ルナ冴SS⑪
「ねぇサエ。キミは俺に何色の首輪を贈られたい?」
異様な艶に満ちた声。
尋常ならば同性に顔を覗き込まれて耳元で囁かれるなんて疎ましいだけなのに、この男がそうすると威圧と籠絡を掻き混ぜて耳朶から注ぎ込まれたような心地になる。
三半規管を振動させる濡れたウィスパーボイスは。言葉にするのも躊躇われる陳腐な表現だが、初心な小娘ならばこれだけで孕んだと思い込むことも有り得るだろう。
腰に回された手が少しだけ動き、シャツ越しに下腹部をなぞった。
「もちろんキミはまだ未成年だからね。成人するまで『ここ』を暴くような真似はしないよ。仔猫を毒牙にかけるのはいけないことだ。そういうのは成猫になってから」
とんとん、と。指先でノックされた場所は、女の体であれば子宮や卵巣が内蔵されている位置だ。
冴は男だからそこに生殖機能は備わっていないのに、無い筈の何かがじくりと疼いた。
目に見えない手を腹の中に突っ込まれて、これまた目に見えない臓器を蠱惑的に撫で回されている感覚。
一連のセクシャルハラスメントも、レオナルド・ルナが行えばその意味は「成人になったら無理矢理にでもお前を抱く」ではない。「成人した頃にはお前は自分から抱かれに来るようになっている」だ。
ここで頷けば本当に四年後にはそんな素直で従順な淫乱になっている。嫌々ながら明確なヴィジョンが描けてしまった。おぼこにもリアルな想像をさせるくらい眼前の男のプレッシャーとフェロモンは凄まじい。
「っ────の、イイ加減にしろズーフィリア野郎!!」
だからこそ冴は枯れかけた気力を振り絞って悪態を吐いた。
こちとらは世界一のストライカーになるためにスペインまで渡西してきたのだ。ナイスガイなご主人様をゲットして子猫ちゃんと呼ばれながら寝所で喘ぐためではない。
ねっとりと纏わりつく誘惑を伴ったイヤらしい空気を、ルナの体ごと振り払うつもりで片腕を横薙ぎにする。
「野郎」の「や」を言い終わらない内にルナは自分から離れていた。表情には驚きと面白がる色が乗っている。アテレコするなら「おもしれー女」という台詞があまりにも相応しい。
「そんっ、なに! 新しい仔猫にテメェの×××を舐められたいなら! ペットショップのケージにでも向かってパンツ脱いでろッ!」
冴はゼェゼェと肩で息をしながら言い切る。