ロビン加入

ロビン加入


 天気晴朗波穏やか。船体に幾つもの傷を負いつつも、ゴーイング・メリー号はつつがなく海を行く。

「もう追って来ねェな・・・海軍の奴ら・・・」

「んーー・・・」

「んーー・・・」

「んーー・・・」

「突き放したんだろ!?」

「んーーー・・・」

「んーー・・・」

「んー・・・」

 ——船員たちの、気力以外は。

「あのな・・・何だよその気のねェ返事は・・・」

「「「「「「さみしーーーーー・・・・・・」」」」」」

 ここまで共に旅をしたアラバスタの王女・ビビとの別れ。双方納得してのことではあるが、納得することと寂しく思うことはまた別問題。

「めそめそすんな!そんなに別れたくなきゃ力づくで連れてくりゃよかったんだ」

「うわあ野蛮人・・・」

「最低・・・」

「マリモ・・・」

「迷子の迷子の腹巻きマン・・・」

「三刀流・・・」

「待てルフィ三刀流は悪口じゃねェぞ」

「四刀流・・・」

「増えてどうすんだよ!

 ・・・いいかナットウあるだろ。ナットウにお前腐ってるとか言ってもよ・・・」

「わかったよ好きなだけ泣いてろ」

 一人気力の落ちてないゾロの乱暴な発言に轟々とあつまる非難の数々と、それに呆れ混じりに返すゾロ。まあつまり、およそいつもの航海の風景であった。


「やっと島を出たみたいね・・・ご苦労様」

「「「「「「「!!!!??」」」」」」」

 その人影が登場する瞬間までは。


「組織の仇討ちか!?相手になるぞ・・・!」

 刀に手をかけ構えるゾロ。

「何であんたがここにいるの!!」

「敵襲~~!!敵襲~~!!!」

 動揺するナミとウソップ。

「キレーなお姉サマ~~~っ♡」

 興奮するサンジ。

「ちょっとそれ私の服じゃん!何で着てるの!」

 相手の服を見て憤るウタ。

「ああああああああっ!・・・・・・誰?」

 ひとしきり驚くも面識がないことに気付き落ち着くチョッパー。

「あ!・・・なんだお前じゃねェか!生きてたのか」

 そして割といつも通りなルフィ。


「そういう物騒なもの私に向けないで——って、前にも言ったわよね?」

 そんな一味を尻目に、胸元に形容しがたい人の顔が付いた太陽のような模様がワンポイントで入っているウタの服を纏った人物——ニコ・ロビンは、どこからともなく生やした「手」を使い、構えるゾロ・ナミ・ウタの手から得物を叩き落とした。


「あなたいつから!?」

「ずっとよ――下の部屋で読書したりシャワー浴びたり。これあなたの服でしょ?可愛いわね、借りてるわ」

「・・・!」

「何のつもりよB・W(バロックワークス)!」

 ロビンの言葉に固まるウタと怒るナミなどどこ吹く風、悠々と折り畳みチェアを広げ座ったロビンは「モンキー・D・ルフィ」と、この船の船長の名を呼んだ。

「あなたが私に何をしたか・・・忘れてないわよね・・・?」

「な!・・・ナニっておいルフィてめェ!キレーなお姉さんにナニしやがったんだオォ!!?」

「ねぇルフィ?何したのねぇルフィねぇ?」

 がくんがくんとサンジとウタに揺さぶられるルフィだが、身に覚えがないらしく困惑の表情を浮かべている。

「おいお前ウソつくな!おれはなんもしてねェぞ!!」

「いいえ、耐え難い仕打ちを受けました。責任・・・とってね」

「「!?」」

 がっくんがっくんとさらに激しく二人から揺さぶられるルフィ。

 その後ろでは、困惑するチョッパーと拡声器で威嚇するウソップが事の成り行きを見守っている。

「意味わかんねェ奴だな。どうしろっていうんだよ」

 ようやく二人から解放されたルフィが尋ねれば、ロビンはとんでもない言葉を繰り出した。

「「「「「は!!?」」」」」



(地下神殿での回想シーン)



「死を望む私を生かした・・・それがあなたの罪。

 私には行く当ても帰る場所もないの——だからこの船において」

「何だそうか、そらしょうがねェな。

 いいぞ」

「「「「ルフィ!!!!」」」」

 あっさりそう言ったルフィに、よく分かっていないチョッパーと口をつぐみロビンを見つめるウタ以外の全員から(約一名は喜びの声だが)ツッコミが入る。

 一方のルフィは、いつもと変わらぬ笑顔で快活に言い切った。

「心配すんなって!!こいつは悪いやつじゃねェから!!!」


「8歳で「考古学者」。そして”賞金首”に」

「考古学者?」

「そういう家系なの。

 その後20年、ずっと政府から姿を隠して生きていた。子供一人で海に出て生きて行けるわけもなく・・・色んな”悪党”に付き従う事で身を守ったわ。

 お陰で裏で動くのは得意よ?お役にたてるはず」

「ほほう自信満々だな・・・何が得意だ?」

「暗殺♡」

「ルフィ!!!取り調べの結果危険すぎる女だと判明!!!」

 ロビンに対し取り調べを行っていたウソップが泣きながら報告する。

 一方の船長はと言うと、チョッパーと一緒にロビンが「ハナハナの実」の能力で各所から生やした「手」とじゃれていた。

「聞いてんのかおめェら!!!」

 ウソップの声が飛ぶが、ゲラゲラ遊んでいる二人には聞こえていないらしい。

「まったく!おいウタ、お前からも言ってやってくれよ。この女絶対危険だって!」

「んー、私はいいと思う。このまま乗せても」

「は!?」

 業を煮やしてウタに話を振ったウソップだったが、返ってきたのは意外な言葉だった。

「ルフィが『悪いやつじゃない』って思ったなら大丈夫だよ。

 もし何か企んでるんだとしても、その時は私たちが止めればいいだけだしね」

 幼少期から共に過ごした信頼の成せる業か、穏やかな表情でウタは語る。だが次の瞬間、表情を引き締めたウタはロビンにピシッと指を突きつけた。

「でもそれはそれとして!船に乗るのなら私はあなたに言っておかないといけないことがある!!」

「?」







「こ、このシャツって、どうかな?私としてはめちゃくちゃ可愛いと思うんだけど・・・」

 震える手で差し出したのは、アラバスタで買った味のある顔をしたラクダ?がデカデカと描かれたTシャツである。

「ええ、可愛いと思うわ。特に目つきが」

「!!!?

 だよねー!!他にもね、こんなのとかこんなのとかも——!」

「ねえウタ。まさかとは思うけどファッションセンス褒められたから大丈夫だと思ったとかじゃないわよね?」

 ナミからのツッコミが入るが、ルフィとともに出航して以来初めてTシャツのセンスを褒めてもらったウタにはどこ吹く風。お気に入りの秘蔵Tシャツたちを持ってきて、ロビンに感想をねだっている。


「まったくもう。軽くあしらわれちゃって情けない。

 ——どうかしているわ!!今の今まで犯罪会社の副社長やってた、その女はクロコダイルのパートナーよ!?ルフィたちの目はごまかせても私はダマされない。

・・・妙なマネしたら私がたたき出すからね!!」

「フフ・・・ええ、肝に銘じておくわ




そういえばクロコダイルの宝石少し持ってきちゃった」

「いやん♡大好きよお姉様っ!」

「「おいおいおいおい」」

 ウタに続きナミ陥落。スピード感でいえばウタよりも勢いのある俊足の変わり身であった。

「ナミがやられた!!」

「悪の手口だ」

 危機感を募らせるゾロとウソップ。

「ああ恋よ♡

 漂う恋よ♡

 僕はただ漆黒にこげた体を

 その流れに横たえる流木・・・

 雷という名のあなたの美貌に打たれ

 激流へとくずれ落ちるぼくは流木・・・

 おやつです♡」

「まあありがとう」

「あれは当然ああだしな」

「ああ、あれはもうハナからナシの方向で」

 ウキウキでロビンたちのテーブルにおやつを運ぶサンジを計算から外し、ゾロとウソップは改めて決意を新たにした。

「俺たちが砦ってわけだ」

「まったく世話のやける一味だぜ!!」

「ウソップーーー!」

「ア!!?」

吹き出してルフィたちと笑い転げるウソップを見ながら、結局渋面のゾロだけが残された。

「ねえサンジ、ロビンに言ってたやつもっかいやって!なんかインスピレーション降ってきそう!」

「イィよ~ろこんで~~♡」

「ちょっとウタ!インスピレーションもいいけど床に書いたらちゃんと掃除しときなさいよ!」

「はーい!」

「サンジおやつまだかァ!」

「ちょっと待て!」


「・・・・・・いいわね。いつもこんなに賑やか?」

「・・・・・・ああ、こんなもんだ」

新たなる船員を加え船は往く。数分後に始まる、次なる大冒険の物語へと向かって——。








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