ワノ国の物語
レイレイむかし、わたしがまだ人形になる前にシャンクスの船で読んだ絵本のお話。
詳しいお話はもう覚えていないけど、小さな男の子と女の子が井戸の前で身長を比べあっていた。
大きくなるに連れてお互い一緒に遊ぶことも少なくなって、だんだん会わなくなってしまった。
そんなとき女の子に縁談が来たけど、女の子の頭に思い浮かんだ結婚相手は昔井戸の前で背を比べあった男の子で…。
ーーーサニー号甲板ーーー
ウタ「うーん、思い出せない…」
ウソップ「どうしたウタ、深刻な顔して?」
ウタ「あ、ウソップ!実は昔読んだ本の内容が思い出せなくて」
ウソップ「へー、どんな話だったんだ?おれも結構本は読むし、もしかしたら知ってるかもしれないぜ?」
ウタ「う~んと、こんな話で…」
ここで冒頭のお話をウソップに話してみたんだけど、ウソップも心当たりはないみたい。まあ女の子向けのお話だったと思うからね。
ウソップ「そうだロビンなら知ってるんじゃないか?
おーいロビーン!」
ウソップが、ちょうど飲み物と本を持って現れたロビンに声をかける。
ロビン「ウタにウソップ、どうしたの?」
ウタ「実はねロビン、昔わたしが読んだお話なんだけど…」
ロビンにもウソップにしたのと同じ説明をする。
ロビン「あら、そのお話は多分だけどワノ国の古いお話ね。ただ、残念だけどわたしも粗筋しかわからないわ…」
ウタ「そっか〜。ロビンがわかんないなら仕方ないかな?
でもなんでわたし、子供の頃にそのお話読んだんだろう?」
ウソップ「確かお前の父ちゃんは昔は海賊王の船に乗ってたんだろ?お前の父ちゃんがワノ国に行ったときにその話の載ってる本を手に入れたとかじゃないか?」
ロビン「それに海賊王の船にはモモの助君のお父さんも乗っていたんでしょう?彼から聞いた話を本か何かにして貴方に読ませてあげたんじゃないかしら?」
そっか、確かによく覚えてないけどあの絵本はもしかしたらシャンクスにとっても思い出の本だったのかも?
そう思うと、内容を詳しく覚えてないことが悔しいし寂しく思えてきちゃった。
ウタ「もうワノ国は出発しちゃったし、今更本を探しに戻るわけにもいかないよねー」
ウソップ「そうだな。ま、長い航海だ。どうしても気になるなら偉大なる航路を一周してまた来ればいいさ!」
ロビン「それもそうね。わたしも次の島に着いたらワノ国の古典がないか本屋さんを探してみるわ」
ウタ「あ、わたしも行きたい!」
そうやってウソップやロビンと談笑していると、笑い声に引き寄せられたのかお昼寝をしていたゾロが目を覚ましてこっちにやってきた。
ゾロ「どうしたんだお前ら?ワノ国に戻るだのどうだの」
ウタ「ああ、違う違う。ワノ国の古典のお話をどこかで調べられないかなーって話てたんだ」
ゾロ「ワノ国の昔話ねェ。どんな内容だ?」
この手の話に疎そうなゾロが話に乗ってきた。でも考えてみたらゾロの故郷は昔ワノ国出身の人が移住した集落だったそうだから、もしかしたら何か知っているかも?
ウタ「うん、こんなお話でね…」
本日3度目の説明で、わたしもだんだん手慣れてきた。
ゾロ「…ああ、あの話か」
ウソップ「え!?ゾロ知ってるのか!?」
ウソップが物凄くビックリしてる。まあ、気持ちはわかるよ。
ゾロ「むかし村の爺さんがおれとくいな…、まあおれの親友だな。そいつに話してくれた昔話にそんな話があったはずだ。
あれは確か…」
ゾロがポツリポツリと、昔を思い出すように話してくれた内容はこうだった。
縁談を断り続けていた女の子のところに手紙が届いた。その手紙には和歌、ワノ国独特の詩が書かれていた。
その内容は要約すると“貴女と合わない間に、わたしの背は貴女と背を比べあっていた井戸を囲む縁を越えてしまいました”だったそうだ。
女の子はお返しの手紙には同じように詩を添えた。
“貴女と遊んでいた頃は短かった髪も、今では肩より長くなりました。貴方以外に髪を結った姿を見せたくありません”
後でロビンに聞いたけど、昔のワノ国だと髪を結い上げるのは成人の証で、当時の女の子は成人と同じくらいのタイミングで結婚したらしい。
つまりこのやり取りはラブレターであり、愛の告白だったらしい。
そしてめでたく結ばれた二人は、女の子の両親が亡くなって貧しくなってからも仲良く幸せに暮らした。めでたしめでたし。
ゾロ「とまあこんな話だったな」
ロビン「ふふ、素敵なお話ね」
ウタ「うん、離れ離れになった二人はちゃんと幸せになれたんだね」
ウソップ「しっかし、ゾロからこんなロマンチックな話が聞けるとは。は、もしかしてこれから異常気象が!?」
ゾロ「んなわけねーだろ!!」
わたしとロビンは素直に感動して、ウソップは余計な茶々を入れて怒られていた。
ちょうどそのタイミングでサンジ君が晩ごはんの時間だとよんでくれたので、わたし達はキッチンへと向かった。
キッチンでもこの話で盛り上がって、気がついたらサンジ君とゾロが喧嘩してたけど、まあいつも通りの賑やかな晩ごはんだった。
ーーーサニー号 夜ーーー
ウタ「ねェルフィ、ちょっとこっちに来て!」
ルフィ「なんだよウタ。夜食の肉ならやらねェぞ?」
ウタ「ちーがーう。それに夜食ならさっきサンジ君からパンケーキ貰ったからいいの!」
他愛無いおしゃべりをしながら、ルフィがわたしの隣にやってくる。
ウタ「うーん、やっぱりルフィの方が高いかァ」
ルフィ「急にどうしたんだよ?」
ルフィの横にピタッとくっついて、身長を比べてみたけどやっぱり私よりルフィの方が背が高い。
ウタ「昔は私のほうが背が高かったのになー」
ルフィ「なに言ってんだ、身長対決はおれの勝ちだっただろ!?」
ウタ「えー、フーシャ村で勝負したときはわたしの方が高かったよ!」
ルフィ「あれはウタがズルしたんだ!」
ウタ「出た、負け惜しみ〜」
舌を出してルフィをからかう。
まあ、ルフィにロマンチックなお話は似合わないか…。
そうやってルフィに寄り添いながら昔話に花を咲かせる。人形になる前の話や、なってからの修行時代の話。
ウタ「ねえルフィ?もしさ、昔わたしが人形にならなくて、でも遠くに行ってルフィと長い間離れ離れになってたらさ、わたしのこと、覚えてくれてた?」
ルフィ「……わかんね」
ウタ「むう、ちょっと真面目に考えてよォ」
ルフィ「だってよ、ウタと離れ離れになるのもウタのこと忘れるのも嫌だからよ。そんな嫌なこと考えたくねェよ」
ウタ「……そっか」
さっきより少しだけ強くルフィに寄りかかって、ルフィの肩に頭を預ける。
ウタ「ありがとう、ルフィ」
夜の海を眺めながらわたしとルフィは暫く無言で寄り添い合った。
ーーーサニー号 トレーニングルームーーー
夕食を摂ってからトレーニングルームへ来たゾロは一人、トレーニングをするでもなく一本の刀を見つめていた。
ゾロ「幼馴染か…」
昼に仲間達に話した昔話を思い出す。あれを聞いたとき、隣にいたくいなが頬を染めていた。あの頃はよく分からなかったが最近のうちの船長とその幼馴染を眺めていると、あのときあいつが何を考えていたのか今更になって多少は理解できた。
ゾロ「……良かったな、ルフィ」
ドレスローザでのことを思い出す。
せっかく人間に戻ったウタに会おうともせず、あいつはドフラミンゴを殴りに行こうとしていやがった。妙な感じがして引き止めたがあの顔は明らかに普段のあいつじゃなかった。
ずっと一緒にいた相棒が人間だったからだけじゃねェ、もっと深い何かがあると思っていたが、ウタが玩具にされる前からの幼馴染だったとはな。驚いたし、あのお気楽頭のルフィがあそこまで混乱するのも納得できた。
…あいつは馬鹿だか、それでも幼馴染を守り通した。
だからまァ、あいつらが人目も憚らずにくっついてるのもわかる。アホコックがうるせえが、気にするほどももんでもねェ。
剣を仕舞い、トレーニング用のダンベルを持ち上げる。
ゾロ「もっと鍛えねえとな」
世界一の剣豪になって、おれの親友の約束を果たすために。
それとうちの鈍感な船長とその幼馴染が無邪気に笑っていられる船を守るために。