ライオ・グランツと危険な男前

ライオ・グランツと危険な男前


連続中高生誘拐事件。

世間においてそのような俗称で流布されているその事件の被害者たちは、公表こそされていないものの多くが神覚者、あるいは神覚者候補として選抜試験に望む者の身内であった。───より正確に言うには弟や妹である。

ともかく、魔法界を救った英雄と知られるマッシュ・バーンデッドや、彼自身神覚者候補として現在選抜に参加しているドット・バレットらの最高に男前なナイスガイたちが被害者に含まれている事は世間に知られれば大混乱となるだろう。何としてでも迅速かつ秘密裏に進めなければならない、非常に難易度の高い戦いであった。

そんな緊急ミッションは世界一強くて男前な魔法警備隊隊長のライオ・グランツを中心とした────』


「⋯⋯おい」


「おい、ライオ」

「⋯⋯ダメですね、ライオさんはどうやらツッコミのし過ぎでナレーションに現実逃避してしまったようです」

カシャリとメガネのツルを押し上げたオーターに並走し進みがら、レインはゆるゆると首を振る。その間にも、絶妙なシャッターチャンスを保った角度で額を抑えながらのライオのナレーションは続いていた。


「⋯あのアホは放っておいて、ランスたちとの合流を急ぐぞ。はぐれた連中の取り合わせではどうなるか、分かったものではない」

妹の名前をブツブツと呟きながら血涙を流し続ける後輩、犯人ってのを見つければ殺せばいいんですよね?とそればかりしか確認しない後輩、監獄から収監されていた3人の兄が脱獄したという報せを聞いてから生気の抜けた後輩、あとやたらガラの悪い女性、4人がどうなってるかなぞレインは考えたくなかった。考える余裕すら無かった。

今現在レインの脳内は四捨五入して7割がフィン、3割がマッシュ、あとの端数で会話をしている。


「『全員が暴走状態の現状、犯人からすれば余程予測がし易いのだろう、ライオたちはこうしていとも簡単に分断されてしまっていた。しかし120点満点の男ライオ・グランツに任せれば合流など造作もない事なのである。』

ふむ。⋯⋯ライツシールド!!」


突然の攻撃に余裕で対応してみせたシールドにぶつかった飛来物たちが、轟音と土煙を立てて魔力へと還っていく。

不味いな、とライオは思案する。かつてイノセント・ゼロの攻撃すらも凌いでみせたシールドからバキン、と崩れる音がして、すかさずオーターの魔法によるシールドで覆われたが、いくつかはそのまますり抜け、内側の3人に牙を剥かんとしていた。シールドの内側に飛来した攻撃はレインが難なく自らの剣で撃墜したが、それを見たライオは本格的に不味いなと内心冷や汗をかいた。

ライオは、そしてオーターはこの魔法を知っていた。何なら学生時代にアホほどその身に食らっては、呆れられながら治癒魔法を掛けられた経験すらある魔法である。


未だ晴れない土煙の遥か先で、ガツンと誰かが脚を踏み出す音がやけに響いて聞こえた。

不味いな、とライオは3度目を胸中に呟いた。分断されてまで目の前の人物が自分たちに当てられたのは即ち、余程相手にこちらの事を知られている可能性がある。つまりこの事件の犯人は、としたくもない思考をする。


「なんで来やがった、バカ弟子ども」


「勿論、バカの先輩をぶん殴るためです。師匠」

「⋯⋯何だって良いでしょう。私は神覚者としての仕事を果たすまでです」

完全に晴れた土煙の向こうに、亡くなった師の姿と良く知った固有魔法による、夥しい数の殺傷武器が見えた時点でライオは覚悟を決めてしまった。その返答にオーターは瞳を伏せたが、何もないように努めて平静で続く。


同じように複数の武器を操る固有魔法である以上、メインは自分との撃ち合いになる、と後方で杖を構えたレインだったが、ふわりと知った感覚で景色が変わる。体感それは弟フィンの固有魔法、チェンジズであるかに思われたが、何かが違うことに気付く。

これは。この魔法は。

「⋯⋯⋯父さん」

ざっと血の気の引く音がする。杖を握る指先が強ばって力が入る。

青い顔をしたレインには咄嗟に後ろの気配を振り返る勇気を出せそうになかった。





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