ロゼがマスターと遊ぶ話

ロゼがマスターと遊ぶ話

アルカリ性ペンダント

 なんとなく違和感があって目を覚ました。ここは知らないだと、直感的に悟った。そのまま上体を起こそうとして初めて、自分の体が動かせないことに気付いた。唯一自由だった首を傾けて見てみると、手首、足首、腸骨の上辺りをそれぞれ覆うようにして、ベルトのような機械が体をベッド(と言うには少し傾斜があるが)に縛り付けている。きっと鎖骨にも同じような拘束具が付いているであろうこともその感覚で理解した。

 その上で理解できないのは、まずなぜ自分はここに大の字で拘束されているのか、そもそもここはどこなのか。そして――

 そしてなぜ全裸なのか、ということ。

 直前の記憶が正しければ、俺は自室のベッドで眠っていたはず。

 拷問?それとも人体実験か?少しずつ靄の晴れてきた頭で様々思索を巡らせていると、ウィンとドアが開く音がした。入ってきたのは、黒い軍服に身を包んだ少女。つかつかと歩み寄り、こちらを覗き込む。

 「目が覚めたようですね。おはようございます」

 「……お前は」

 俺はこの少女を知っている。『閃刀姫―ロゼ』。列強によって開発された兵器、「閃刀」を扱える人間。そんな人物の目の前で拘束されているということは。

 レイが危ない。

 「――レイの居場所は教えない。好きなだけ尋問すればいい」

 眉間に力を込め、凄む。

 しかし彼女はそんな男の表情を意にも介さず。

 「彼女に用はありません」

 無表情のまま冷たく言った。

 どういうことだ?俺からレイの情報を聞き出すのが目的ではないのか?もしかしてレイも既に捕らえられて――

 次の瞬間、甘い痺れが脳に走った。

 「んっ」

 突然のことに、声を漏らしてしまった。

 「どうかしましたか?」

 無表情のまま尋ねられる。見れば、ロゼの手が左の乳首を摘まんでいる。

 そのまま、クリクリと刺激を与えられ続ける。ときに乳輪をなぞるように、ときに強く摘まんで引っ張り上げ。彼女の手は、まるでそこだけ独立した生物のように動きを様々に変え、その度に異なる快感に襲われる。

 「んっ、あっ」

 逃げ場の無い快楽に、ただ情けなく喘ぐしかない。

 「気持ちいいのですか。まるで女性のようですね」

 ロゼは顔色一つ変えず、すっかり勃起しきった乳首を弄り続ける。黒い手袋のさらさらとした素材が、気持ち良さを増幅させているように思えた。

 「顔が緩んでいます。気持ち悪いです」

 そう言いつつも右手は緩めない。

 ふと下半身に視線を送るロゼ。ペニスは既に勃起していた。

 「……包茎なのですね」

 幾分か嘲笑を含む声色だった気がした。

 「んっ、なっ、何でこんなっ、あっ、お前っ、目的はっ「黙っていてください」

 必死に言葉を紡ごうとした口は、ロゼの口によって塞がれてしまった。唾液と共に、何か固形物を口内に流し込まれる。反射的に飲み込んでしまった。戸惑う暇もなく、そのまま舌を挿れられる。蠢く触手をも思わせるそれは、男の舌を、歯肉を、頬を、上顎を、軟口蓋を、喉奥を、余すことなく蹂躙する。唾液は絶え間なくロゼの口内から分泌され続け、ぐちゅぐちゅと淫靡な音を立てる。

 「んふっ……」

 ロゼの目が一瞬歪んだかと思うと、余った手で鼻を摘ままれた。酸素の供給を絶たれてしまったことに気付いてもがこうとも、拘束は固く、ロゼ自身の力も常人のそれを越え、寸分も動けない。唯一の生命線であるロゼの僅かな吐息を死に物狂いで吸い込む。甘い香りが鼻腔に届いた気がした。体を震わせ、意識が薄れかけてもなお、舌責めは続行される。

 たっぷりと数分間の捕食のようなディープキスを終え、男はようやく地獄から解放された。

 ぷはっ

 唾液が銀色の糸を引き、切れる。

 口元を拭うロゼ。

 「失礼しました。少々やり過ぎてしまったようです」

 ロゼの唾液が気道に入り込むのも厭わず、大きく息を吸い込む。

 「しかし、なかなか"情熱的"でしたよ」

 ロゼの言葉に対し、何かを言い返す気力すらなかった。そんな男を見下ろし、ロゼは淡々と告げる。

 「先ほど貴方が私の大量の唾液と共に嚥下したのは、脳下垂体に作用し性的興奮を高める薬です」

 それは、つまり。

 「端的に言えば、媚薬です」

 顔をぐっと近づけ、吐息が当たる距離、耳元で囁く。

 「おいしかったですか?」






 れろれろ、ぐりぐり、ぴちゃぴちゃ、ぎゅっ。

 「いやぁっ、んぅっ、くっ、あぁっ」

 部屋中に響く、激しい愛撫の音と嬌声。

 薬を飲まされてから十数分、男の乳首は苛められ続けていた。

 体に覆い被さって、左の乳首を舐めしゃぶられる。コリコリに固くなった先端を、まるでヤスリ掛けするように、柔らかだが少しざらついた舌が執拗に這い回る。時折赤い舌を出しながら上目遣いでこちらの表情を観察する様は、ひどく嗜虐的であった。

 「ひぅっ、ふあぁっ」

 反対側の突起は、休むことなく指先の餌食になっている。親指と中指でせり上げられた先を、手袋越しの人差し指でカリカリと引っ掻かれ、刺激に慣れる前に爪の先で押し潰される。

 「んぐっ、はぁっ、あっ」

 そうしてしばらくすると、左右の責めが入れ替わる。厳しく躾けられた側を撫でるように癒し、優しめに甘やかされた方には手酷いお仕置きが与えられる。

 腹に当たる薄い胸も、男の性感を加速させる一助となる。下着越しでは味わえない、微かだが柔らかい感触。

 しかし、決して陰茎には触れてはくれなかった。我慢汁が湧き水のように溢れ出る。床に水溜まりを作っているのではないかと言うほどに。

 気が狂いそうになる。媚薬で高められた気持ち良さを受け止めるしか無いのだ。性感は積もり積もって、しかし放出は許されず、無限に重なっていく。許容限界はとうの昔に超えていた。

 「んあぁぁぁぁぁぁっ!」

 ロゼはぢゅうぅっと下品な音を立てて乳首に吸い付き、そのまま吸い尽くす勢いで首を持ち上げ、ぢゅぽんっと放す。ようやく終わったのだ。

 「ただ乳首を刺激していただけなのですが、このザマですか。情けないですね」

 やはり眉の一つも動かさずに、ロゼは冷ややかな言葉を向ける。

 「ち、ちが、これはっ」

 「何が違うというのですか?」

 「あぁっ」

 すっかり敏感になった乳首を強く摘ままれ、反論を制されてしまう。

 「今、実際に乳頭を刺激しています。普通の男性なら痛みと認識する強さの筈です」

 そう言いながら、手に込める力を強める。

 「いやぁっ、んっ」

 「それを貴方は快感として受け取っています。どういうことでしょうか。説明して頂けますか?」

 「これはっ、び、びやくがぁっ」

 「いいえ、媚薬のせいではありません」

 ロゼは男の言葉をはっきりと否定する。

 「私が最初に貴方の乳頭を弄ったとき、貴方は情けなく包茎のペニスを勃起させていました」

 詰問口調で続ける。

 「覚えていますか?あの時はまだ媚薬の投与前です」

 ぱつんと乳首を弾かれる。脳はこれを快感と受け取る。

 「更に情けないことに、恥ずかしい声まで漏らしていましたね。女性でもあのような声はなかなか出せません」

 心臓の鼓動が早まるのを感じる。

 「つまり貴方は、被虐趣味をお持ちなのですね」

 「そ、そんな、おれ、は――」

 「事実を述べたまでです」

 鼻先が触れ合うほどの距離まで近づき、合わせられた目を逸らせない。光のない瞳に吸い込まれそうになる。

 「それともこう言ってほしいですか?」

 その時、ロゼは笑っていた。

 「『変態』」

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