ルナ冴SS⑨
(ルナのこと全然わからんからサディストっぽさ生えた)(すまん貴公子)
「……へぇ。なんだかキミに興味が湧いてきたよ」
厭な目だった。
戯れで相手をしていた拾う気もない捨て猫が、よくよく見れば思いの外かわいくて自分の好みだったから連れて帰るのを検討し始めた。
そんな裏打ちのある視線と表情である。
女王様と仰がれる冴が思うのもなんだが、人間をペットとかオモチャとかにして遊んでいそうな輩の笑顔だ。
自分の愉しみのためなら他人の苦しみは足蹴にしてしまえるアルカイック・スマイル。
どうやら強さ一辺倒だった冴の見せた年相応の弱さの片鱗がお気に召したらしい。
成程、容姿の良いだけの真性のS嬢なら興味は無くともそうあれかしと求められる哀れな子供ならば食指が動くようだ。
「勝手に周りから鞭を持たされる人生で大変だね、サエ。良ければ助けてあげようか?」
誰かの微笑みを奪い取って自分の物として貼り付けたような顔で、ルナは滔々と続ける。
「女王様なんて辞めて、愛玩動物に転職すれば良い。キミのルックスは好みだし大事に飼ってあげるよ。首輪を与える側から与えられる側になれば、もう誰もキミに飼われたがったりなんてしない」
…………。
意地の悪い誘いだ。性格の悪い喋りだ。
発言内容に理解できる部分もあるが、だからといって普通はレイプ未遂の現場でその被害者の子供に向かってこんな科白は吐かない。
煌めく白い歯に反して腹の黒さは折り紙つきだ。そのことに本人の自覚は無さそうなのも重ねて性質(タチ)が悪い。
炎のような夕焼けを背に、レ・アールの貴公子は窓枠を軽々と乗り越え部屋に入ってくる。獲物を罠に追い立てる狩人の足取りで。
『危ない人とは目を合わせちゃいけません』。いつかの母の教えが聞こえた気がした。それでも目が離せない。無性にその場から逃げ出したくなるのを堪えてルナを睨みつける。
ルナのまん丸で大きな目に反射して映る冴の姿は女王様というよりもこれから弄ばれる運命にある生贄のお姫様のようであったし、冴の切れ長な目に反射して映るルナの姿は貴公子というよりもこれから己に捧げられた美しいものを遊びで壊す予定の魔王様のようであった