ロリウタvsガープ

ロリウタvsガープ


私、ウタがこのフーシャ村でマキノの家に居候を始めてしばらく経った。

 

私と赤髪海賊団がエレジアから帰ってきた後は色々なことがあった。

なぜかしばらく赤髪海賊団がフーシャ村に留まることになったり。ルフィがゴムゴムの実を食べたり。シャンクス達が山賊に絡まれたり。…シャンクスが左腕を失ったり。

そして赤髪海賊団がフーシャ村を発つ時、ルフィがシャンクスから麦わら帽子を預かり、私はこのフーシャ村に住むようにと言われ置いて行かれた。

 

そんなことがあってマキノの家に住み始めた私、今日も日課のマキノの家事の手伝いを終え、ルフィと何か遊ぼうかと出かけた時だった。

 

「だから何度も言うとるじゃろ!ルフィ!」

「そんなの嘘だよ爺ちゃん!」

 

ルフィと誰かが口喧嘩しているのが見えた。

ずいぶんと体格がいい男の人、ルフィが爺ちゃんと呼んでるってことはあれがルフィが度々言っている『とても怖い海兵の爺ちゃん』なんだろう。

なにか紙…新聞?を持っている。

とりあえず話に混ざろうかと近寄った時、そのお爺さんが口を開いた。

 

「この新聞を見るんじゃ!お前が憧れとる赤髪がエレジアという国を滅ぼした!結局あいつも悪い海賊だったということじゃ!」

 

カチンと来た。

 

「ちょっと!ルフィのお爺さん!!」

「ん?」

「あ、ウタ」

 

思わず声を荒げてしまう。二人が私に気付いた。

 

「お嬢ちゃん…もしやマキノが預かっていると言っていた子かの」

「そう!私はウタ!赤髪海賊団の音楽家でシャンクスの娘よ!」

「君がウタちゃんか。ルフィが言っていた友達の。しかし赤髪海賊団?嬢ちゃんが?」

「そう言ったじゃない!」

「ならなんで今この村におるんじゃ?随分前に赤髪共は出航したと聞いたが」

「う、うるさいわね!色々あるの!それよりその新聞の話!」

 

痛い所を聞かれたので新聞を指さしながらすかさず話を戻す。

 

「その新聞が間違ってるの!本当は悪い海賊がエレジアを攻撃して、シャンクス達は頑張って守ろうとしたんだから!」

「そうだ!ウタの言うとおりだ!」

「ほう、誤報と。で、その悪い海賊はなんて奴らなんじゃ?」

「いや、知らない…私寝てたし…で、でも!ゴードンもシャンクスもそう言ってたもん!」

「ほう、ゴードン王がのう…ほーん」

 

態度で分かる。全く私の話を信じてない。ルフィは私の言うことを信じて援護してくれるのに。

ムカムカして思わず足をトントンと踏み鳴らしてしまう。なんで分かってくれないのか。

 

「こうなったら…海賊らしく力で分からせてやるわ!」

「ウ、ウタ!?やめとけ!爺ちゃんはつえーぞ!?」

 

ルフィが止めるがもう我慢できない。

いくらお爺さんだからって容赦するものか。

 

「ルフィは黙ってなさい!赤髪海賊団として海兵に好き勝手言わせない!」

「ほう…ワシと戦う気か…?」

 

お爺さんが腕を組みこちらを見下ろす。

それをキッと睨み返した。

 

「改めて名乗るわ!赤髪海賊団音楽家ウタが相手よ!お爺さんも名乗りなさい!」

「ワシは海軍本部中将!モンキー・D・ガープじゃ!!」

 

なるほど、年を取ってるだけはあって階級も高めだ。

まさか中将とは。

 

……中将?

 

いつだったかベックマンに教えてもらった海軍の階級を思い出す。

上から元帥、大将、中将、少将…

つまり、このお爺さんは上から3番目だ。

 

(もしかして…喧嘩売る相手間違えた…?)

 

少し後悔したがもう遅い。

それに、自分から売った喧嘩だ。逃げるわけにはいかない!

 

「でりゃあああああああ!!」

 

叫びながらお爺さん、ガープさんへと飛びかかった。

 

 

 

結論から言う。

あの決闘は1秒で決着が付いた。

私の渾身の右ストレートはあっさり小指で止められ反撃のデコピンを食らった。

頭が取れて飛んでいくんじゃないかと思うほどの強烈なデコピンを。

そしてやられた私を見て、なんとルフィまで敵討ちとガープさんに立ち向かったのだ。

拳骨一発で負けたが。

すごく痛そうな音がした。ゴム人間のはずのルフィにたんこぶが出来た不思議な拳骨。

そしてガープさんは私達を見下ろし「ぶわーはっはっはっはっは!!」と勝者らしく笑っていた。

 

大人気ない。本当に大人気ない。

シャンクスよりも子供な大人がこの世にいるとは思わなかった。

 

そして今、昔ルフィに紹介された私のステージ、風車の中でガープさんに反撃する作戦会議中だ。

そうなのだが…

 

「爺ちゃんには勝てないと思う」

「どうしたのよ!?そんな弱気になって!」

「無理だよ…」

「なんで泣きそうになってるの!?」

 

ルフィの心が折れていた。

ここに来るまでにガープさんは昔からあんな感じだったのかと聞いただけでルフィはポロポロと泣いていた。

よっぽど怖い思い出があるらしい。

 

シャンクス達の冤罪を認めないだけでなく、弟のようなルフィまで泣かされたのだ。

とにかく何か反撃しないと気が済まない。

だけどどうすればいいのか…必死に頭を巡らせる。

 

真正面から勝てないのならチキンレースみたいな競技で勝負?

いや、上手くいかない気がする。

正攻法でもズルでも勝って豪快に笑ってるガープさんが目に浮かぶ。

何かないか?私が勝つ方法…私が強くなる方法…

私が強い姿になる方法…

 

「あ、いいこと思いついた」

 

私の呟きにルフィが首をかしげる。

だが私の頭の中は思いついた秘策でいっぱいだ。

なんで今まで思いつかなかったんだろう、私の能力ならおそらく出来ることだ。

今までやったことが無いことだからぶっつけ本番だが、やってみる価値はある!

 

 

 

所変わって村長の家、その傍に生えてる大きな木の陰に私とルフィは隠れている。

マキノに聞いたところ、ガープさんは用事があって村長の所に来ているらしい。

出てきたところを不意打ちすることにして今は待ち伏せ中だ。

 

「なあウタ、本当にやるつもりなのか?」

「もちろん!私のウタウタの力に任せなさい!」

 

思いついた秘策、それはウタワールドで戦うことだ。

ウタワールドは私が自由に操れる世界、今までだって船室で留守番中にウタワールドに行き、空を飛んだり、巨人になってみたり好き放題して暇を潰していた。

そしてウタワールドでは他の人も私の歌を聞けば招き入れられる。

つまり、ウタワールドにガープさんを入れて、最強無敵の私に変身すればガープさんに勝てる!…はずだ。

実際今までこんな使い方思いつきもしていなかったから、そんな攻撃力があるものになれるかも分からない。

もしかしたら武器を作ってもただのハリボテが出来るだけかもしれない。

ただやってみる価値はある。これ以外でガープさんに勝てる道筋はおそらくない。

 

そんなことを考えているとガープさんが村長の家から出てきた。

手筈通り、まずルフィだけが木陰から出てガープさんに話かけ隙を作ってもらう。

そして私が合図と同時にルフィは耳を塞ぎ、私が歌う予定だ。

作戦を始めようとルフィを見るが…

 

「なあウタ…やっぱりこんなことやめようぜ」

「なんでよ!大丈夫、ガープさんが怒ったとしても私にだけよ!ルフィは安心して!」

「そうじゃなくてよ…」

「お前さんたちそんな所で何しとんじゃ?」

「キャアアアアア!?」「ギャアアアアア!?」

 

向こうにいたはずのガープがいつの間にか私達の背後にいて話しかけてきたので思わず私とルフィは悲鳴を上げてしまった。

瞬間移動!?もしかしてガープさんも能力者!?と焦ったが、それよりも作戦を実行するべき!とすぐに思考を切り替える。

 

「ルフィ!!」

 

ルフィの名前を呼ぶ。あらかじめ決めた合図だ。

ルフィが耳を塞ぎ、ガープは怪訝そうな顔をした。

そして私は——歌った。

 

『この風はどこからきたのと——』

 

さあ勝負だ!ガープ中将!

 

 

 

 

「ここは…!?」

 

一面の草原、ウタワールドであるそこへ突然意識が移ったガープさんが困惑の声を上げる。

 

「ガープさん!私と勝負よ!今度は負けないから!」

「ウタちゃん、お前さんまさか…!」

 

ガープの言葉を無視して私は強い私に変身する。

シャンクスとお揃いのマントを肩にかけ、麦わら帽子をかぶる。

そして右腕にはシャンクスの愛剣グリフォン、左腕にはベックマンの銃を作り握った。

本物なら重くて両手で持ち上げるのもやっとだろうがここはウタワールド、軽々と持ち上げる。

予想通りだ、ちゃんと戦えるものを作れる!

 

「まだまだあ!」

 

そう叫び次は味方をたくさん作る。

頭が音符の兵士を何体も何体も…数十体生み出す。

さらに巨大な軍艦も何十隻と生み出す。

その軍艦たちはまるでハリネズミのように大砲を生やし、大地を割りながら進む。

想像以上だ!ここまでなんでもできるなんて!

 

「いっけー!!」

 

そう叫びまずは兵士を5体、ガープさんへ向かって凄いスピードで飛ばさせた。

その時気付いた。

ガープさんがとんでもなく険しい顔をしていたことに。

違和感を持った瞬間、ガープさんの両手が消え、音符の兵士5体は弾けて消えた。

 

「え!?な、なに!?」

「ウタちゃん…今すぐやめるんじゃ」

「う…うるさい!負けないから!」

 

そう言って思いっ切りジャンプしてガープさんへ飛びかかる。

現実の世界じゃ絶対に出来ない大ジャンプ。

険しい顔で身構えるガープさんへ高く掲げたグリフォンを振り落とそうとして——

私は突然の急激な眠気に襲われて意識を失った。

 

 

 

目を覚ますと最近見慣れた天井、マキノの家であてがわれた私の部屋だった。

どうやらベッドで寝かされてるらしい。

きっとウタウタの実の能力を使いすぎて寝てしまったんだろう。

いつもならもっと長く歌えるはずなのに…武器や兵士を作ったり戦わせるのは普段より疲れるみたいだ。

 

「あ、ウタちゃん起きたのね」

「ウタ!」

 

マキノとルフィが私の顔を覗き込んできた。

「おはよ」と短く返して身を起こす。

 

ルフィ達の背後…椅子にガープさんが座っていた。

 

「マキノ、ルフィ。言った通りウタちゃんと話す。二人にさせてくれ」

「待ってくれよ爺ちゃん!だからウタは!」

「ほら、ルフィ。店で待っていましょ。…あまり強く言わないであげてくださいね?」

 

そう言ってルフィとマキノは部屋から出ていき、私とガープさんだけが残された。

重い空気が流れる中、ガープさんが口を開いた。

 

「ウタちゃんは悪魔の実の能力者じゃな?何の能力者じゃ?」

「…言わないとダメ?」

「言いなさい」

 

有無を言わせない雰囲気で身が竦む。

私は目線を逸らしながら答えた。

 

「ウタウタの実」

「なっ…そうか、ウタウタの実…ならばワシがウタちゃんと戦った場所がウタワールドということじゃな?」

「うん…」

 

何故かウタワールドのことも能力も知っているようだ。もしかしてウタウタの実って有名なんだろうか…

 

「ウタちゃん、よく聞きなさい」

「な、なに…?」

「あんな能力の使い方をするんじゃないっ!!!」

「っ!」

 

怒号に思わずビクリと体が跳ねた。

 

「ウタワールドでのお前さんは際限なく、想像のまま力を発揮できる状態じゃ!そんな力、人に向かって振るうんじゃないっ!!」

「わ、私は…ただ能力の新しい使い方を思いついて…」

「ウタワールドは心そのものを引きずり込む世界じゃ!あんな強大な力を振り回し続ければ、いつか誰かの心を直接傷つけ壊すぞ!体が無事だとしてもじゃ!」

「…傷つけ、壊す…」

 

傷つく…その言葉で思い出したのはあの時のこと。

山賊に攫われたルフィをシャンクスが取り戻して帰ってきた。

左腕を失った状態で。

 

あの時、その状態のシャンクスを見た時は血の気が引いて、頭が真っ白になった。

ホンゴウさんとフーシャ村のお医者さんが慌てて治療を開始したのを覚えている。

その時私は、泣きじゃくってるルフィの傍にいることしかできなかった。

ルフィを支えていたわけでも無い、ただ大けがをしているシャンクスを、大丈夫だと言うが脂汗を浮かべてるシャンクスを見て、このままいなくなってしまうんじゃないかと怯えていただけだった。

 

もしあの使い方を続けていたら…誰かを傷つける?

またあの時の怖さをいつか味わう?

もしかしたら…目の前のガープさんがそうなっていたかもしれない?

私はろくに考えずにそんな使い方をしていたの…?

 

そう思うと寒気が止まらない。

思わず自分の肩を抱くとガープさんが「ふぅ…」と息を吐き一旦落ち着いて話し始めた。

 

「お前さんが寝とる間、ルフィの奴が言っておったんじゃ。『ウタが歌をこんな使い方したのは今日が初めてだ』『止めなかったおれが悪いんだ』『いつもはもっと皆が楽しめるように歌う』とな」

「ルフィが…?」

 

ルフィは私の能力の使い方は駄目だと分かっていたらしい。

私は新しい使い方を思いついて舞い上がっていたのに。

 

「それとな、実はワシは村長の家に行く前に村の皆にウタちゃんの話を聞いていたんじゃ」

「私の?」

「うむ、皆ウタちゃんは元気な良い子だと言っておったぞ。それと、ウタちゃんは歌うのがとても上手い、あの子の歌を聞くと元気が出るとな」

「私の歌のこと…そんな風に?」

「ウタちゃん」

 

名前を呼ばれてガープさんの方を見る。

ガープさんはまるで私を心配しているような表情で言葉を続けた。

 

「皆、ウタちゃんの歌を素晴らしいと思ってくれとるんじゃ。その歌を、誰かを傷つけるためには使わんで欲しい」

「あ…」

 

『なあウタ、この世界に平和や平等なんてものは存在しない』

『だけどお前の歌声だけは、世界中のすべての人達を幸せにすることができる』

 

エレジアでシャンクスに言われた言葉を思い出した。

皆が私の歌をそうやって信じてくれてる。

それなのに私は今日、その歌を軽率に武器にしようとした。

何が起こるかどうかも分からず、舞い上がった気分のまま。

それを自覚してポツリと言葉が漏れた。

 

「ごめん、なさい…」

 

一度こぼれた言葉は止まらない、涙も溢れて止まらない。

 

「ご、ごめんなさい!私…私…ごめんなさい!えぐっ…ごめんなさああああい!!」

 

ボロボロと泣きながらガープさんへ謝り続ける。

皆が私の歌を褒めてくれていたこと。

その歌を軽い気分で振り回した罪悪感。

そんなものにガープさんを巻き込んでしまった申し訳なさ。

それがおかしいと気付けなかった自分の浅はかさ。

それが出来てしまった自分への能力の怖さ。

それら全部が頭の中でぐちゃぐちゃになりながら泣き、謝り続けた。

 

不意に頭に何かが触れた。

ガープさんが私の頭を撫でてくれている。

ごつごつとしているが優しい腕だった。

 

「分かってくれればいいんじゃ。びっくりさせてすまんかったな」

「ぐすっ…悪いのは、私だよ…」

「あとこれも言っておきたいんじゃが」

「…?」

 

撫で続けながらガープさんが話を続ける。

 

「今回のことは使い方を間違ったことが原因じゃ。ただ、お前さん自身には自分の能力を怖がらんでほしい」

「でも…」

「ウタウタの能力は心を傷つけるかもしれないが、心を救うことだってできるはずじゃ!今までそういう使い方をしてたんじゃろう?」

「うん…」

「なら大丈夫じゃな!一度失敗を学んだんじゃ、同じ失敗を繰り返さなければ良い!」

「私…ウタウタの力使い続けてもいいのかな…?」

「うむ!」

 

海軍中将に太鼓判を押された。

物心ついた時から持っているこの力、使い方をもうちょっと考えてみよう。

そう考えていたが涙は止まらなくて、しばらく泣きながら謝り続けた。

 

 

しばらくしてやっと涙が引っ込んだ。

 

「あのガープさん…今日は本当にごめんなさい!」

「何度謝るんじゃ!ぶはは!」

 

何回謝っても謝り足りない。何かお詫びにできることは無いかと考えたが…やっぱりあれしか思いつかない。

 

「あの…ガープさん、お詫びに歌、聞く?」

「歌を?」

「あ!もちろんウタウタの力は使わないから!」

 

やっぱり自分には歌しかない。

と言ってもウタワールドに引き込んでボコボコにしようとしたばかり、警戒されるに決まって…

 

「聞かせてくれるのか!?ありがたいのう!」

「え…いいの?」

「もちろんじゃ!村の皆の話を聞いてワシもぜひ聞いてみたいと思っとったからのう!」

「分かった、じゃあ歌うね!」

 

私はベッドから降り部屋の中心あたりに立つと、大きく息を吸い込んだ。

 

『この風は どこから来たのと 問いかけても空は何も 言わない』

 

先ほどと同じ歌を、今度は戦うための道具じゃなく、心を込めて歌った。

ガープさんは微笑みながらしっかりと聞いてくれている。

やっぱり、あの歌の使い方は駄目だったなと改めて痛感した。

 

結局その後は私の歌を聞いて話が終わったと思ったルフィが部屋に飛び込んできて、マキノもルフィを追いかけて入ってきて…いつの間にかルフィと二人で大声で合唱してた。

ガープさんもマキノも笑っていたから、きっとこれでいいんだ。

もうちょっとだけ、自分の能力のことをちゃんと考えてみよう、そう思った日だった。

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