“レインディナーズでの再会”

“レインディナーズでの再会”

 普通に正面から入って会いに来る男


·アラバスタIF

·書きたいシーンだけ

·過去レス【鉄格子越しの食事会】から

·アニキと呼ばない弟





重苦しい空気が流れるているはずのVIPルーム。鉄格子の向こうで弟と同じ食事が並べられ、ワイングラスを片手にキャメルが穏やかに笑っている。

「美味しい」

子供の頃と見た目は結びつきもしないほど変わったのにクロコダイルと一緒にいる時に見せる笑顔はちっとも変わっていなかった。

「元気そうで良かった。海賊の方はどう? うまくいってる?」

天竜人を殺してから処刑されたと思われていた男が何十年ぶりに弟に会って初めにかける言葉がこれである。

無視して食事を続ける態度にキャメルは残念そうにしたがすぐににっこり笑う立ち直りが早いのも相変わらずだが顔に残る傷痕もこの国では見ているだけで暑苦しい服も背負っている大鋏も、クロコダイルの知る物は一つもない。

「ごちそうさま。出してもらって良い?」

「誰が出すかそこにいろ」

「でも私」

「黙れ。計画の邪魔だ」

久しぶりに会った弟の終始苛ついた態度に首を傾げるだけだったが“計画”の単語に目を細める。

「計画って?」

「何も知らないでここへ来たのか?なにも……なにも知らないくせにここへ」

少し遠いな。とキャメルは思ったがもしこれを壊してクロコダイルが悲しんだら嫌なので止めた。兄は理性的な生き物だ──本人が思っているのならそうなのである。

「今更何をするつもりか興味もねェが、何か言いにでもきたのか? 言ってみろ」

それは第三者が聞けばすぐに皮肉だと理解できただろうが相手が悪い。そうだね、と数秒考えて、

「信頼できる人はできたかな?」

次の瞬間キャメルはスルリと右に動くと背後の壁に亀裂が走る。クロコダイルの“デザートスパーダ”をキャメルは知らなかったが能力の情報は持っていたし弟の動きの癖は幼少期の間だけだが知り尽くしているので見聞色を使うまでもない。

「いちいち癇に障る野郎だ……」

「格子の間に通したの? ……上手。他にはどんな?」

「話すかよ」

「秘密主義かな。こっそり教えるのもだめ? 耳打ちでも良いよクロは昔から内緒にしてる話が多くて」

「昔からテメェに話してない事なんざ山ほどある………! そこにいろ!」

そう吐き捨てるとコートを翻して去っていく弟にキャメルは落ち込む。怒らせてしまったし(再会してからずっと怒っているが)ショコラの事を話しそびれてしまった。彼女は今カジノ近くで宿を探しているがキャメルがどんな状況かは知る由もない。ただし、クロコダイルの反応はなんとなくショコラは予想がついていた。

「どうしよう」

この台詞は勿論ここからの脱出方法ではなく、見当もつかない激怒の理由と謝罪方法である。賞金首でも捕まえて首を並べてあげようか。



──それがおよそ半日前の出来事だ。

食事は共にしてくれるので積極的に話しかける事にした。

「ショコラも大きくなってるよ」

「今はパタンナーやっててね。今度クロの服も仕立てさせて」

という世間話から

「ここに来る前の焼き菓子すごく美味しかった。万国寄ったらペロスペローに作らせよう」

「アルベルくんの部下つけようかって提案断ったけど着いてきてもらってお土産届けてもらうように頼めば良かったな」

などなどどうでも良い些事まで喋り続けたが全て無視された。しかもあまり機嫌のよろしくない目で睨まれながら。

返事があったのは2回目に来た時に言った

「あっおかえり」

の挨拶への

「監視だ」

という一言だけである。他のスタッフに任せられる様な男ではないのは確かだがわざわざ食事を一緒にとる必要があるのか? という疑問はキャメルは思わなかった。

疑問は無いが長時間の無視はキャメルに

『一体私は何をクロにしちゃったのかな』

という気持ちを抱かせることには成功させた。子供の頃はクロコダイルが良くわからない理由で怒ったとしてもキャメルはさっぱりなので大抵説明され「なるほど」となりその後謝罪するのだが今回は説明はずっとないまま。

「理由も理解してないくせに謝るな」

と怒られた思い出もありそれを聞いて、たしかにと感心したので謝るにはまず怒った理由を知らなければならないが答に辿り着けずいつもの説明もなく話しても質問しても無視されるのでキャメルは弱ってしまった。(義務汁を飲まされて服の中に隠し持っているお菓子も食べているので体調は万全だった)


そんなこんなでクロコダイルが怒っている理由を考え始めて半日、海賊と海軍の乱入というこの部屋に大きな変化が起こることになる




◇◆◇



紙を覗き込んで

「キレイな字だね」

と褒められる。これが女性なら大喜びして褒めかえしただろうが残念ながら大柄で強面の男だったのでサンジは払うようなジェスチャーをした。

「誰だよテメェは」

「私も一言」

「勝手に書くな!」

あばよクソワニ、と書かれた下に“一緒に行きます”と癖字だが達筆な文が追記されて

「掲示板じゃねェぞ」

とツッコミをした直後に

「一緒ってなんだ! 来るな!」

と怒鳴りつけるが当の船長が早く来いよと二人を呼んでいるので諦めるしかない。気絶した男に紙を貼り付けると追いつき並走しながら船長にクレームが出された。

「何なんだよルフィ! 野郎はお呼びじゃねェぞ!」

「ワニの兄貴だ」

「よろしくね」

「はぁ?! ヨロシクじゃねェだろ! 敵かよ!」

どおりでさっきまでバナナワニを撫でてはマカロンだのパヌレだの言ってた訳だと納得した。ペットの名前だったのだ……実際はキャメルが勝手に名付けて呼んでいるだけだが今は関係のない話だ。

兎に角サンジが大暴れし鍵を開けたのを見ていたと思ったら自力で檻を壊してワニ達を一通り撫でるとまだ起きていたバナナワニは困惑した様子で大人しくなり、

「倒れちゃった子をよろしくね」

という言いつけを守っている様子だった。多少の時間の短縮にはなったから助かったが本当に多少だ。それやるなら最初からしろというのがMr.プリンスことサンジの意見である。

「とりあえずワニ止めたいらしいからよ。一緒に行くことになった」

「はぁ?!」

「わけ分かんねェよな……おれもわからん」

同意するウソップとため息を吐くナミ、呆れた様子のスモーカーと気持ちは二人以外似たりよったりなのがうかがえた。

「さっき喧嘩しちゃったし……弟が心配でね」

「…………心配ね…」

感情の見えない顔は姉兄達を思い出してどうにも複雑だが、言葉にはルフィの兄の言葉と同じ類の感情が滲み出ているのがなんとかサンジには伝わった。

第一、面倒そうでも船長が決めたことはもう絶対覆らないので諦めるしかないだろう。

「サンジだ」

「Mr.プリンスくんじゃないの?」

「アレはお前」

「よろしくねプリンスくん」

「話を聞け!」

「全然似てないよなーこの兄弟」

「よく言われる」

「なにちょっと照れてんだよ。…いや何で分かんだよおれ」







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