ルナ冴SS⑤
「あれ? 何ここ乱行パーティー会場?」
──夏の野に風の吹き抜けるかの如き和やかな声。
とても集団レイプ未遂現場の目撃者とは思えぬ泰然とした調子で窓枠から身を乗り出しているのは、金髪碧眼の絵に描いたような爽やかさの貴公子であった。
その印象を持つに留まらず、事実として彼の異名はこうだ。『レ・アールの貴公子』。すなわちこの状況に垂らされた救いの糸の正体は。
「レ、レオナルド・ルナ!?」
3人の男達が一斉に彼の名前を叫ぶ。
冴だけはタオルが邪魔で相変わらず発言の自由を奪われたまま、自身の周りにいる男達の体からドバッと吹き出した冷や汗に肌を濡らされて眉根を寄せていた。
急に大きな声を出されたせいで鼓膜の揺れが痛い。だが3人にとっては招かれざる客でも冴にとっては待ちに待った状況打破の鍵になるかもしれない要素。みすみす逃す手は無い。
冴はちょうど外し終えたところだった男のベルトを目ざとく見つけると自由になった手でそれを素早く抜き取り、ムチと見紛うばかりのしなりと勢いで持ち主に振るう。
顔面にマトモに食らった男は「ふぎゃっ」と尻尾を潰されたドラ猫じみた悲鳴を上げてよたつき、チャックを下ろしていたせいで腰からずり落ちていたズボンの裾を踏むと、そのまま真後ろにすっ転んで壁に頭を打った。
薔薇鞭や一本鞭を贈られてはどうかそれで自分を責めてくれとマゾ犬どもに哀願される日々。交換条件でちゃんとシュートを決めてくるから仕方なく扱ってきたことで上達しまくったムチの腕前が、まさかこんな修羅場で炸裂しようとは。世の中は何が役立つかわからない。
「マイケル! テメェよくもげぼらばぁッ!?」
自爆した男の名前を呼んだ馬乗りの男がこちらに暴力を行使してくるより先に、またしてもベルトをぶん回して今度は口元にヒットさせる。ちょうどベルトのバックル部分が前歯に当たって男は悶絶した。
我が身を嘆くほどのムチ捌き。頭の中ではすこぶるつきのドMどもが「ありがとうございます!」と感謝を述べながら背中にこれを受けていた時の映像が流れている。
この経験値のおかげで窮地を脱せそうだが、そもそも女王様わからせ隊に襲撃を受けるに至った原因の大半がマゾ犬どもにある。よって素直にあいつらのおかげだと思う気にはなれなかった。