ルッチとモブ女

ルッチとモブ女


ロブ・ルッチがCP9に配属されたらしい。

ルッチと同時期にグアンハオへ来た子にそう聞いて、私は苛立ちのあまりに自分のマグを握り潰してしまった。ぬるいココアがしとどに手を濡らし、割れた陶器の破片が刺さる。私たちの面倒を見てくれる職員さんが慌てているのを他人事のように眺めながら、私はどうしてまだここにいるんだろうと考えた。



軽く手当てを受け、私は寝室へ向かっていた。

その間にも、ルッチのことが頭を巡る。

私はルッチよりも三つほど年上だ。グアンハオに来たのも私の方が先。あいつが来た頃にはもう三式は習得していた。六式以外の訓練だって、私の方が優秀だった。

しかしルッチは、後から私を追い抜く形で頭角を現し、今では十三歳にしてサイファーポールに所属している。私は未だにここにいるのに。

「……」

先日の手合わせでは、私はあいつに手も足も出ずに敗北したのを思い出す。全力で――いっそ殺す気で技を叩き込んでやったのに、彼はこともなげに私の攻撃をいなし、地面にねじ伏せた。

それから、酷くつまらなさそうにこう言ったのだ。

『てめェは弱すぎる。諜報部員には向いてねェな』

「……クソッ!」

つい廊下の壁を殴って、ハッと手を見る。強く握ったせいでまた血が滲んでいた。

「…………クソったれ……」

私だって六式使いなのに。私の方がずっと、あんなやつよりもっと、政府の役に立てるはずなのに。あいつなんてただ強いだけのクソガキじゃん。職員さんの言うことだって指導の先生の言うことだって碌に聞かない癖に、なんであいつが選ばれて私はまだ訓練生なの?

涙が込み上げてくる。鼻水まで垂れてきて、顔がジンジンと熱かった。こんなに感情的になるようじゃ、あいつの言う通り諜報部員には向いていないのかもしれない。脳裏にまたあいつの言葉が浮かぶ。心底呆れたような、あるいは失望したようなあの冷たい声が、何度も何度もリフレインする。

「……うるせェ、クソ野郎……!」

私は床に座り込んでしばらく泣いていた。



数週間後、私にも配属指令が下った。所属はCP5だった。

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