ラビーナ

 ラビーナ


「初めましてぇ。あたしぃ、十二獣のラビーナっていいますぅ」

 ラビーナの一言で男たちは色めき立った。ゆるふわ系と言うのだろうか、鉄獣戦線には存在ないタイプである。

「凶鳥のシュライグさんですよねぇ。わぁ〜」

その女はシュライグにすり寄ってまじまじと顔を見つめた。

「なんだ」

シュライグのぶっきらぼうな言葉にラビーナはゆったりとした口調で続けた。

「噂通り格好いいな〜。なーんてぇ」

「…照れる」

「うふふっ、彼女とかいらっしゃるんですかぁ?」

「いない」

「じゃあ、あたしが立候補しちゃおうかなぁ〜」

「そうか」

 シュライグはまんざらでもなさそうな返事をした。

 こっ、この女…フェリジットは奥歯を噛み締めた。初対面の相手に対してそこまでグイグイ行くとは誤算である。

「シュライグと、後で二人っきりでお話したいなぁ〜」

「そうか」

 ラビーナはシュライグの耳元で何かを呟いた。フェリジットの忍耐力はそろそろ限界を迎えそうになっていた、

「それは大事だな。後で話をしたい」

「自分で言うのもなんですけどぉ〜結構男性受けが良いんですよねぇ〜」

「そうか。俺が必要だと思う人選も連れて行っていいか?」

「いいですよぉ。でもぉ、たくさんの人の前で見せるの恥ずかしなぁ…」

 ラビーナは腕組みをしながら小指を口に添えた。必然的に胸が強調される形になる。シュライグの視線がチラチラとそこに注がれているのをフェリジットは見逃すはずがなかった。当然フェリジットの勘違いである。

(ふーん、シュライグってそういう女の方が好みなんだ。まあ、確かに?鉄獣戦線の女ってガサツでサバサバしているもんねぇ。って、誰がガサツでサバサバじゃあ! もっと女の子らしい格好ぐらい、似合っているならしたいわよっ! 私があんな服着たら、うわキツ…ってなるのがオチでしょうが)


 フェリジットを呼びに来たキットが目にしたのは荒れまくっている姉の姿であった。フェリジットはベッドの上に座っていた。側に凹んだクッションが置いてあった。

 布団に包まる姉はクッションを殴っていたのだろう。顔こそ見えないがひどい顔なんだろうなとキットは思った。

「いい。ピンク髪で男を誘う格好しているスタイルのいい女は大抵ロクでもないやつなのよ」

「リズ姉はさぁ。外敵にめっぽう弱い在来種なの?」

 その発言ブーメランだよとはあまりにも姉が哀れでいうことができなかった。

「シュライグもシュライグよ! デレデレしちゃって、そんな風な女が好みなわけっ!? 料理とかうまそうだし、『今日はハンバーグ作ってみたんですぅ。シュライグさんのお口に合うといいなぁ』なんてことになっているのよっ」

 姉の勘違いを解消しようかと悩んだが、キットはシュライグの伝言を伝えるだけにした。

「シュライグが呼んでるよ。あたしの研究室に来いってさ。ラビーナの武器、テストするから」


「ヒャッアハッー! 最高じゃねえかぁ? これなら敵を挽き肉に出来ちまうなぁーっ!」

 ラビーナは機関銃を打ち続けていた。先程の穏やかな口調の彼女からは想像できないほどに高揚している。

「トリガァァァァハッピィィィィィッッッ!!!」

 人型の的は粉砕されてもう原型は残っていない。それでもなお撃ち続けて弾倉が底をついた。

「どう? あたしのカスタマイズ」

 銃口から煙が出ている。

「すっごいですぅ。さっすが、鉄獣戦線の技術って感じでしたぁ。こんなに撃ったのに全然ブレないんですねぇ〜」

 少し汗ばむラビーナはその場でぴょんぴょん跳ねた。先程の荒れた口調はどこへやら。女の子らしい彼女に戻っていた。

「あたしぃ、銃撃っていると人格変わるよねってよく言われるんですよ。ちょっとそれを自覚してて、恥ずかしいかなぁって」

「気にするな。誰だってそうだ」

シュライグはラビーナの武器を少し羨ましそうに見た。

「キット、俺にも扱える機関銃はあるか?」

「ないよ。シュライグは飛び回るのが役目でしょ。軽機関銃は重くて嫌いじゃん」

「…そうだな」


「な、なあ。ラビーナ、今日は鉄獣戦線との顔見せだったんだろ? どうだった?」

ドランシアは少しだけ不安げな表情を見せていた。普段は凛とした彼女が少し面白いとラビーナは思った。

「えーとぅ、牽制役にぴったりだってことになってぇ、狙撃手のフェリジットさんとぉ、連携して動くことになりましたぁ」

「そうじゃなくてさ。シュライグとは…」

「シュライグさんですかぁ? あたしにぃ一目惚れしたらしくてぇ。『好きだ。つきあってくれ』なんて言われたんですよぉ。あたしぃ、今付き合っている人いないからぁ、オッケーしちゃいましたぁ」

 ラビーナの嘘にドランシアは顔が青くなるという表現が適切なほどに絶望に染まった。思わずラビーナは笑ってしまう。

「嘘ですよぉ。ドランシアちゃんってカワイイ」

「あー、もう。ラビーナのバカ!」

ドランシアはポカポカとラビーナは叩いた。

「うふふっ、こう見えて、友人の恋は応援するタイプなんでぇ。共同戦線中に距離詰めないと駄目なんですからねぇ」

 フェリジットはこっちで抑えておくから行けというやつである。恋愛ごとには奥手の友人にそんな度胸があるか不明ではあるが。

「でもぉ、ドランシアちゃんが行かないなら、あたしがアタックしちゃおうかなぁ。シュライグさんは格好いいしぃ…彼女いないみたいだしぃ…」

「ダメっ! それはダメだからっ!」

 ドランシアはラビーナの肩を掴んで揺さぶった。


 ドランシアとフェリジットのカタツムリ並みに遅いヒロインレースが今、始まった。



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