リクエスト20

リクエスト20

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「ああ?なんでここにガキがいやがる」


意識せず出た言葉にすぐに後悔するがもう遅かった。目の前の子どもは瞳をこれでもかと見開いた状態で固まっている。正直なところ見飽きた光景なので、この後のこともなんとなく予想できる。泣かれるか、叫ばれるか、逃げられるか。

自分の顔や体格や言動が厳ついという自覚はある。それが子どもに少なからず恐怖を与えてしまうということも。思うことがないわけでもなく、できる限り好かれるための振る舞いを模索している最中ではあるが、突発的な———例えば今のように、本来子どもと会うはずのない軍艦内で鉢合わせるといった———ことが起こるとどうしても巣が出てしまうのだ。

あらためて目の前の子どもを観察する。一時的な保護対象かと思ったが、それにしては不安といったものは感じられない。今は固まっているが。

どうしたものかと思考を巡らせる。そしてそういう時に限って横やりというものは入る。


「どうした?」


後ろを振り返ると同隊の先輩兵たちが手を振りながら近づいてくるのが見えた。そしてすぐに自分のそばにいる子どもに気が付いたらしい。


「あ?子ども?」

「なんでこんなとこ(軍艦)に?」


反応は自分と似たようなものだ。妙なガラの悪さも、おそらく大して違わないはずである。しかし彼らが子どもに泣かれるところは見たことがない。正直解せない。

そして一向に反応しない相手の様子に、自分が子どもと出会ったときの顛末をよく知っている先輩方はみるみる焦り始める。数名に囲まれ、いささか乱暴に肩を組まれた。


「だ、大丈夫だぞボウズ!この兄ちゃんは顔がちょっと恐いだけでいいやつだからな!」

「そうそう、お前を食ったり攫ったりはしないからな!」

「鬼みたいなのは顔だけだぞ!こう見えて根は優しいからな!」

「あんたらなァ…!」


好き勝手言われる現状につい抗議の言葉が出かかるが、すぐに先輩に口を塞がれた。大声を出すなという意図らしかった。恐る恐る子どもの顔を覗き込んで…先輩方共々驚愕する。

子どもはこちらを見て笑っていた。レアケース中のレアケースだ。まるで玩具を見つけたいたずらっ子のように楽し気な、妙に引っかかる笑みではあったが。


「わかってる」


愉快そうに告げられる。先輩の1人が無意識にそれに返した。


「お前すげェな…」


どういうことだオイ。




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それは今回寄港した港にたまたま別部隊の艦も居合わせていると知り、急遽行われた情報共有の会議だった。海は広く常に新しい出来事が良いことも悪いことも入り混じって起こっている。ある程度の情報は電伝虫や世界経済新聞からもたらされるが、真に最新のものとなると直接関係者から得るのが一番早い。

相手の指揮官は何度か任務を共にしたこともあり、ロシナンテもそれなりに面識がある。自分よりはるかに若い青二才が自分と同じ階級を持つことに対して思うところもあるだろうに気さくに接してくれる気風の良い男で、ロシナンテもそれなりに好意的に見ている人物だ。

しかし彼との隊の縁は彼自身のみと繋がっているものではない。その隊員の中にもそれなりの交流を持つ者がいる。


「お疲れ様」


会議室から出てきたロシナンテと大尉をいつものように艦の雑務を手伝っていたローが出迎える。それに笑顔で手を振ったロシナンテが、その隣にいる海兵を見て楽し気に話しかけた。


「スモーカー!久しぶり~!」

「ご無沙汰してますロシナンテ中…ぐむっ!?」

「相変わらずくそ真面目だなァ。このままじゃ顔が恐いままで固まっちまうぜ?」

「ちょ、やめ……やめろっつってんでしょうが!」


眉間を突いてくるロシナンテの手をスモーカーが払いのける。そして控えていた大尉を見て即座に礼をとった。


「こんにちはスモーカー上等兵」

「お疲れ様です大尉。少々ロシナンテ中佐をお借りしてもよいでしょうか」

「どうぞどうぞ」

「ありがとうございます。んじゃちょっとツラ貸してください先輩」


大尉に対して丁寧に会釈をしたスモーカーは驚いているローの頭に一瞬だけ手をのせて、そのままロシナンテを引っ張って離れていく。若く騒がしいやり取りが遠ざかっていくのを、周辺の年季の入った海兵たちがニヤニヤしながら見送った。


「ちょ、なんだよ」

「あんたまさかそっちのシュミがあったんですか」

「は?」

「あいつでしょう。本部で噂になってるロシナンテ中佐の若いつば」

「オイコラ待てスモーカァァ!!隅々まで誤解だ誤解!!!」


やいやいと言い合う二人を呆然と見ているローに、大尉が愉快そうな顔で囁いた。


「あの二人絶対どこかで煙草を吸うのでしばらくしたら探してきてくれませんか。ついでに説教してもらってもかまいませんから」

「そりゃいいけど…あいつロシーさんの知り合い?」

「ええ。海軍学校時代の先輩後輩ですよ。ああ見えて面倒見のよい男なので中佐とはいろいろ相性いいんですよね。正直引き抜きたいくらいです」

「おいおい、おれンとこの兵をヘッドハンティングすんのは勘弁してくれ」


部屋から出てきたスモーカーの隊の中佐が揶揄うように大尉に釘を刺した。そのまま二人が話し始め、視界から逸れたローの口から無意識に言葉が零れる。


「そうだったのか…」


本来拾われるはずのなかったそのつぶやきを、目を細めた大尉が静かに聞いていた。

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