レシピの確認
結局、送られてきたメニュー全てに目を通すのに1週間もかかった
何せレシピの数自体が相当な量であるし、その見た目の確認のために実際に作ったものを写した写真も同時に送らせたため、最終的には300枚を超えるほどのになってしまったのだ
それに提出されたメニューの大部分は実際グラン・セーニョのレストランで提供するつもりでいるので、流し見するわけにもいかない
一つ一つ細部に至るまで確認し、気になる点はゼフに確認、これの繰り返し
中でも判断に困ったのは、味の想像のつかない料理
送られてきたレシピの中には高級、庶民向け問わず、慣れ親しんだ家庭料理や様々な海の郷土料理なども多かったが、ゼフのオリジナルと思われるものも少ない数入っていた
その中でも説明書きや作り方、添付された写真を見ただけでうまそうだと思えるものも多々あったが、所見ではうまいかどうかの判断もつかないようなものもその分多く見られる
そういったものは今回のために用意したシェフに実際に作らせ、私自身の舌で確かめる
当然、一応の確認のために味の想定が付くものもランダムに数品作らせた
そして分かった、どれもこれもが実に美味い
味の想像がつかなかったものが美味かったのもそうだが、慣れ親しんだ料理もわずかな隠し味でまるで違ったものに思える
その美味さはレシピ通りに作らせたシェフも味見して舌を巻いたほどだ
私の判断だけではデータとして不足だったため、バカラやタナカを始めとした我が家の使用人たち、ゴードン殿にウタ、そしてテゾーロ達劇団の者たちにも食べてもらったが、皆一様にその味に驚き、口々に「おいしい」と声を上げる
もはや味に関しては何の文句もつけようがない
そしてすべてのレシピを確認して気付いたことがある
これらの料理、一切の無駄がない
というのも、これらの料理、発生する生ごみの量が驚くほど少ない
いいや、ほとんどないと言っていい
高級志向の料理はもちろん比較的高価な食材や希少な部位を使っているが、こと庶民派の料理の中には、本来であれば捨ててしまうような野菜くずや切れ端、味が悪かったり固かったりする部位を使った料理も多く見られた
そしてこれがまた美味い
ともすれば高級志向の皿にも匹敵するほどだ
しかもご丁寧に、どうしても食えない出汁を取った後の骨や貝殻などを粉砕して作る魚用の撒き餌のレシピまである始末
この徹底して無駄な食材を出すまいとする精神は、さすがは海上で食材が尽きる恐ろしさを誰よりも知る海のコック、というべきだろう
味もいい、無駄もない、そして盛り付けもまた見事
もはや完璧すぎて呆れるほどだ
いや、実際これら全てを2ヵ月で作り上げたのだ、脱帽というしかない
元々認めないつもりなど一切なかったが、これではいちゃもんを付けることすら不可能
ゼフは契約通りに、いや、契約以上に私の要求を完璧に実行して見せたのだ