ヴァイオレットから見た三代目コラソンの心象
滝落ちやナイショ話やハロウィン書いた人・三代目コラソン√
・時系列…ドフラミンゴによるドレスローザの王位簒奪後、原作開始前
・ギロギロの実の能力に対する独自解釈あり
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ヴァイオレットは椅子に体を預けて眠る青年を見下ろしていた。普段かけているサングラスはすぐ横のテーブルに置かれ、色濃いレンズの下に隠されていた目元が露わになっている。身につけている真っ黒な羽のコートに埋もれてすうすう寝息を立てる彼の寝顔は、幼い顔立ちも相まってやけにあどけない。
彼はコードネーム“コラソン”。ドンキホーテファミリー最高幹部、ハートの席につく男であり……そしてファミリーのトップに君臨する“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴの弟分。その関係性から彼はドフラミンゴの明確な弱点にも見えるが、正しくは“逆鱗”。迂闊にコラソンへ手を出そうとして消された者は数知れずいる。
しかしヴァイオレット──もといリク王家の王女ヴィオラは、危険だと解っていながらもコラソンを能力で“覗く”機会を窺っていた。ドフラミンゴに近しい彼の記憶を探れば、ドレスローザを救う手がかりが得られるかもしれない。そう考えていた。
そのタイミングは思っていたよりも早く訪れた。ヴァイオレットは周囲に人の目がないかギロギロの能力で確認するが、近くに人影はなく接近する者もいない。
────またとないチャンスを逃すわけにはいかなかった。親指と人差し指で輪っかを作り、眼鏡のように両目へ当てる。
「心覗き(ピーピングマインド)」
指の輪越しにコラソンを深く、深く覗き込んだ。彼の思考と記憶の全てを見透かすように。そして……絶句した。
一気に読み込んだ情報量のせいか、内容の凄まじさから受けたショックのせいか。ヴァイオレットを激しい眩暈が襲う。思わず二、三歩後ずさった彼女は、フラリと崩れ落ちるように座り込んだ。
彼の心を覗いて真っ先に目に入ったのは、ひとりぼっちでうずくまった傷だらけの少年。真っ暗な空間の中で家族や友の思い出を必死にかき集めて縋りつき、泣きじゃくって助けを待っていた。おそらく、彼の内心を象徴的に表した光景。
それに動揺する間もなく、続けて目に飛び込んできた記憶にヴァイオレットの心は掻き乱された。
(なんてこと……!まさか彼も、ドフラミンゴの被害者だというの……!?)
命を二度も救われた恩人である先代コラソンの殺害。
ようやく弱さの殻を破って踏み出した矢先に強いられた、最愛の兄や仲間との別離。
長期間に渡る“教育”と称した拷問混じりの洗脳。
唯一の拠り所であったロザリオの破壊。
壊されかけた心が生み出した、ドフラミンゴに傅く従順な人格。
あまりにも惨い仕打ちに、ヴァイオレットの身体は義憤と悲しみで震えていた。口元を押さえて俯く彼女の耳に、チリンと澄んだ鈴の音が届く。
ハッと顔を上げると、いつの間にか目覚めたコラソンが椅子から身体を起こそうとしていた。焦点が合わない金の瞳が床に座り込んでいるヴァイオレットを捉えると、テーブルから手探りでサングラスを拾い上げてかけ直した。
そして懐からノートを取り出して、さらさらと書きつけた内容をヴァイオレットに見せた。
【具合が悪いのか】
「……い、いいえ。ちょっと眩暈がしただけよ」
【無理はするな ところでおれに用事でもあったのか】
そう問いかけられて、ヴァイオレットはこの部屋へ訪れたきっかけを思い出した。
「この間の任務の報告書を届けに来たの。仕事用の机に置いたから、確認していただける?」
【わかった】
「それじゃあ、失礼するわ」
ヴァイオレットはその場で立ち上がると、コラソンから背を向けて部屋を後にした。怪しまれなかったことにホッとしつつも、彼から得られた情報を頭の中で精査する。
(トラファルガー・ロー……)
先ほど覗いた記憶の中でも鮮明に残っていた、コラソンの正体“トラファルガー・ルカ”の実兄。いつの日か必ずドフラミンゴを倒しに来るであろう男。
いずれドレスローザを救う大きな一因となる男に、ヴァイオレットはひっそりと目をかけた。