ルナ冴SS④
「へへ、やけに嫌がるじゃねぇか。自分から跨るんじゃなく押し倒されるのは初めてかい、女王様?」
乗っかるのも乗っかられるのも分け隔てなく初めてだ。正真正銘のヴァージンだ。そう言葉をぶつけたいがやはり意味のある発声にはならない。
日本では寄って来る変態の数なんてもっと少なかったのに、スペインに来てからなんだってこうトラブル続きなのだろう。
お国柄ならまだ良いが、もし歳をとるにつれてそういうフェロモンでも放出し始めたとかなら最悪だ。日本に残してきた弟も同じような体質で悪化しているかもしれない。
冴が幼い頃からマゾ犬を引き寄せがちだったのと同じように、凛は命を狙ってくるタイプの女を引き寄せがちだった。幼稚園では「りんくんしゅき! ちんで!」と舌っ足らずな告白と共に女児にハサミを向けられていたことさえある。
幸い先の丸っこい子供用のちゃちなハサミだったので流血沙汰にもならなかったが、小学校、中学校と上がって行けばカッターナイフや彫刻刀も飛び出してくるだろう。無事にケツの操を守り通してこの場を抜け出せたら、凛が最近もちゃんと防犯ブザーを持ち歩いているか確認して貰えるよう母に電話をかけよう。
「ようやく大人しくなりやがった。観念したみたいだな」
「いつも澄ましたツラで取り巻きの男どもを操ってる女王様も、こうして涙流して喋らなけりゃカワイイもんだ」
「跳ねっ返りも良いけど、俺こういう何もかも諦めましたってツラした奴をヤるのが好きなんだよな。お前の番が終わったら次はこっちと変わってくれよ?」
酸欠でぼーっとした頭で家族のことを考えていたせいで、すっかり心から屈して体を許したと勘違いした3人が調子に乗り始めた。
スマホを構えている男は見張りも兼ねていただろうに他の男達と同じようにベッドに寄って来て冴の胸元をまさぐり、手首を押さえていた男はその手でナニをさせたくなったのか自分のズボンのベルトをカチャカチャと外し始める。
そして上に乗っかっている男はついに冴の下着とズボンをまとめて引き摺り下ろした──かと思われたその時だった