ロジャー海賊団
今日のミッションは重要だ。
抜き足差し足忍び足、小柄な二人は軋む音一つ立てないで目的の場所へと急ぐ。歴戦の猛者である船員に接触しないよう見回りの時間はきちんと把握していた。
バギーの足を抱えて静かに歩くシャンクスと、体を浮かせて索敵をしながら前を進むバギー。敵船さながらの緊張感で二人の喉はカラカラだった。
たどり着いたのは食堂、その中のキッチン。バギーは首と手首を分離させて床に耳を付ける。床をノックすると、一か所だけ音の違う場所があった。シャンクスにアイコンタクトをとって針金を準備させる。一か所一か所床のくぼみを探していくと、ちょうど針金の入る穴が見つかった。
針金を入れててこの原理で床板を浮かし、シャンクスが床板を支えた。中にはいくつかの瓶詰が入っており、そのうちの一つを持ち上げて現場を元に戻す。
思わず二人でガッツポーズをすると、そこに人工的な光が当てられた。
「なにしてんだ! バギー! シャンクス!」
「やべえ! ギャバンさんだ!」
「走れシャンクス! おれの足を持って!」
「がってん!」
「くォら! 待ちやがれ!」
ミッション失敗。
大慌てで走り去るシャンクスたちの悲鳴とギャバンの怒声がオーロ・ジャクソン号に日々樹渉。
◆
レイリーは船長室で酒を飲みながらそわそわとしていた。先ほどから立っては座ってを繰り返すその様子を見て呆れたため息を付いたのは意外にもこの部屋の主のロジャーだった。
「あのなあ、そんな落ち着かないならガキ共に任せなきゃよかっただろ」
「前にやって以来あそこらへんの床が少し薄くなってて音が響く様になってるんだ。おれじゃ音でバレる」
「だからってガキを行かせるか普通?」
レイリーにも譲れぬ意地がある。久しぶりに仕入れられた幻の酒があの床下収納の中には入っているのだ。どうしても一口飲みたい、いや一口で済むとは言っていないが。
「ロジャー、お前も別に待ってなくていいんだぞ? さっさと部屋に戻ると良い」
「ここおれの部屋なんだよなァ。それに幻の酒ってのも気になるしよォ」
「お前酒そんなに好きじゃねェだろ」
「そういうこと言うもんじゃねェぞ相棒」
そう言ってロジャーは笑うとベッドにまた腰かけた。ここ最近、体の調子が悪くなり続けている。今日レイリーが部屋に押し掛けたのも昨日また血を吐いて倒れたロジャーを気にかけたからだった。
別に理由は何でもよかった。
ただ、一緒に部屋にやってきたバギーとシャンクスを遠ざける理由が少しだけほしかったというのはある。勝手な話だが、この船長が「船長」でなくていい時間を少しでも作ってやりたかった。
「……お? 帰ってきたか」
ロジャーがそうつぶやいたのを聞いて振り返ろうとする。だが、聞こえてくる足音が妙に大きいのと自分の見聞色のせいでこれからの未来が見えてしまい、レイリーは頭を抱えた。
ほどなくして扉が開かれる。
首根っこを掴まれた哀れな見習い達が「すみませんでした……」と項垂れているのは愉快だが、怒気を隠そうともしないギャバンの顔を見るのが怖くて、顔を俯かせたまま土下座した。