ヴァンパイア・フロイラインの純情

ヴァンパイア・フロイラインの純情



「――ねぇ」


 ヴァンパイア・フロイラインがカップをソーサーに置きながら口を開く。


 給仕のため傍に控えていた従者の少年はそれを聞いて、背筋がゾクッと震えるのを感じた。


 主の放った一言はまるで室内の空気を切り裂くようだったのだ。


「何か……、わたしに黙っていることはないかしら?」


 フロイラインは淡々と問いかけるが、少年はサッカーとの関係がバレたのだと本能的に理解させられた。

 あるいは思うところがあって今日まで何も言わなかったのかもしれない。


 裏を返せば彼にとって主に黙っているようなやましい行いがそれくらいしかなかったということでもあるのだが、いまはそれどころではない。


 少年はフロイラインの前に慌てて歩み出ると、いままでの経緯を出来る限り正確に話して懺悔し始める。


 悪いのは今日まで好奇心と性欲に流され続けた自分であると一切包み隠さずに。


「……ふぅん、そうだったのね」


 少年の懺悔を聞き終えたフロイラインは冷たく呟いた。


 まるで真冬の夜を思わせる淡泊さに、このまま放逐されるかもしれないという可能性が彼の脳裏を過ぎる。


 少年が判決を待つ犯罪者のように最悪の可能性に恐れ慄いていると、主はゆっくりと口を開いた。


「勘違いして欲しくないのだけど、わたしはサッカーと火遊びをするなと言いたいわけじゃないの」


 まったく予想もしていなかったことを言われ、少年は呆けるように口を大きく開けてしまう。


 フロイラインは従者のそんな様子を横目に見ながら言葉を続けた。


「かの竜血公も愛妾を何人も囲っていると聞くわ。彼のようになれとまでは言わないけれど、あなたもこのフロイラインの従者であるならば見習って甲斐性を少しでも身につけるくらいなさい」


 竜血公――竜血公ヴァンパイア。

 時に真血公とも呼ばれる彼は数多いる吸血鬼やヴァンパイアの中でも最も強力な存在として知られ、同族からも畏れられている。

 そんな彼が住まう城には竜血公が気に入った女性たちが種族を問わずに囲われていて酒池肉林のハーレムが形成されている、というのが同族たちの間ではまことしやかに囁かれている噂だった。

 それを竜血公に直接確かめる命知らずはさすがにいないので、あくまで噂である域をいつまでも出ないのだが。


 フロイラインは言葉を一度区切ると、彼のいる方から顔を少しだけ反らす。


 続く言葉は口にせずにはいられないけれども、それを彼を捉えながら言うには些か恥ずかしかったのだ。


「――そのうえで、そのうえでよ。もしあなたが負い目を感じるのなら、わたしのことを誰よりも愛してちょうだい。わたしも主として捧げられるすべてを受け止めましょう」


 もちろん従者としての勤めも忘れずにね、と彼女は結ぶように付け加える。


 フロイラインが頬を微かに赤く染めながら彼の様子を窺えば、少年は脱力したように崩れ落ちていた。


 彼の主は要するに自分を一番に想うのなら多少の火遊びは不問に付すと言ってくれたのだから、放逐の可能性に慄いていた少年からすればただただ安堵するほかないだろう。


 だって、主を一番に想うなんて彼からすればいままでと何ら変わりがないのだから。


 フロイラインはイスから立ち上がると、少年の前に優雅な所作でしゃがみ込んで問いかける。


「わたしが火遊びなんて一切許さない狭量な女に見えてた?」


 従者の彼は躊躇うように視線を彷徨わせたが、その態度自体が最早答えを言っているに等しい。


 少年もそれに遅れて気づいたようで、恐る恐る首を縦に振った。


(……まったく、この子は)


 素直なのは彼の美徳だが、こういう場面ではそれも些か考え物だ。


 とは言え、である。

 フロイラインは正直に言えばファシネイターから惚気話を聞かされたときに、彼を魅了で骨抜きにしてしまって自由意志を奪うことも考えなかったわけではない。


 あるいは、ほかの吸血鬼やヴァンパイアに絶対に手出しされない場所に監禁するなんて案も検討していた。


 しかし、それらはフロイラインの愉しみをただただ損ねるだけなのだ。


 本末転倒も甚だしいし、認めてしまうのはヴァンパイの名折れと言っても過言ではない。


 だったら、これは最早フロイラインが主としての度量を問われている問題でしかなかった。


(ファシネイターはああ言ってくれたけれど、結局のところ彼女のようにはなれないのよね)


 思うに、フロイラインというヴァンパイアは人間の少女のように愛し愛されたいのだ。


 気に入った誰も彼もを骨抜きにするまで愛するのでもなく、ただ一人のすべてを支配するかのように徹底的に愛するのでもなく。


 だって、それは人間だった頃についぞ叶うことのなかったことなのだから。


(……言っても、わたしも大概ヴァンパイアね)


 ねぇ、そうは思わないかしら。


 今更少女のような色恋を愉しみたいだなんて、実に倒錯していてヴァンパイアらしいじゃない?


 同族の友人たちの顔を脳裏に浮かべながら、フロイラインは少年の額を指でピンと弾く。


「面倒な話はこれで終わりよ。さぁ、ついてらっしゃい」


 フロイラインがスタスタと部屋を出て行こうとするので、少年は慌ててどこに行くのか問いかける。


 彼の主は立ち止まると、肩の辺りまであるブロンドヘアを揺らしながら振り返った。


「――あなたがサッカーと今日まで存分に火遊びしていた分、いまからでもたっぷり愛してもらわないと割に合わないでしょ?」


 そして渇きを潤すように舌なめずりをするフロイラインの姿はあまりにも妖艶で。


 少年は見惚れながら首を縦に振ることしかできなかった。



 フロイラインは少年を連れて寝室に移ると、ブーツを脱ぎ捨てながら窓際に立った。

 そのまま月夜を背景にしながら、自らの衣装に手をかけてスルスルと脱いでいく。

 最後にリボンを解けば彼女は上下黒のレースのついた下着姿になるが、それがまた溜め息の出るほどに美しかった。


 差し込んだ月光がフロイラインの病的なまでに白い肌を美しく際立たせていて、青白く浮かびあがる血管さえもそれに色を添えているかのようだ。

 均整の取れた身体つきもまた芸術的で大理石から削り出された彫刻を彷彿とさせる。

 それでいて柔らかな丸みを確かに帯びているのだから麗しいとしか言うほかない。


 少年が言葉を失いながら主に見惚れていると、フロイラインはベッドに腰かけて嫋やかに微笑む。


「主を下着姿で待ちぼうけさせるのが君の趣味なのかしら?」


 少年は我に返ると吸血鬼の目にも見えぬ速さで衣服の類をすべて脱ぎ捨て、フロイラインの隣に座った。


 彼女はスッと手を伸ばすと、従者の頭をよしよしと撫でる。

 その口元はどこか呆れたように、あるいは楽しそうに緩んでいた。


「冗談よ、そんなに慌てなくったっていいのに。それに……もう、おち×ちんもこんなに大きくしちゃって」


 フロイラインが視線を落とせば、彼の下腹部ではすでに肉棒が大きく屹立していた。


 少年が指摘に全身を強張らせると、彼女は落ち着かせるかのように彼の頭をゆっくりと撫でる。

 それだけで緊張が弛緩し、すでに覚えていた昂りさえも落ち着いてしまいそうなくらいだった。


 実際には更なる昂揚を訴えるように肉棒がビクビクッと震えていたのだが。


「嬉しいのよ、君がわたしという女に興奮してくれているのが分かって」


 彼女が穏やかに微笑を零せば、お互いの熱を帯びた眼差し同士が絡み合う。

 どちらからともなく自然と顔が近づいていって、二人は触れ合うように口づけを交わした。


「っっ……んっ、好きよ♡」


 フロイラインは唇を話しながら、そっと一言愛を囁く。

 沸騰してしまいそうなほどの昂りを伝えたくて、少年はそのまま彼女の首筋を辿るように口づけを何度も落としていく。


「あぁっ……んんっ♡」


 そして首の付け根辺りにいま一度力強くキスをする。


 彼が顔を上げれば、主の病的なまでに白い首筋にキスマークが薄っすらと刻まれていた。


 まるで主従が逆転してしまったかのようだ。

 そんな倒錯した背徳的な光景が少年の脳を焼き、更に昂らせる。


 彼が我慢できないと言わんばかりにお嬢様、お嬢様と期待感を込めて囁く。

 その熱視線はフロイラインの胸元に注がれていた。


「ふふっ、きちんとおねだりが出来てえらいわ♡」


 彼女が少年の頭を一度撫でてから両手を背に回せば、ブラジャーの拘束が微かに緩んで美乳がぷるんと揺れる。

 隣から感嘆の声が漏れるのを聞きながらそのままブラジャーを外すと、フロイラインの美しく形の整ったおっぱいが露わになった。


 それは少年の手から少し溢れるくらいの程よい大きさだったが、彼女の身体つき同様に均整が取れている。

 たとえるならば男の欲情を煽るそれというよりも、まるでまだ誰も踏み入れていない一面の銀世界のような神秘的な美しさ。


 ほかならぬ自分がこれから主の世界に踏み入れるのだという昂揚が少年の理性を更に溶かす。


 フロイラインは優雅に口元を緩めると少年の頭をもう一度撫で、その身をベッドの上に横たえさせた。


「さぁ、いらっしゃい♡ この身体は全部君の好きにしていいのよ♡」


 主の許しを得た少年は飛びかかるように覆い被さると、フロイラインのおっぱいを口に含んだ。


 激しい水音を立てながら、空いた手でもう片方の果実も撫でるように揉みしだく。

 柔かな感触と主の身体を好きに触っているという背徳が少年をいますぐにでも爆発してしまいそうなくらいに興奮させた。


「はぁ……あぁっ、んっ……いい子ね♡ いい子♡」


 フロイラインは微かに嬌声を漏らしながら、従者の頭をゆっくりと撫でる。

 しかし、その表情は溢れ出る快楽を必死に堪えているようだった。


 少年は主のもっと乱れた姿が見たくなって、乳首に軽く歯を立てながら指で挟んで抓る。


 瞬間、フロイラインの身体が電気の走ったかのように大きく跳ねた。


「……この子は、もうっ♡」


 従者のそんなヤンチャさえ受け止めると言わんばかりに、フロイラインの紅く輝く瞳は愛おしさを湛えている。


 雄としての興奮と主に甘えたい欲求がごちゃ混ぜになって、少年はもう何が何だか分からない。

 ただただ衝動の赴くままにスッと顔を離せば、フロイラインも察したように腰を微かに浮かせてくれる。


 彼はすでにぐっしょりと濡れたショーツを恭しく脱がせ、その勢いのままに主の秘裂に肉棒を挿入した。


「あぁん……っっ、あぁ……あっ♥」


 彼女は嬌声を零しながら、華奢な身体を大きく震わせた。


 少年は貪るように腰を振りながら、赤ちゃんのように主のおっぱいに顔を寄せて口に含む。


「あぁっ……いい子♥ おっぱいを吸えてえらいわっ♥」


 フロイラインも何とか少年の頭を撫でるが、その顔は上気して瞳も蕩けたように潤んでいた。


「あっ、あぁ……んっ、あんっ♥ だめぇっ、君のおち×ちんがわたしの気持ちいいところばっかり擦ってぇ……っっ、あぁん♥♥ 頭の奥がビリビリぃって痺れてぇ……だめだめっ、我慢するなんてもう無理ぃっっ♥♥」


 フロイラインは少年の頭を自分のおっぱいに押しつけるように抱き寄せると、ブロンドヘアをイヤイヤと左右に揺らしながら両脚を彼の腰に絡める。


 主から求められているという昂揚が少年を更に昂らせ、室内に卑猥な水音と破裂音を溢れんばかりに響かせる。


 膨張した熱が集約し瞼の裏がチカチカと点滅する。

 それでも主のおっぱいにバブバブと溺れながら衝動のまま腰を振っていれば、唐突に視界が弾けた。


 彼女の膣内で肉棒が限界まで膨らんで、精の奔流がフロイラインの子宮に叩きつけられるように注ぎ込まれる。


「あっ、あ゛あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~っっっっ!!!!♥♥♥♥」


 フロイラインは淫らに声をあげながら、白濁液が吐き出される度にその身体を大きく震わせた。


 少年が幾度にも渡る射精を終えて脱力して倒れ込めば、その小柄な身体を受け止めて背中をあやすようにトントンと叩く。


「よしよし♡ いっぱい射精せてえらかったわ♡」


 彼女が視線を下ろせば、おっぱいには少年が必死に吸った跡がくっきりと残っている。

 見えづらいが、首筋にもキースマークがちゃんと刻まれているはずだ。


 彼女の肌が病的なまでに白いだけにより鮮明なように映るが、いまのフロイラインにはそれさえも愛おしく思えた。


「ふふっ♡」


 口元が自然と緩むのを感じながら、彼女は可愛い従者の背中をトントンと叩き続けた。



 しかし、フロイラインには一つだけ致命的な誤算があった。

 あるいはそれを見逃していた、侮っていたと言い換えてもいいのかもしれない。


 彼がその身体から脱力感が抜けると、フロイラインはまだ動けないのを他所に硬さが残ったままの肉棒をゆっくりと動かし始めたのだ。


「え……っ、あっ……ちょっと……んんっ♥」


 精液と愛液が混ざり合いながら飛び散り、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を奏でる。

 再び破裂音がフロイラインの嬌声と重なり合うように寝室内を満たす。


 少年は身体を仰け反らせた主のおっぱいに顔を寄せてちゅぱちゅぱと吸い始める。

 お嬢様、お嬢様と求めるように連呼していて彼女が制止を促しても止めそうにはなかった。


 しかし、当然と言えば当然の話だろう。

 誰かさんのおかげでおっぱいへの飽くなき探究心に目覚めた彼が大好きな主と結ばれて、たった一回のエッチだけで満足できるはずがあるだろうか。


「あ゛あ゛っ……あっ、あ゛っ♥」


 すでにギリギリだった彼女に主として従者を甘やかす余力はもう残っていない。

 あとは彼からされるがままに痴態を見せるばかりだった。


 寝室からはフロイラインの嬌声が一晩中響き続け、後に正気に戻った少年は主に必死に頭を下げたのだという。

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