リーグ部に入った結果
CP要素強めなので苦手な方は注意
カキツバタ→アオイ←スグリ
それはあまりにも強烈だった。
ブルベリーグチャンピオンだったスグリを打ち負かし、あっという間に学園中の話題を掻っ攫っていた夢のような女の子。
噂ではパルデア地方のチャンピオンランクの一人として君臨し、その将来を大いに期待されているのだとか。
彼女の戦う姿を見て憧れと好意を抱き、もっとバトルに興味が湧いたのだ。
そしてリーグ部に入部届けを提出したのが昨日。彼女と話をして、名前を知ってもらったりなんかして、あわよくば、と考えてしまうのはやはり男の性か。
いつもテラリウムドーム内を駆け回っているアオイは今日、部室にいるだろうか。そう期待を込めてリーグ部に続く扉をくぐると、スマホロトムを見て思考に耽っているアオイがいた。ガッツポーズしたいのを何とか堪える。
初めて近くで目にした彼女はまだ幼いと言っても過言ではない。バトルコート上で見たアオイとはまた違う、年相応の女の子だ。
「あ、アオイさ──」
話しかけようとしたまさにその瞬間、オラチフがプリントされた黒地にゴールドのラインが入ったジャージを着た男が後ろからすっと音もなく現れる。そのまま流れるようにアオイと肩を組んだ。
「よう、キョーダイ。オイラのジュラルドン元気にしてっか?」
「カキツバタ先輩。はい、元気ですよ。ちゃんとピカピカにもしてます」
「そいつぁ嬉しいねぃ」
三回留年している、だがバトルの腕は超一流のカキツバタがアオイの肩を抱き寄せて、からから笑う。
あまりの距離の近さに愕然とするが、周りは特に気にも留めていない様子から、日常茶飯事なのだろう。
小さくてカキツバタの身体に隠れてしまうアオイは、嫌がっている素振りすらない。
だからといって、年頃の女の子にべたべたし過ぎでは?
そう思っていても、新入部員が四天王、それもトップである彼に苦言を呈することなどとても出来やしない。
「……カキツバタ。アオイにくっつきすぎ」
そんな彼の心境を代弁するかのように、ブルベリーグ元チャンピオンのスグリが確かな口調で窘める。しばらく休学していたと聞いていたが、険のある顔つきの近寄り難い雰囲気はすっかり無くなっている。だが、アオイから彼を引き剥がす時のスグリはまるでガーディのようであった。
「おやおや。真面目でやんすねぃ、元チャンピオン。オイラたちいつもこんな感じだよな、なあアオイ?」
「ん、うん? うーん、たぶん?」
「アオイが嫌がらないからって馴れ馴れしいって言ってるんだよ」
スグリの言うことは最もである。
心の中で彼を応援しながら、二人が火花を散らし始めたので意を決してアオイに話し掛ける。
「あ、あの! アオイさん!」
「? はい。えっと、確か……新しい部員の人、ですよね」
「! そ、そうです!」
恐らく、タロかネリネから新入部員の話を聞いていたのだろう。
とにかく彼女に認知してもらえている、その事実が一度は失いかけた自信が再びついてきた。
何を言おう。貴女に憧れてます? いやいや、初対面でそれは警戒心を抱かせてしまう。
彼女が好きなバトルの話でも持ち掛けてみようか、と即座に頭の中で処理をし、口を開いた時だった。
「キョーダイに挑戦してえんならオイラを倒さねえとな! まずはランク上げ頑張ってくれーい」
「その前に俺が相手すっからカキツバタの出番なんか来ねえべ。ずっと部室でだらけてたら?」
アオイの肩に腕を回したカキツバタの目が『アオイが欲しいんならここまで来てみせな』と挑発する。
アオイの手をぐっと握るスグリの目が『俺がいる限りアオイには一歩も近づかせない』と威嚇する。
四天王トップ。ブルベリーグ元チャンピオン。
この二人も彼女に当てられた大勢の内なのだろう。
彼らを敵に回そうものなら、アオイを狙おうものなら、骨も残らぬほど粉微塵にされてしまう。
アオイと親しくなりたいならば、彼女の前に立ち塞がる竜と鬼を打ち倒さねばならない。
(……おれ、リーグ部でやっていけるかな……)
睨みつけるスグリと、目は笑っていないカキツバタの牽制を浴びつつ、がっくりと肩を落としたのだった。
おしまい