【閲覧注意】ラヴィーネ「迷宮再送録」
「のぉ、本当に覚えておらんのか?」
大陸魔法協会オイサースト支部の一室にて
二級魔法使いエーデルは、くまさんパンを頬張りながら向かいに座る二人の魔法使いに問いかけた
「うん。迷宮の入口にいたのは覚えているけど…はい、あ~ん」
その片割れ、三級魔法使いカンネは隣に座る少女の口元にねこさんパンを近づける
「うん。美味い。気が付いたら一番奥の部屋にいたんだ…ほれ」
ねこさんパンを頬張った三級魔法使いラヴィーネは、お返しにとうさぎさんパンの耳をカンネに差し出した
カンネは、はむ、とうさぎさんパンの耳を咥える
「ふーむ。じゃから儂の出番というわけか…しかし」
(こいつら…こんなベタベタしていたかのう)
お互いのパンを分け合う光景にエーデルは何となく違和感を感じていた
時間は少しだけ遡る…
事の始まりは、とある森林地帯で遺跡風の迷宮(ダンジョン)を発見したという情報だ
情報を元に担当者となった一級魔法使いゼンゼの指示で事前調査を行ったところ、
なぜか『仲の良い女性二人でしか入れない』という制限の結界が入口に張られていることが判明
そうしてお声がかかったのがラヴィーネとカンネの幼馴染二人組である
選抜理由に納得がいかないと愚痴りながらもしっかり準備を整えた二人は「「仲良くなんてない!」」とメンチを切り合いながら迷宮の入り口を難なく通過していった
…しばらくして…
二人は迷宮の入り口に戻ってきた。迷宮内での一切の記憶を失って………
後日、結界が消えていたので、付近に滞在していた二級魔法使いエーレをリーダーに迷宮の再調査を試みたが、迷宮はもぬけの殻だった
「あの迷宮は、四つの部屋とそれを繋ぐ廊下だけの一本道。全部石畳の素っ気ない作りだったわ…
そうそう、最後の部屋にだけ何故かベッドがあったわ」
調査から戻ったエーレは確認のためラヴィーネとカンネにコンタクトを取り、迷宮の内部について情報を交わす
「間違いねぇ。アタシらは帰り道で確認しながらだがな」
ラヴィーネは頭をかきつつ、エーレの情報と同じ事を確認した
「ふぅん。それじゃあ行きの時の記憶が無いのね」
「やっぱり、結界を解除してから行くべきだったんじゃ…」
カンネがラヴィーネと腕を組み…いや、腕に抱きつきながらラヴィーネに聞く
「結界の解除なんてそれこそどんくらい時間がかかるかわからねえぞ」
「そうよ。それにこの手の制限系の結界って、強引に解除すると迷宮の財宝ごと消滅する可能性もあるって聞くわ。
ルール守らないなら報酬も与えない、って」
エーレは手を翻して、パァ、とオジャンの仕草を見せる
「だけど結局手に入ったのって魔導書が一冊だけ…」
カンネがラヴィーネの肩に頬をすり寄せる
「それ聞いたわ、【ベッドを綺麗にする魔法】ですってね。ずいぶんとピンポイントな魔法ねぇ」
「きっと掃除が面倒だったんだろうぜ。作ったヤツは」
言いながらラヴィーネは空いている方の手で肩に擦り付くカンネの頬を撫でる
「何のヒントにもならないわね…。そうそう、エーデルがあなた達を呼んでたわよ。あっちの部屋で待ってるわ」
エーレは端の方の部屋を指差して二人を赴かせる
「それと……いえ、なんでもないわ」
(あんたたち…くっつきすぎじゃない!?)
今にも抱き合いそうな二人の距離感にエーレは心の中でツッコミを入れた
エーデルのいる部屋へと時間は戻る…
「むぅ…駄目じゃ。消されておる。記憶の回復そのものができん」
エーデルが二人の記憶を探ろうとするも上手くいかなかった
そこでエーデルは「二人を迷宮に連れて行ってそこで儂の術と合わせてみようかのう。全貌とはいかずともそこで何が起こったかは分かるかも知れん」と提案
当人達も希望したのでエーデルと共に再度迷宮跡地へ赴くことになり
エーレも護衛としての同行が決まった
そして当日、迷宮の入口前にて
「言われて付いてきたけど。私、本当に必要なのかしら?」
「そういうでないエーレ。世には一旦仕掛けが消えたと思わせて突然復活するという迷宮もあったと聞くぞ。まだ油断するには早いぞ」
「しかし結局四人で来ることになるたぁね…再調査の方が人数多くなるなんてバカバカしいぜ」
「そうね。あなたたちがしっかりしてればこんなことにはなってないはずよね」
相も変わらず距離が近いラヴィーネとカンネを呆れた目で見ながらエーレは嫌味をとばす
「言ってくれるじゃねえか、ここに入る資格があったかどうか分からん人が」
「…なんですって」
「ちょっとラヴィーネ!」
あっという間に空気を悪くするエーレとラヴィーネの二人の間に流石にカンネが注意に入る
エーレ、ラヴィーネ、カンネの三人は魔法学校出身であるが、エーレの方がいわゆる先輩で、かつ、首席で卒業している目上の存在である
が、ラヴィーネの口の悪さはお構いなしで、それが文字通り優等生タイプのエーレには気に喰わない…
一方、素直で人当たりの良いカンネに対してエーレはちょっと先輩風を吹かせがちになるものの、落ち着いて接することができる
「全く…あんた達何年一緒なのか分からないけど。カンネ。これちゃんと躾けておきなさいよね」
エーレはラヴィーネを指差して、これ、と言い放つ
「これとは何だよあーれさん?じゃなかったそーれさん?」
ラヴィーネの即反撃にエーレの頬がピクピクと引きつる
「痛い目に遭いたいのかしら?」
「エーデルさ~ん。助けてぇ~」
手に負えないとカンネがエーデルに助けを求める
「おぬしら落ち着け。今からこの調子でどうする」
エーデルはにらみ合う二人に釘を刺す
「エーレはいざとなったら儂ら三人抱えて脱出せねばならなくなるのかも知れんのだぞ、いわば要じゃ。ドンと構えておれ」
エーレは言われて、ふぅ、と表情に落ち着きを取り戻す
「ラヴィーネも相手はカンネではないのだぞ。誰もかれもカンネみたいにお前の言葉を飲み込んでくれると思わぬことじゃ」
ズバリと言われたラヴィーネは奥歯をグッと噛んでこらえる
「さて、では件の迷宮に再突入といこうかのう。準備は良いか?」
ともすれば少女にも見えないこともないその外見以上の老成さを発揮して、エーデルは一行の気を引き締めさせた
迷宮の跡地に突入した一行は、なん無く一つ目の部屋にたどり着いた
何もない、殺風景な部屋である
「…何も無いわね。いえ、調査ではひとつだけ…」
「…これのことだな」
エーレの言葉にラヴィーネは出入口の扉の前でしゃがみ込みながら返す
「床に擦った跡がある。つまりスライドする扉があったかもしれねえってことだ」
「…閉じ込める仕掛けが存在したかもって事よね。今はその扉ごと消え去ったみたいだけど」
「ええと。もし閉じ込める仕掛けがあったとしたら、仕掛けを解除する条件とかもあったってことだよね?」
「まぁそうだ。でもなけりゃ私達はこの部屋から出られずに今頃ガイコツだ」
(入口出口の両方が封鎖されてるとは限らないのに…)
エーレは喉元まで出かけていた言葉を飲み込んだ
「とすると、この部屋から脱出するために何かが起きていた可能性はあるわね」
「う~ん。思い出せない…」
「ま、そのための儂じゃ。ラヴィーネ、来るのじゃ」
エーデルはラヴィーネとカンネを部屋の中央に集めると、二人の額に手を当てた
エーレはすぐそばに立って事の成り行きを見守っている
「今からお主達の記憶の時間とこの部屋の時間をリンクさせる。この部屋、この空間からお主達のいた時間の記憶を吸い上げるのじゃ。そしてお主達の脳でヴィジョンとして浮かび上がらせ…」
今から行う術の理屈を丁寧に説明するエーデルだが、まるで呪文のようにブツブツと呟くので三人はそういうものだと黙って聞いている
「…前置きが長くなったのう、では行くぞ。二人とも目を閉じるのじゃ。エーレは警戒を頼む」
「分かったわ」
言ってエーデルも目を閉じて集中する…
…すると突然、部屋の壁から無数の触手が出現しカンネとラヴィーネに襲い掛かってきた!!
「「「!!!」」」
「伏せろ!」
「!?」
叫んだのは誰か。三人はその叫びの前に伏せる動作に入っており、ワンテンポ遅れてエーレが床に突っ伏した
「……」
しかし、その部屋では何も起きていなかった。4人の女魔法使いが床に突っ伏しただけである
「何?何が起きたの?」
突っ伏したまま問うエーレ
目を開けてしまっていた三人は総じて冷や汗をかいている
「いや、今壁から触手がいっぱい伸びてきて…」
「捕まりそうになって…」
「幻覚に反応して伏せろって言ったのね」
「幻覚…ではないぞ。それが、その時起こったことじゃ。まぁいきなりでビビったのは事実じゃがの。
ふむ…とりあえずは成功じゃな。さ、続きを見るとするかのう」
パンパンと服の汚れをはたいてエーデルは立ち上がり、他三人も続く
そして再び、エーデルはカンネとラヴィーネの額に手を当てた…
────ここはカンネとラヴィーネの回想の中────
二人は突然の触手にあっという間に全身に巻き付かれてしまった
触手はすぐに怪しい粘液を分泌しながら二人の身体の上を蠢き巡る
そして、細分化したり潰れたりしてもお構いなく服の下へと潜り繰り込み素肌を擦り始める…
『やだあっ!入ってくる!助けて!ラヴィーネ!ラヴィーネェ』
『クソッ、カンネを離せ!魔法が撃てないっ!どうなってんだ!』
魔法をも吸収する触手は徐々に二人の肌に馴染んでいき違和感が快感へと変貌していく…
二人からの抵抗の叫びも悶える喘ぎに置き換わっていき…
閉じる事を忘れた口元から涎が流れ落ちトロンとした瞳が向かい合う幼馴染の痴態を捉え合い自分たちはこれから堕ちるのだという被虐を、同時に一緒に堕ちてくれるんだという嗜虐を共有する
敏感な箇所を支配下においた触手から与えられる快感が限界を超えると、二人は嬌声を上げた
ガクリと二人が頭を垂れると、触手は二人を解放して壁の中へ消えていった
『ラヴィーネ…大丈夫…?』
『お前こそ大丈夫か…?』
ハァ ハァと熱い吐息を抑えられない二人は、とりあえずの無事を享受する
封鎖している扉が開く音がした────
────回想は終わり…
「「「………」」」
触手によるまさかの痴態を思い出させられ、ラヴィーネは表情が凍結、カンネは顔を真っ赤にして俯いている
(嘘だろ…このあたしが…)
(やだ…恥ずかしい…)
エーデルは苦笑いする他なかった
「はは…なんなのじゃこれは…なんなのじゃ…のじゃ…」
「ど、どうしたのよ三人とも…」
唯一冷静なのは回想に巻き込まれなかったエーレだけである
「いやそれがのう…」
「ま、待て!コイツには話すな!」
「うん…ちょっと嫌だな…」
「いいや、聞いてもらう。同行者だからの。ただし後で記憶は消すぞ、いやたぶん消せっていう」
「待てよ!やめてくれよ!」
「ラヴィーネ、しょうがないよ…あとで消してくれるなら…我慢しよ?」
「カンネ…お前まで……チッ、わかったよ…」
ラヴィーネが諦めてそっぽを向くと、エーデルはエーレの額に手を当てて
「では、儂が見た風景を流すぞ…」
…回想を流されたエーレは顔を真っ赤にし、不自然なニヤケ顔のまま固まってしまった
だがすぐに硬直を解くと、横にいたカンネを抱きしめ一呼吸したらカンネを解放するも両肩を掴んだまま問いかける
「大丈夫?体どこかおかしくない?」
「えっ…大丈夫ですけど…」
「あっ…そうか、前の出来事だったわね。ごめんなさい、私うっかり今起こった事と思っちゃって」
すぐに手を合わせて謝るエーレ。後ろからラヴィーネが睨みつけているのには気づかない
「臨場感はありましたもんね…」
カンネが目線を反らす
「…まぁあとでエーレには忘れてもらうから、すまんが我慢するのじゃ」
「それじゃあ、次の部屋に…行きま…しょう…か…」
エーレはどんどん声のトーンを落としていく。言いながら気づいたのだ
(もしかしてこんなのがあと何回も続くの?勘弁して!)
(この先で私とカンネに何が起きたんだよ…)
(まさか私この先でラヴィーネと…ラヴィーネと…!)
(正直帰りたい…だが…もう面白いものタダで見れると思うて行くしかないのう!)
それぞれの感想を胸に、四人は第一の部屋を去った
第二の部屋にはすぐ到着した。ここもまた殺風景だ
「とりあえずここと、次の部屋、さらにその次の部屋が最後の部屋だよ」
「残り3部屋ね」
「とりあえずここも何もねぇからさっさとやろうぜ」
「ふむ、では早速」
エーデルは先ほどの部屋と同じ様に術を発動させる
────二部屋目の回想────
二人は部屋の中央に近づくと突如現れた魔法の壁で分断されてしまった。透明でお互いは見えるし声も届くが合流することができない
脱出の術を探してキョロキョロしていると、壁に浮き出ている文字を発見する
そこには【自ら慰め合わないと出られない部屋】【性欲が増加する魔法】と書かれている
…この部屋の脱出方法と部屋に施された魔法であろう
言いなりにされてたまるかと、二人は壁を叩いたり魔法をぶつけたりしたが効果は無く、そのうちに身体が火照ってきていた。腰のあたりが疼き始めついにはしゃがみ込んでしまう
ラヴィーネは曲げた膝を両腕で抱え込むようにして丸まっている
カンネはペタンと床に脚をハの字に付けて手を胸の前で組んで耐えている
顔は真っ赤に染まりながらも意識ははっきりしているのでしばらくお互い声を掛け合い耐えていたが、徐々に口数が減っていく
やがて、湧き出てくる欲求に耐えられず、指を股間と胸元に向けてしまう、そして、そのまま…
体勢こそ違うものの、向かい合う相手が自分と同じ行為をしている。お互いその事に気づくと思わず相手の名を呼んだ。そうなるともう止められない
絶えず聞こえてくる自分の名と目の前の相手の姿が快感を増幅させ、際限なく膨れ上がらせてくる
限界を悟った二人は最後の抵抗で『『ダメ、ダメ』』と呟くが自分を止められるはずもなく、同時に限界を超えた
間を置かず遮る壁、魔法の文字が消え去り先の扉が開くと、欲求が解消された二人は見つめ合い
『ごめん、ごめんラヴィーネ…私…』
『…気にすんな…私だって』
謝罪の言葉を交わし合うと、立ち上がって次の部屋へと続く通路に進んでいった────
────回想は終わり…
「のじゃ…こいつら何をやっとんのじゃ…のじゃあ…」
「…見てたら分かんだろ!部屋の仕掛けのせいだろ!!どうみても!」
「うん…これはどうしようもないって」
エーデルが参っているとまたもや痴態を見せられた二人は揃って言い訳をする
今回は自分からしてしまったがなんとか魔法のせいにしたい気持ちはエーデルにはなかなか伝わらない
「……今度は何が起きたのかしら」
エーレが呆れる様な感じで言うと、キッとエーデルに睨まれる
「おう、知りたいのか?早速共有させてやるのじゃ」
言うや否やエーレの額に手を当てるエーデル。すぐに記憶を流し込む
「…まぁ、仕方、無い、わね…」
記憶を見て、途切れ途切れの言葉でエーレは後輩たちをフォローする。連続で痴態を見させられたのだからたまったものではない
「エーレさん。その…ごめんなさい」
「カンネ…まあしょうがないわよ。はぁ…」
不可抗力ではあるので後輩に素直に謝られたらエーレとて責められない
「あー。もうさっさと行こうぜ、次」
ラヴィーネに急かされて、一行は先に進むのだった
その先の第三の部屋も、また何もない部屋であった
「よし、ここでやってみるかのう」
「今度はどうなっちゃうんだろう…」
「もう殴り合いでもやっててくれた方が安心するぜ」
流石に三度目で手慣れたのか三人はさっさと集まって集中する…
────三部屋目の回想────
またも閉じ込められた二人。壁には3つの文章が光を放っている。真ん中の一文だけ明らかに長い
【体を重ねないと出られない部屋】
【果てる事ができるのは片方だけ、果てなかった方の性欲は自動で発散】
【性欲が増加する魔法】
…体を重ねろ。と書かれていても心の準備ができない二人はしばらくお互い部屋の隅で小さくなっていたが、じわじわ溜まる性欲を払拭できず…
気が付くと部屋の中央で顔を真っ赤にして向かい合っていた。身体の準備が先にできてしまったのだ
私から、と意を決して口を開こうとしたラヴィーネを…カンネが押し倒した。ラヴィーネはあっけにとられた顔のまま床に倒れカンネに馬乗りの体勢を許す
『ラヴィーネ、私だってラヴィーネを気持ちよくできるよ。ラヴィーネに負けないもん』
『カンネ、落ち着け。勝ち負けじゃなくて……んっ』
問答無用とばかりに唇を塞がれるラヴィーネ。これで今回の上下関係が決定してしまった
『ぷはっ…ラヴィーネ…もういいでしょ?…一緒に気持ちよくなろ…?』
カンネはラヴィーネの頬に首筋にキスの雨を降らせながら、ラヴィーネの服を脱がせていく
自分も服を脱いでお互い身に纏うものが無くなると、カンネはラヴィーネの身体を重ねまさぐりはじめる
肌が触れ合う箇所全てから気持ちよさが流れ込んでくる…
カンネがその舌と唇を全身に這わせる間、ラヴィーネは天井を仰ぎ見て喘ぎを発することしかできなかった
そして絶え間なく続いたカンネの愛撫にラヴィーネはもはや限界とカンネを抱きしめて、ひときわ響く嬌声をあげた……
……果てたラヴィーネと、部屋のルールの魔法で性欲が発散したカンネは、無言のままいそいそと服を着直すと
『…この部屋のせいだからね』
『…分かってるよ』
短く言葉を交わすと気まずそうにしながらも歩調を合わせて部屋を出て行った────
────回想は終わり…
まごうことなき情事を目撃した三人はラヴィーネまでも顔を赤くして俯いていた
「お主ら…一線を超えておったか……もう言い訳できないのじゃ…のじゃ…」
「…あぅ…ラヴィーネ…わ、私がラヴィーネを…う、うふふふ…」
カンネは衝撃の展開に両手を頬に当てて怪しげな笑いを零す
「おいしっかりしろよ。私だってカンネとマジで……なんて、どう反応すりゃいいかわかんねーよ」
知らぬ間に幼馴染と結ばれていた、という事実を突きつけられラヴィーネも眉を寄せる
「でも……一つになっちゃってたんだね…私たち」
瞼を半分ほど閉じてカンネが横からゆっくりとラヴィーネを抱きしめる
「あっおい、ひっつくなって…や、やめろ…離れろって…」
ラヴィーネは動揺していつもの様に力づくでひっぺがすことができない
(成程…こないだからやたらベタベタしてたのは一線超えたのを身体が覚えていたからじゃな)
「お熱いところ悪いけど今度は何をしでかしたのよ」
明らかに前回を上回るリアクションの三人にエーレが半ばあきらめ気味に声をかける
「…あー、エーレ。覚悟しといた方が良いぞ」
「…どういうこと?」
「言うより早い、じゃの」
エーデルは早速エーレにも記憶を流す………
「…というわけじゃな」
「………もう、いやーっ!」
成り行きとはいえ後輩達の熱い交わりを見てしまったエーレは絶叫した
……精神的に疲弊した一行は、ついに最後の部屋にたどり着いた
そこには簡素な、しかしちゃんとセッティングされたベッドがある以外は今までの部屋と変わりは無い
「ベッド…なんかもう嫌な予感がするわ…」
エーレは思わず天井を仰ぐ。再調査の時と何ら変化がないのに、今はベッドの存在感が段違いだ
「ここが最後か…しかしちょいと気になるのう」
部屋を見回してエーデルが眉をひそめる
「…お主らの記憶が消えていたということじゃ。しかしここまでその様な事が起きておらん。つまり…」
「この部屋で記憶を消されたってこと?」
「うむ。じゃから、この部屋の記憶の最後の瞬間は記憶が消される瞬間になるかも知れぬ。そしてそれは回想でも効果を発揮するやもしれん」
「つまり、ここまでの記憶がまたすっぽ抜けちまうってことか」
「左様。下手すると儂やお主らのここまでの記憶も含めてな…じゃから、エーレ」
「何?」
「儂が術の途中で叫ぶなりしたら、即座に儂の手をカンネとラヴィーネから離してくれんか。体当たりでもよいぞ、とにかく迅速にな」
「分かったわ」
エーレが頷くと、エーデルは最後の記憶の再生を始めた…
────最後の回想────
最後の部屋に入った二人は物の少ない部屋を漁ると二冊の魔導書を発見した
閉じ込められる様子もなかったので何気なくちゃんとセッティングされたベッドの上に腰掛けた二人の手には別々の魔導書が握られている
片方は【ベッドを綺麗にする魔法】、もう一冊にあは【性欲を発散する魔法】と書かれている
『性欲を発散する魔法、ったっておせーよ。さっきまでの部屋にあればなぁ』
『でも発散しても脱出できたわけじゃないから意味ないんじゃない?』
『ちっ…じゃあ、今使うか?私に』
『えっ…どういう…きゃっ』
ボフッ
ラヴィーネがカンネを押し倒す
『やられっぱなしじゃ性に合わねえ』
言いながらカンネにまたがるラヴィーネ
『えっちょっだってさっき、ラヴィーネ私に』
『まあ確かにすっきりしたぜ。アレで。だけどお前が上のままってのに納得いってなくてな。そのタイミングでこのベッドだ……ちょっとムラムラしてきちまってよ』
『え え え 今私、別に興奮してないんだけど』
『知るかよ。でも安心しな。すぐにドキドキさせてやるぜ』
『安心って…んっ』
何の躊躇もなく、ラヴィーネはカンネの首筋にキスをする
『ちょっ、強引だよぉラヴィーネェ』
やめてと言わないカンネに欲望に屈したラヴィーネが襲い掛かった
…ラヴィーネの愛撫で再び性欲の火を灯されたカンネはその流れのまま下半身を重ねたラヴィーネと快楽を貪り合い
互いの名前と気持ちをひたすらに紡いだ末、一緒に果てたのだった…
…2回目の情事が終わり、息を整えた二人がどちらからともなくキスをすると
『ううっ、激しかったよぉ』
『…ごちそうさまでした』
言ってラヴィーネは立ち上がり、遅れてカンネがベッドから離れる
『もうっ!…あぁベッドがグチャグチャだよ』
『あー……なるほどな、そのための【ベッドを綺麗にする魔法】か』
『あっそっか!そういうこと!じゃあ【性欲を発散する魔法】は…?』
『…それは…我慢しようと思ったヤツが使うやつじゃねーの』
『なるほど。そうすれば【ベッドを綺麗にする魔法】は使わなくていいってことになるね』
『ああ』
しかし目論見通り使う流れになった原因のラヴィーネは短く答えると気まずそうに視線をカンネから反らす
『…じゃあ使うね』
『任せた』
『【ベッドを綺麗にする魔法】…』
カンネが魔法を唱えると、ベッドが光り始め、同時に部屋全体も不思議な光に包まれて───
「エーレ!やれ!」
エーデルが叫ぶとすぐ横のエーレが杖を振ってエーデルの手をカンネとラヴィーネの額から払った
「…ふぅ、危なかったのう。おそらくあの部屋の光が記憶消去の光じゃ。恐らく魔導書を使うと連動して発動する仕掛けだったのじゃろう」
記憶の回想から緊急離脱させられ現実に戻されたカンネとラヴィーネは、その衝撃が残ったのか手で額を抑えている
どうやら今回は光を避けたので記憶が消去されずに済んだ様だ
二人が落ち着くまでの間、エーデルはエーレに最後の記憶を見せる事にした
…少しして、エーレへの回想の共有が終わった。二人も落ち着いた様だ
「結局素でカンネを襲ってるじゃないの。発情期だったのかしら?」
「うるせえな。カンネだって拒否しなかっただろ」
「…あの状況で拒否ったって無理矢理やるくせに」
「でしょうね。このケダモノは」
「誰がケダモノだ」
「あんたよ」
「よさんか。まずは無事で一安心じゃな。…記憶も一通り揃え直せたようだしの」
「その様ね。まぁ取り戻して良かったかはさておいて」
「良いんじゃねえの。少なくとも私は後悔してねえぜ」
ラヴィーネはカンネと腕を組むとグイ、と引き寄せるとアゴに指を添えクイと上向かせ至近距離で見つめ合う
「だろ?」
「……うん」
カンネはただそう一言を発し、手をラヴィーネの腰に回す
自然と、二人の瞳が閉じていき……
スッ
「はいはいそこまで。ああもうみせつけるんじゃないわよ。もう回想で十分だわ…そうそう…そういえば。回想であったもう一冊の魔導書はどうなったのかしら」
エーレは二人の顔の間に杖を差し入れイチャつき始めに釘をさすと、強引に話題を変える
「使わなかった【性欲を発散する魔法】の魔導書じゃな。おそらく光と共に消滅したのじゃろう…もったいないのう」
人の生態を操作する魔法は貴重じゃからの、と付け加えたエーデルとエーレがジト目でラヴィーネを責める
「ベッドの魔法だって貴重だろ、なぁカンネ」
「わ…私に振らないでよ」
「まぁいいわ。とりあえず謎も解けたし…それじゃあ帰りましょ。こんな何も無い場所さっさと出たいわ」
「おう、その通りじゃ」
「うん。早く外の空気吸いたい」
「ああ。さっさと帰ろうぜ」
エーレの意見に一同賛成し、四人は迷宮を後にした
後日、オイサーストの魔法協会内の一室にて
「…ということがあったのじゃ」
「………」
エーデルはカンネとラヴィーネを伴い大本の依頼主であるゼンゼに一連の内容を口頭で報告した。魔法を使った情事の場面の伝達は二人に配慮して行わなかった
それでも予想外の内容にゼンゼは絶句して固まってしまった
「儂の独断じゃが、あの後エーレの記憶の一部を消した。正確には知ってしまった詳細な情事の部分をぼかした感じにしたのじゃ」
「私は正解だと思う。あの出来事…私、他の人に知られたくないです…」
カンネがゼンゼに面と向かって意見を告げる。チラチラと隣の幼馴染を見ながら
「私も同意見だ。もし残せなんていったら死ぬまで覗き扱いしてやるぜ」
ラヴィーネは視線を逸らさずまっすぐにゼンゼを見据えて言い放つ。椅子の下でカンネの太ももを撫でながら
「…儂もこの後そうする。これは二人の秘密にするべきじゃからのう」
「…そうか。承知した。…すまないが報告書はエーデルがまとめて上げてくれないだろうか」
「分かった。その分報酬は上乗せしてもらうぞ」
「むぅ…まぁ仕方ない。了承した。では、今日はこの辺で。カンネ、ラヴィーネ。君達への報酬は追って渡すよ」
二人は頷くと、その場は解散となった
「では二人とも、この度は大変じゃったが…お疲れさんじゃのう」
エーデルが労う様に二人の肩をポンポンと叩く
「…何て言っていいか分からないけど…エーデルさんのおかげで…その…」
モジモジと指を合わせるカンネ
「まあ、感謝してるよ」
腕を組んで堂々とするラヴィーネ
「まぁ、大丈夫そうじゃの。何よりじゃ」
この手のケースは人間関係や精神に傷が付く場合もあるでの、と付け加えようとしたがエーデルは余計な事だと気づいてやめた
「ところで、この後どうする?一緒にパンでも買いにいかんか?」
エーデルがお気に入りのパン屋へ二人を誘う
「えっ?…その…誘ってくれて有難いんだけど…」
「すまねえな。この後コイツと一緒に探し物に行く予定なんだ。また今度ってことで」
「ほう、探し物かえ?なら儂が手伝ってやってもよいぞ」
「いや、そうじゃなくてな…」
「報酬も出ろからちょっと探そうかと…」
二人はお互い顔をそむける、その頬はほんのり赤く染まっている
「なんじゃ、その言い方だと買い物の様じゃの。何を探すんじゃ、言うてみい」
二人はお互いの近い手の指を絡ませて呟いた
「「お、お揃いの…」」
「「指輪」」
マセるのもいい加減にせい!とエーデルはとうとう蹴りを放った
おわり