんかじゃない…バケモノよ!!!」


ああ、そうか。この女は、正義の名を盾に腐り切った政府に全てを失われた子供達の末路も、行き場のない子供がこの先どうなるかも、想像もつかないのだろう。お前は、ローによって守られていたから。


守られている人間は守られていることに気づきもせずに綺麗事を並べる。守っている人間が、心に負った大きく深い傷を癒す時間もなく汚い世界に晒され続けていることも知らないで。


海軍の正義が全てを守り切っていると信じている馬鹿な能無しは五万といる。ローの差し向けたスパイであるおれが怪しまれることなく中将の座に就いているのが何よりの証拠だ。


この女も、同じだ。

運良く『優しい』海兵に拾われただけ。

世界の綺麗な部分だけを見ていただけ。

それをローに望まれていただけ。

ずっと守ってくれる人間がいたお前と、守られることもなく迫害を受け続けたローの見ている世界が違うことなんて猿でも分かる。

彼が受け続けた迫害の言葉を、何の躊躇いもなくまた彼に投げ付けられるくらいには、本気でローの歩んできた苦痛の日々を理解する気なんてないのだろう。


「金魚鉢で大切に育てられた金魚が、荒く汚れた川で育った魚の心を理解できると思うか?」


「…なんの、話?」


お前の話だよ。お前とローの話だ。

かつて同じ川で育とうとも、拾い上げられ綺麗な水で餌を与えられたお前が、石もゴミも勝手に流れる汚れた川で一人生き続けたローの心を理解なんてできないという話だ。

明日死ぬかもしれない。それは病か怪我か災害か、はたまた人間の悪意か。そんな状況に何年も晒され続けた。まだ守られるべき幼い少年が、誰からも見捨てられ、心を殺して泣くことも死ぬこともできずに生き続けた。全て、何処かで生きているかもしれないお前のためだった。


実力もない、ただ心だけが一丁前に育ったこんな愚かで無知な女のために、何故ローがあんな思いをしなければいけなかったのか、おれには理解できそうにないよ。

ローがいなければ、お前はこうして生きてくることもできなかったくせに。


「愚かな女だ。その正義が、ローの心を殺したのに。」


目の前に転がる女と少年を見つめる。

血に塗れて傷だらけで醜い。力もないくせに、何が守れると言うのか。

正義を掲げるなら1人も取り零さず救って見せればいい。ローよりも政府が正しいとほざくなら、ローの受けた傷を代わりに負ってみればいい。


電伝虫の向こうから静かなローの声が消え、代わりにグラディウスの怒り心頭の声が聞こえる。分かるよ。

お前が無知であることを許していたのはローだけだ。お前があのファミリーで何年も生きていけたのは、ローがいたからだ。

あの頃だけじゃない。今も、お前はローに守られていることにも気づかずローを拒絶する。心底贅沢な女だ。

お前はローを「兄じゃない」と罵ったが、お前がローの妹でなけりゃとっくの昔にのたれ死んでいた。


世界は平和とは程遠い場所にある。

明るく見える世界なんてただの表面の一部で、その裏では何億という人間が苦しみ続けている。

彼らを救えるのはローだけだ。この腐った世界を全て壊して、ローが創り直す。それが救いだ。

あの日からずっと、汚れた世界で生きていたおれがまた生きていけたのもローがいたからだ。

ローはこの女に「綺麗でいて欲しい」と望んだが、おれ達からすればローの方がずっと綺麗で純粋な『人間』だった。

あの頃のローを壊したのは政府で、今のローを生んだのも政府だ。恨むなら、最初にローを壊した政府を恨めばいい。


誰かから見たお前が善なら、おれから見たローは正だ。

善人の綺麗事は、とうの昔に聞き飽きた。


「この世の穢さを知っている人間にしか、この世界を救うことなんて出来ないんだよ。海軍中佐トラファルガー・ラミ」


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