ルフィとご都合猫化ホーキンス
前提
定期的に主治医のいるサニー号に通院しているホーキンス(怪我は自分のとこの船医さんも診てくれる)
船長同士のお付き合いについては二人は隠しているつもり
猫詳しくないので実際の猫との違い等はスルーしてください
捏造たくさん
ホーキンス海賊団の一日は、天候や波に異常のない日は朝礼から始まる。なにもない日は短いが、クルーの都合で注意事項がある日(多種多様な信仰の寄せ集め集団なので、特にタブーとされるようなことは毎回説明させているのだ)は時間をかけて。そのあとに今日の運勢を、船長が伝えて終了するまでが一連の流れだ。
「船長遅いな。今朝から姿を見たやつはいないか?」
その朝礼がそろそろ始まるという時間になっても船長が現れない。弁髪の男が集まったクルーに聞くが、誰も見ていないらしい。ちょっと様子見てくる、と猫のミンクであるファウストが寝室に向かって、「大変だあああ!!」と叫びながら戻ってきた。
「どうしたファウスト!」「船長に何かあったのか!」「おい、船速く進めろ! チョッパー先生にみせないと!」
誰かの発した最悪の想像を伴う焦りは、あっという間に周囲に飛び火する。「話聞けよお」「そんな暇あるか!とにかく急げ!」「担架用意できたな! 寝室に行くぞ!」「聞けっつってんだろぉ!!」
どうにか場を納めた……というよりは、ファウストの落ち着きようを見て船長の容態の急変、という事態は起きていないことを理解した彼らがようやく静かになったと同時に、みゃあ、と鳴き声。開けっぱなしの扉から続く廊下に、船にいるはずのない動物がいた。
「……ホーキンス船長、部屋にいてください、まだちゃんと説明できていないんです」
もう一度、みゃあ、と返事をするように言って、ファウストにすり寄る猫。これがただの猫ならば、なに冗談言ってるんだ、そんな子どもじみたいたずら効きませんよ、と笑えただろう。撫でられて目を細めている猫の左前足は、ワラでできている。それが何よりの証明だった。
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どうやら自分は猫になっていて、しばらくは麦わらの船に厄介になるらしい。しばらくクルーはおれがこうなってしまった原因の特定をするとのことで、厳重に管理している蔵書の隅々まで目を通すから、構う余裕がないし、チョッパー先生の側で生活してもらえるなら安心できるということだった。
「船長の記録してらっしゃる伝承とか各地のまじないとかまとめたノートも見せてもらいますが、よろしいでしょうか」
みゃあ。
「あいつらに絶対ガルチューするなって忠告しましたけど、されそうになったら逃げてくださいね」
みゃあ。
「あとこれ、ミンク用のですけど、お泊まりセットにブラシ入れときますので、ブラッシングしてもらってくださいね」
猫用の(正確にはファウストの私物を拝借しているが)荷物の整理をされていると、まるで自分が猫になってしまったような錯覚をする。……姿見で見た自分は猫になってしまっていたが、意識は人間でいた頃のままだと思いたい。能力だって使えたのだから。
……そう思っていたのに、ホーキンスは麦わらの船に乗船してから、いや、ルフィを目にしてから、気持ちを抑えられないでいた。これでは獣と一緒ではないか。
撫でてほしい、名前を呼んでほしい、一緒にいたい、かまってほしい……。いつもはあたえられるスキンシップを受け入れてばかりでろくにこちらからは何もせず、伝えもしなかった要望を姿かたちが変わってから要望するなど、あさましい。
ホーキンスはルフィにすり寄ることなく、芝生の上に丸まった。
「ホーキンス、能力は使えるんだよな。ちょっと出してほしいんだ」
くつろいでいる猫の元にやってきたウソップは、このくらいの長さのをたくさん、と量まで指定してくる。これはホーキンスがサニー号に通院する日の毎回のやりとりだった。買えばいいのに、この船では縄や網、料理を置く鍋敷きなんかを手作りしているらしい。船長の麦わら帽子の補修にも使えるから、と彼の能力は重宝されていた。
ホーキンスは右足からワラを出すが、猫になったせいだろうか上手くできず、出てきたのは長さのまちまちなわらの山。
失敗した、とホーキンスは反省するが、ウソップは気にしていないようだった。
「スゲー、ほんとに能力使えるんだな。……待ってろよ、ホーキンスの寝床も今日中には作るからな」
ウソップは礼を言ってワラ運んでいく。
能力の制御くらいは身に付けておくべきだろう。この姿で役に立てることはこの程度しかないのだから。
「ワラ男ー、メシの時間だぞー。……寝てるのか?」
サニー号の芝生に、黄金色の山ができている。手を突っ込んでも探せるが、起こしてしまってはかわいそうだ。ルフィは倉庫から持ち出した麻袋にこんもりと積もったワラを詰めていく。いつもは長いのと短いのを分けろと注意されるがこの量だ、見逃してくれるといいな、と思いながら。
ようやく頭の見えた猫は、ルフィの手に甘えるように頭をくっつける。起きてたんだな、と笑うルフィは、猫を抱き上げた。それならば、と猫はルフィにもたれるが、「ガルチュー禁止って言われたから、我慢しないとな」と注意されてしまえば、ホーキンスは諦めるしかなくなってしまう。するりとルフィの腕から降りたホーキンスはまっすぐキッチンに向かって、長い毛に絡まったワラを見たナミの手ですっかりキレイになった。
本当は全部してやりたいけど、このままホーキンスが本物の猫になってしまって戻らなかったらそっちの方が嫌だから、ルフィもちゃんと我慢した。
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「おはようございます船長。よく眠れましたか?」
医務室に訪れたのは、ホーキンスの部下の二人、弁髪の男と猫のミンクだ。船長と話がしたいと言えば人のいい一味はすぐに場所を貸してくれた。
「船長、カエルの王様をご存知ですよね」
呪いをかけられたカエルが、王女に壁に投げつけられることで人間に戻るという、あの?
「あ、壁にぶつけるとかそういうのじゃなくてですね。ホーキンス船長はそのカエルみたいに、まじないで姿を変えられたのではないかってことです」
ホーキンスの手記によると、百獣の傘下になる以前に寄港した土地で、あるまじないを受けた。
「対象の持つ欲望を増幅させ、欲を満たすのに相応しい貌へと対象を変化させる。身も心も満ち足りた時、元の姿に戻る。期間は三日、それ以上過ぎてしまうと戻れなくなる上、自分からは欲望については伝えられない、まじないの記憶も元に戻るまでは忘れてしまうそうです。……今ごろになって効果が現れた理由はわかりませんが、こういう経緯でないかと」
「ホーキンス船長、麦わら達にも事情を説明して構いませんか」
頷くと二人はホーキンスを置いて、部屋を出ていった。
対象の持つ欲望。百獣に居たときにはそんなもの持ち合わせていなかったからこのような事態が起きなかったというのか。起きていたら、きっと無事では済まないからある意味良かったが。
……なら、ルフィに対して甘えたい、というのが猫の本能とかそういうのでなくて、おれの願望だとでも?
「ワラ男ー、もうすぐメシの時間だぞー」
扉が開かれて、ルフィが医務室に入る。呼びに来てくれたのはありがたいが、名前を呼んでくれないのは嫌だ。……ああくそ、やはりルフィにしてもらいたいことばかり浮かんできやがる。
「ワラ男、腹減ってないのか」
腹は減っているが、今ほしいのはメシじゃない。
「……ホーキンス?」
呼んでもらえた。嬉しくなった猫は、もっと、とねだるように鳴く。
「今日のホーキンスは甘えん坊だなあ。よし、今日はもうガルチューしていいって言われたからな。もっとこっち来いホーキンス、二人でゆっくりしよう」
ルフィがベッドに腰掛けるのを見て、ホーキンスはぴょん、と肩に飛び乗る。おれが飛び付きたくて跳ねたんじゃない、おまえが呼ぶからこうなったんだ。そんな言い訳じみたことを考えながら。この姿だからだろうか、よりルフィのことを感じる。案外背中は広いし筋肉がしっかりついているし、何よりあたたかい。たまらず頬擦りすると、大きな手で撫でてくれた。
ああ、幸せだ。
ルフィの肩に乗っかっていたふわふわしたものが急に重たくなって押し倒されてしまって、感触も変わった。
ふわふわの毛は滑らかな髪に。手のひらにおさまっていた背はルフィの大切なものの大きさに。いつもホーキンスからは何かしてくることはないから(ハグもキスも、ルフィがお願いしてようやくしてくれるのだ)猫の時の名残でも、全身をルフィにくっつけるようにして寝転がっているのがたまらない。
起きたらどんな顔をするだろう? ルフィは小さく笑って、愛しい人の名前を呼んだ。
(最初のガルチュー禁止はそのまま猫の特権(かわいい)享受して戻らなくなったらどうしようって思われた結果)
(ホーキンスは社畜してたメンタル引きずって感情の出し方へたくそ+相手(四皇と幹部)の役に立たなきゃいけないって思って一味の頼みごと聞いてた
みんなそういう事情聞いてちょっとしたことお願いしてる)
(どこかに寄ったとき「ちゃんと思ってること伝えられないのよくないから訓練しよう」って名目で羞恥プレイしてほしい)