リョースケとダイヤ&コハク

リョースケとダイヤ&コハク


「ダイヤくん…?コハクちゃん?」

妹と合流して帰宅している最中だった。

後ろから突然声をかけられて振り向くと帰宅途中な30代前半の男性で見知った顔があった。

「「リョースケさん!!」」

「制服的にダイヤくんは高校生でコハクちゃんは中3か?早いものだよなぁ」

「リョースケさんは老けましたね」

「兄さん!」

「良いって。ダイヤくんは小生意気になりやがって…久しぶりだな。2人とも」

貝原亮介さん。ヒカル兄さんの親友で13年前事務所が忙しい時にウチに来て俺たち兄妹、アクアとルビーの世話をしてくれたベビーシッターさんだ。

ヒカル兄さんは定期的に会っているから元気なのは知っていたし、近況も聞いていたが会うのは小学生の時に会って以来となる。

「アクアとルビーは神童だったから手は掛からなかったんでしたっけ?」

「おう。主に君達のお世話がメインだったなー…懐かしい」

「大学卒業されて、研修後に受け持ったのが私達なんですよね?大変でしたね…」

「アクアくん、ルビーちゃんがしっかりしてくれていたから何とかね。ヒカルから俺が働き始めた会社に電話してきての指名で行ったわけだけど、HPに俺の名前見つけて、らしいし。

よくピンポイントで見つけたなぁ、あいつ」

俺たちは自宅に比較的近いファミレスに場所移して駄弁っていた。

亮介さんが

「久しぶりの再会だしご飯奢るよ」とのことで近くのファミレスにしたのだ。

家にはコハクが連絡済み。気兼ねなく話せる。

「リョースケさんフリーなんすか?まだ」

「先日ヒカルにも言われたけどフリーだよ。彼女募集中。いつか結婚したい…お袋や親父に言われるんだよ…まだなのか、とか隣のみよちゃんとこは子ども産まれたよ、とか…誰だよみよちゃん!」

「誰ですかみよちゃん」

「誰よ⁉︎その女!…冗談です」

「ノリ良いね、君達…俺もみよちゃん知らない。前帰った時に言われてビックリしたから」

リョースケさんとの出会い。

13年前に遡る。

200x年10月某日

「ベビーシッターの貝原亮介です。よろしくお願いします」

「来てくれてありがとうございます、貝原さん。斉藤壱護と申します。隣が妻のミヤコです」

「ミヤコです。この度は受けてくださりありがとうございます」

大学を卒業し、研修を終えて1人で仕事を任されるようになるタイミングだった。 

会社に1本の電話が来た。

内容は

「貝原亮介くん指名でベビーシッターをお願いしたい」というものだった。

いや、ウチそんな風俗みたいな指名制じゃないぞ。

確かに2回目以降は指名が効くけども。

ウチの所長も最初はそう話し、把握できていない新規に新入りを行かせるのは…と難色を示した。 

だが、「我が家の子達は彼を知っているから信頼できる人に任せたい」と譲らない。

結果上司と訪問、ヒアリングして俺1人で問題無いと判断され、派遣された形だ。

まさかヒカル君から電話が来るとは思っていなかったから驚いた。

「いえいえ、むしろ僕を知って居るからと言う理由だけで指名いただけてありがたいと言いますか…

しっかり頑張りますのでよろしくお願いします!」

「こちらこそお願いします。

お話しした通りちょっと一階の務所がバタバタしていまして、今までだと私が折りを見て子ども達を見ていたのですが、その時間すら難しそうでして。子ども達4人お願いします。

アクアとルビーは年齢よりしっかりしていますが下2人…ダイヤとコハクは歳相応なので…上2人より手が掛かると思います」

「確かにアクアくん、ルビーちゃんは年齢よりしっかりしていますよね。

分かりました。あとこれ、会社から監視カメラです。僕が不法行為していないか監視する用に使ってください。

僕に分かりにくい場所でお願いします。

あと会社に返送用の着払いの送り状です。期日満了したらお送りください」

「凄いしっかりしてるのな?」

「僕らは子ども相手するのに虐待したり盗みを働く奴もいる業界なのでこれぐらいしないと信用は得られませんよ」

多分ウチの会社ぐらいな気もするが。

はい、と監視カメラ4台と送り状をお渡しする。

児童虐待も多いが窃盗犯で捕まる馬鹿が多い業界でもある。

信頼は積み重ね、信用は第一印象からだ。

ちなみに監視カメラは会社に言えば追加で4台くらい借りられる。

「お、おう…とりあえず子ども達連れて来るから待っていてください。

ミヤコ、コハクは寝ついたばかりだよな?」

「そうね…ダイヤとアクア、ルビーを連れて来るわ。ダイヤは多分高峯と冬子と遊んでいるんじゃないかしら?アイ居ないと大人しいあの子と面倒見が良い彼女とよく居るし。少し呼んでくるわ」

冬子って誰だろう?タカミネって、タカミーか!マジかーアイ推しだけど、グループ応援しているからサインとか欲しい。ってことはB小町下に居るんだよなぁ…アイも居るのかな?

つまり、夫のヒカルくんもいるのか?

アイの夫かぁ…自分は100%相応しくないが、憧れる立ち位置を彼が射止めてるんだよな。

あー、世知辛い。

「貝原さん?急に遠いところ見てましたけどどうかしましたか?

今ミヤコが連れて来るのでコーヒーでも飲んで待っていてください」

「失礼しました。僕、実はB小町のファンでして」

「ミヤコ共々聞いていますよ、ヒカルから。

さて単刀直入な聞き方で申し訳ない…

『どこまで』知っている?」

さっきまでの慇懃な形からこちらを値踏みし見極めようとする目つきに変わったのをサングラス越しに感じる。

義理の息子と娘の話。そして会社に所属する全員の今後に関わる話だ。

トップシークレット中のトップシークレット。

そしてヒカルくんがわざわざ僕を指名した背景に行き着く。

アイと子ども達の関係を知るものだから内側に引き込める、ということ。

その確認だ。

「『アイとヒカルくん達4人』とだけ…誰にも言ってないですし、ヒカル君を責めないで下さい。偶然、再会した時の4人の様子から気づいてしまっただけです」

「…まあ子どもと親を見ている職業だもんな。

気づく奴は勘付く、か…家族で出かける際は変装を徹底させる。

参考になったよ」

ありがとう、と厳つい表情を綻ばせる壱護氏。

今の聞き方に気になったので聞いてみよう。

「もし僕が何のことですか、と聞いたらどうするつもりだったんですか?」

「ん?そんなに察し悪い奴じゃないだろ。ヒカルの友達しているんだから。あいつの洞察力は確かだし、アレがわざわざ指名した訳だからある程度は最初から信用はしていた」

「申し訳ないですけど彼とは知人レベルですね。公園で親しく二回話をしただけです」

「マジで!?」

うーわ…あぶねー橋を自分で掛けて自分で渡ってるわ…とぼやく壱護氏。

苦笑するしかない。

そんなやり取りをしていたら奥さんが戻って来られた。

アクアくん、ルビーちゃんは俺に気づいてそれぞれ会釈と手を振ってくれたので手を振りかえす。

アクアくんの服を掴んで隠れているのがダイヤくん、かな?

「お待たせしました、お昼寝中のコハクを除く3人です…って壱護、どうしたの?手で顔を覆ったりなんかして…ぶつけたの?」

「いや、気にするな。少々、自分のうっかりが義娘から感染って来たことを感じただけだ…」

「?しっかりしてよ?忙しいんだから…

この子がアクア」

「久しぶりリョースケさん」

「女の子がルビー。見ての通り双子です」

「リョースケさんだ!元気?」

「2人とも久しぶり。前より大きくなったね」

アイとヒカルくんによく似ている。

最強遺伝子だな。

「アクアの後ろにいるのが…ダイヤ?見慣れない人だから緊張しているの?」

「…」こくり

「君がダイヤくんだね。僕は貝原亮介。リョースケと呼んでね?しばらくお兄さんがパパとママが忙しい時に遊んだり、ご飯を作ったりするからよろしくね」

ダイヤくんの目線に合わせて言って見る。4歳だし人見知りする子は人見知りをする。この子はまだ僕の顔をジッと見ているし、好奇心旺盛そうな子だ。きっと仲良くなっていける。

「リョースケさん。僕とルビーは自分が言うのもなんだけど手はかからない方だからダイヤとコハクのフォローはするよ」

「お姉ちゃんは弟と妹を大切にするものだしね!」

胸を張るルビーちゃんと冷静につらつらと語るアクアくん。

この子達、まだ5歳なんだよな?小学校中〜高学年以上と話をしている様だ。 

しっかりしている。もしかしたらフォローされることも多いかもしれない。

「偉いなルビーちゃん。アクアくんもありがとう。頼ること多いかも知れないけど、よろしく!」

「うん!」「はい」

ーーーー

「アクアくん、ルビーちゃんは君達の世話やコミュニケーションを取る時に色々教えて貰ったよ。シッターなんて仲良くなってこそが仕事だしさ。ダイヤくんと一緒にヒーローゴッコしたり」

「しましたねー…楽しかったです、ライダーごっこやサッカー」

「コハクちゃんとはお絵描きしたりお話を一緒に考えたりしたね。ルビーちゃんも一緒に加わっていたかな確か」

「お話し作りとかしていたんですか、私?記憶にないな…お絵描きは覚えています。姉とリョースケさんの絵を描いてプレゼントしましたよね?」

「大事にしてるよ。携帯にも写真で残してるよ、ほら」

「「おお!」」

嬉しそうに笑う彼ら。

数ヶ月纏めて彼らを見守り、度々指名を受けて派遣された短い期間だが

学びと成長の時間だった。

3歳のコハクちゃんは独創的なイメージを膨らませて話をするのが好きな子だった。

『しらゆきひめをたすけたひちにんのこびとはみんなとくぎがあってひめをまもるの。このこはわんわんとなかよしでこのこはおりょうりじょうずで…』

4歳のダイヤくんは元気でよく外で遊ぶのをせがまれた。アクアくん巻き込んでいた。

『リョーちゃん!サッカーおしえて!そのつぎはオニごっこ!おにいちゃんも!!』

「君達兄妹とアクア君達に出会えて良かったよ本当に。ヒカルとも親友の間柄になったのは君達のシッターしていた時に業務終わりに2人で初めて乾杯したのがきっかけだったし。

なあLINE交換しないか?今度は忙しいかもだがアクア君達とも会いたいし、せっかくのこの縁と機会を大事にしたい」

「セッティングしますよ」

「兄達もきっと喜びます」

「ありがとう、よろしく」

この日は彼らにわずかなものだが食事をして別れた。

そして後日。

「リョースケさん、お久しぶりです。父がお世話になっています」

「リョースケさんだ!大人になってるー!!彼女できた?」

「弟、妹と似た会話だな…久しぶり、直接会いたかったよ2人とも」

会いたかった子達とも再会し、5人の賑やかな時間を楽しんだ。

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