ルフィ知らないの~?スレより
ここはとある王国に存在するのどかな村。暖かな日差しと気持ちのいい風が吹く中、今日も楽しげな声が響いている。
「いやーマキノさんの作るメシはいつも美味い!」
「ふふ、お粗末様でした。船長さん」
麦わら帽子を被った赤い髪の男が大満足といった様子で感想を述べるとマキノと呼ばれた女性は謙遜しながらそう答える。
マキノが船長と言ったように赤髪の男――シャンクス――はとある船の船長なのだが、この村の漁師というわけではなく海賊、それも精鋭揃いで名を馳せる赤髪海賊団の船長なのである。
もっとも、この男をはじめとした赤髪海賊団は一般人からの略奪等は行っておらず、長期間この村を拠点にする間の交流もあってか非常によく馴染んでいた。村に馴染めた要因の一つとしては、彼の娘であるウタと村の子供であるルフィが友達となり日々駆け回ってることも上げられるだろう。
「ルフィ知らないの~?」
シャンクスが物思いに耽っているとウタがルフィの事をからかい始めた。
ああ、懐かしいな……自分も昔同じ船に乗っていた友人と北極と南極どっちが寒いかで言い争ってあの人に殴られたっけな……等と思っていたシャンクスだが、ウタの次の発言に思い出の世界から現実へと引き戻されることになる。
「男の人が女の人にパンを食べさせてぶどう酒を飲ませれば赤ちゃんができるの、こんなのも知らないなんてお子ちゃまね〜」
「あらあら」
「っ!?」
「え?じいちゃんが男の○○○を女の○○○に〇〇〇〇すれば赤ちゃんできるって言ってたぞ?」
年端もいかぬ少女の口から出た言葉に三者三様の反応をする。
マキノは頬に手を当て微笑んでいる。……一瞬、その眼がまるで捕食者のようにウタとルフィを見定めたことに気づいたものはいない。
シャンクスは飲みかけていた水を盛大に吹き出し拭うことも忘れて唖然としている。
そして当のルフィはといえば祖父から教わった正しい知識をそのまま口にしている。
「そんで脇から産まれるてくるんだぞ!」
否、正しい知識と間違った知識がごちゃ混ぜだった。
「お、おいウタそういうこと人前で言っちゃダメだって言っただろう!?それとルフィ!お前もガープさんになにを教わったって!?」
いまだ水に濡れたまま二人を詰問するシャンクス。だが、ウタはどこ吹く風だ。ルフィは律儀に答えてくれたが、その内容を聞いたら誰もが頭を抱えるだろう。
「昔じいちゃんといジャングルに行ったときにさー。なんか2匹の猿が1か所で重なってすげー動いてるからじーちゃんなんだアレ!って聞いたら教えてくれたんだ」
「……で、なんで脇から産まれると?」
「できた赤ちゃんはどうなるんだって聞いたらなんかしばらく考え込んでから『脇から産まれる』ってさ!」
そこまで言ったら出産の事についても正しい知識を教えそうなものなのに、なぜそこだけ間違った知識……というか伝説上の逸話なのか。そこを誤魔化すなら行為についてもオブラートに包んでおいてくれガープさん……。そう心の中で愚痴るが、あのガープさんだしなあという諦めとも納得ともいえる複雑な気持ちも生まれていた。
ちなみにガープが脇産を教えた理由は「やべ、つい喋ってもうたがちとストレートすぎたかの?むむ、また質問してきおったわい……どう誤魔化すか……センゴクならこういう時うまく誤魔化し……
おお!そうじゃ仏のセンゴク!どこぞで読んだブッキョウについての伝承から誤魔化しエピソード拝借すりゃちょうどよさそうじゃ!!ぶわっはっはっはっ!!」というものだったとかなんとか。真実はガープのみぞ知る。
「う~ん。二人ともそれは間違いではないけど正しい知識とは言えないわね。そういうことを教育する本がちゃんとあるし、わからなければ私が教えてあげるわ」
冷静に場を取り持つマキノにシャンクスは少し冷静になり、ありがとうと言いかけたところでまたもや思考が停止することになる。
「分かってても私が教えてあげるから」
「え?」
「え?」
思いもよらないマキノの言葉に疑問がついつい口に出るシャンクス。なぜシャンクスがそんな反応したかわからないというマキノ。見つめあう二人。だがロマンスは発生しない。
「そうよ!その二つを打っ込めば産まれてくるのもあるんだよねー!」
というウタの頓珍漢な台詞もどこか遠い場所の出来事のようで――
「ルフィの筆下ろしは私がやるってルフィが生まれた時から決まってるんですが……」
ああ、これは悪い夢だ。いや白昼夢か?前回の航海の疲れがまだ抜けてないのかなあはははは。などと軽く現実逃避していたシャンクスだが今日何度目かの聞き捨てならない台詞を聞き再び現実に戻ってくる。そう、赤髪海賊団大頭赤髪のシャンクスは強い男なのだ。
「すまんマキノさん。ルフィの童貞はウタにって決まってるんだ。あいつらの邪魔をしないでくれ」
否、この男もバカだった。親馬鹿だ。
「ルフィのドウテイ?よくわかんないけどシャンクスが言うなら私がもらうわ!」
蛙の子は蛙か。ルフィの何かを自分が貰えると聞いてウタも会話に乗ってくる。
「……まあ、そういうことなら今回は譲ってあげます。でも、正しい知識はちゃんと教えますよ? いいですよね船長さん」
「二人に手を出さないというのであればむしろこちらからお願いしますよ。マキノさん。……ウタにはまだ早いと思ってたのもそうですが、男所帯なのでどうもそっち方面には踏み込み辛くて」
一時はどうなることかと思ったがウタと同姓であるマキノが教えてくれるのなら心強い。若干の不安はあるものの、ウタとルフィを見守りたいという気持ちも本物のようだから任せて問題ないだろう。やれやれとんでもないお昼だったと独り言ちるシャンクスだが災難は終わらない。
「きっかけは少しアレでしたけど、いざという時のために知っておいて損はないですからね。それじゃあさっそく今夜にでも……あ、船長さんも協力してくださいね。これは教師役としての命令です。拒否権はありませんよ?」
「え?」
「ほらほらルフィ、ウタちゃん。今夜はお勉強会だからお昼寝して備えましょう?」
「えー、午後は勝負の予定があるのにー!」
「そーだぞマキノ!ウタとの勝負はゆずれねえ!」
「あら、どっちの知識が正しいかで勝負できるじゃない」
「じゃあ私の知ってる方法とルフィが知ってる方法、正しかった方の勝ち!ってことね!ふふん、これで100連勝の大台に乗せちゃうもんね!」
「ぜってーまけねーぞー!」
「……え?」
呆けていたためマキノが最後になんて言ったか理解が遅れ、問いただすタイミングを失ったシャンクスは3人の会話を呆然と聞き取り残される。
そんなシャンクスにいつのまにか居た村長が声をかける。
「この村になんで子供がルフィしかいないか知っとるか?みんな逃げたからじゃ」
そうしてとんでもない爆弾を置き土産に店を出ていき、今度こそ一人になるシャンクスであった――