ヴァルキューレ青ちゃんのあぶない一日

ヴァルキューレ青ちゃんのあぶない一日


しくじった。

いつもの海岸警備のつもりだったのに。


「ああっ、くそっ!鬱陶しい!!」

妙にしっかりした装備の不良共がいるからと目を付け、単独で尾行したのがよくなかった。

あっという間にバレて銃撃戦。しかも応援を呼ぼうと取り出した頼みの通信機は破壊されてしまった。

次の定期連絡までは間がある。その時応答が無ければ本部でも気付いてくれるだろうが、それまで持たせることができるかどうかは……正直、怪しいだろう。


「あいつ、やっぱり……」

不良集団の中でも一際目立つ奴を見る。

ただでさえ分不相応に重装備な集団の中でも、特に目に見えて装備の質が良い。

フルフェイスのヘルメット、全身を覆う防弾仕様のジャケット、巨大だが視認性の良い大楯、台車付きのミニガン、やたら威圧的なメイス。

そして、ヘルメットの下から零れ見える、小さな茎と蕾。


「おい、お前!その姿、"岩"なんだろ!」

「……フン、そういうあんたは"青"ね。いい加減隠れてないで出てきたら?」

「やなこった!撃たずに見逃してくれるんなら考えてやるよ!」

「愚問ね。それこそお断り……よ!」

「……くそっ!」


会話で気を逸らして手榴弾を投げつけるが、予測されていたらしい。容易く盾で弾かれ、明後日の位置で爆発する。


装備の頑強さもさることながら、とにかく戦闘のセンスが良い。

他の不良共は簡単に打ち倒せたというのに、それでもなお追い詰められている。

間違いなく、あの星での記憶を、経験を、十分以上に憶えている。


「お前、何でそんな不良なんかと連んでるんだ!"私たち"の本文を忘れたのか?!」

「それはこっちの台詞よ。群れで戦うのが本領なのに、たった独りで戦闘なんか始めちゃってさ!」

「うぐ……っ。お、お前は、不良と組んで、馬鹿みたいに暴れて!キャプテンに合わせる顔が無いと思わないのか?!」

「……そのキャプテンは!帰ったんでしょうが!!!!」

「うわぁっ!?」


突如激高した"岩"の攻撃で、身を隠していたコンテナごと軽々吹き飛ばされる。

「キャプテンは!もう居ない!私たちのことなんて!見向きもしない!!」

「うわ、この!お前!あの"作戦"には!?」

「いたわよ!当然!私だって!でもね!何にも言えなかった、言われなかった!」

「うぐっ!っ……」


"岩"がめちゃくちゃにメイスを振り回し、埠頭のコンテナの山を次々破壊する。

やがて遮蔽物の陰から炙り出され、気付けばへたり込む私の目の前に"岩"がいた。

「私だけじゃない。あの作戦に参加して、キャプテンと会話出来たやつなんて、それこそ手に乗っけてたあの子ぐらいよ。」

「いつもそう。私たちを指揮して、目的を果たして。ただ感謝の言葉だけ伝えてすぐに帰っていく。私たちがどう思ってるかなんて知りもしない。」

「そ、それは……」


「でも、良いのよ。それで。」

こちらにメイスの穂先を向けながら、ふと、"岩"がヘルメットを脱ぎ去る。

露になったその顔は、間違いなく微笑んでいた。

「え?」

「だって、私たちはもう『ピクミン』じゃない。あの星に生きてた、群れて暮らす、自己の薄い小さな命なんかじゃない。」


「今の私はキヴォトスの生徒!神秘を抱えた精強なヒト!

だから私は好きに生きる!群れのセオリーも!キャプテンの思惑も!もう知ったことか!」


「そ、それでやることが不良の仲間入りかよ……!」

「不良じゃなくて、傭兵って言って欲しいわね。単なる雇われだけど、自分で仕事を選ぶのは愉しいわよ?」


精一杯の反論も鼻で笑ってあしらわれる。メイスを大きく振りかざし、"岩"が真剣な顔で宣告する。

「痛くしないと覚えないだろうから思いっきりやるけど。悪く思わないでよね。」

「う、うぅ……」

「さ!これであんたも私たちの……」


「ちょっと、下がってね~」


「へ?うわっ!」

間延びした声が届いた、その時。裂く様な銃撃音と共にメイスが吹き飛ばされ、"岩"自身も大きくよろけた。

助けが来たのか!そう思って背後を見やる。

そこには、右手に巨大な機関銃と、細長いロボットアームとを備えた、長身で三本角のメイドさんが居た。

え、メイドさん?


「ちょっと!邪魔しないでくれる?!」

「邪魔なのは、そっちですね~」

「っっ!こ、この!馬鹿にして!」


"岩"が吠え、ミニガンを構える。しかしより早く、メイドの機関銃が火を吹く。

「は?ちょっ!?あ、あばばばばばばハワァ……」

ミニガンが粉砕され、目を離した"岩"は、そのまま機関銃の砲火に晒され、あっと言う間に沈黙したのだった。


「あなた、ご無事ですか~?」

「あ、うん。助けてくれてありがと……」

「いえいえ、こちらの事情もあるので~」


腕を引かれ、立ち上がらせて貰う。

何だか、妙に頭上への視線を感じる。

「え、えーっと、あなたは?」

「私、ですか~」

「私は、ミレニアム、サイエンススクール、シーアンドシーの、しがないメイドさんです~」

「み、ミレニアム?どうしてここに?」

「野暮用です~」

「そっか……」


「そ、れ、よ、り~。あなた、もしかして、ピクミンさんですか~?」

「あっはい、そうだけど……?あ、もしかしてあなたもあの星の?」

「そうですよ、会えてうれしいです~」

「そっかそっか、こちらこそ会えt、うん?」


ちょっと待った。

あの星の生き物、機関銃とロボットアーム、そして、煙突みたいな三本の角!

もしや。

背筋にどっと汗が噴き出すのを感じる。

恐る恐る、聞いてみる。

「あ、あの~、つかぬ事をお聞きしますが」

「?なんですか~?」

「えと、その、前世での、お名前とか、教えて戴いても……」

「前の、名前、ですか~?そうですね~」


「何とかキャノンって、呼ばれてた気がします~」

キャノンですか。


「え、えーっと、それは、あの、"ダマグモキャノン"、とか、だったり……?」


「あ!そうそう!それですそれです~!物知りさんですね~」


ハワワァ……(昇天)









「……っっハ!!」

「お~い、大丈夫ですか~?」

「え、わぁああああ!」

「うひゃあ?!何ですか何ですか~!?」


めざめると わたしのまえに ダマグモキャノン じあまり あおぴくみん


「あー!撃たないでくださぁい!」

「撃ちませんよ~????」

「・・・・・・。ホントに?」

「ほんと、ほんと~」

「よ、よかった~。ごめんね、滅茶苦茶失礼な態度取っちゃった。」

「いいですよ、気にしないで~」


深呼吸して動悸を収めようとしていると、察したのかキャノンちゃん(仮称)が背中をさすってくれた。

優しい……。


「ふぅ、落ち着いた。ありがと」

「いえいえ、どういたしまして~。これも、メイドとしてのご奉仕ですから~」

「……そういえば、なんでメイド服?」

「ん~。お話しするのは、良いですけど~。先に、これ、何とかしませんか~?」


そう言って彼女が指示したのは、先の戦闘でダウンした不良軍団。


「あー、そだね……。ごめん、電話借りても良い?私の壊されちゃって……」

「いいですよ、どうぞ~」

「ありがと……。」


彼女から電話を借り、ヴァルキューレの本部に連絡する。

ミレニアムの端末から掛けたということもあり一悶着あったものの、無事回収部隊の出動要請を受理してもらうことが出来た。

一つ安堵の溜息を付き、彼女に礼を言って端末を返却する。


「それで、メイドを、やってる理由ですが~。」

「これは、恩返し、のためですね~」

「……恩返し?」

「はい~。」


「私の腕は、こうですが~。これは、気付いたら、こうなってました~。」

「いたくて、いたくて、ないてた時、ミレニアムの、エンジニア部の皆さんに、助けてもらったんです~。」

「だから、私は、シーアンドシーに入って、ご奉仕で、恩返し、することにしたんです~。」


めっちゃ良い娘だ……。

「それじゃ、ここへは、ミレニアムの用事で?」

「はい、その通りです~。」

「そうなんだ……。ちなみに、何しに来たか教えてもらっても?」


「はい、カイザーを襲います~。」


……ん?

「ごめん待って、もっかい言って?」


「はい、ここら辺の、カイザーの支社を襲撃します~。」


「え、あの、なんで?」

「カイザーが、エンジニア部の発明品を盗んだそうです~。さっきの不良共も、その手先だったことが、すでに判っています~。」

「なので、制裁と、奪還に向かいます~。」


「力こそが全てです。群れてすら弱い生き物に人の物を奪う権利などありません。」


「……カイザーと、不良の皆さんは、そんな常識も、ご存じない様でしたので、ちょっと、体に教えてあげることに、したんです~。」

「痛くしなければ、覚えません~。て、やつですね~。」


「……そっかぁ。」


良い娘だけど。

すごく良い娘なんだけど!

それ以上にヤバイ娘だった!



この後滅茶苦茶本部(と偶然繋がったシャーレの先生)に相談した。

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