【ユゴバズ/獣パロ】しっぺ返し

【ユゴバズ/獣パロ】しっぺ返し

@🎲振ってる人


まだ子供なユゴバズの獣パロです

うさぎユーゴー×猟犬バズ


うさぎって大体四ヶ月で繁殖期に入るんですが、オスの犬は十一ヶ月くらいで交尾可能になるらしいです

大人になるのにかかる時間が全然違うんだなあ


えっちなシーンが書けなさ過ぎて本番に突入せず終わりましたがたまにはそんなこともある

獣化(獣人化?)が大丈夫な方のみどうぞー



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土と草と、獣の匂いがする。

ひくひく、鼻をひっきりなしに動かし、匂いの出処を探った。

風向き、地形、森の空気の湿り具合…。


それらを計算し、にやりと笑う。吊り上がった口の端からは、鋭い牙が覗いていた。

ごくり。唾を飲み込む音がしたのは、バザードの喉からではない。


「みーつけた!」


茂みに飛びかかれば、見開かれた緑の目と目が合う。

バザードの下敷きにされた哀れなうさぎの悲鳴が、森に木霊した。



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「追い掛けてこないでよ」

「だって俺、うさぎ狩りの犬だぜ?うさぎを見つけたら追い掛けるしかねーだろ」


半泣きになって命乞いしていた哀れなうさぎはどこへやら。澄まし顔で先を行く丸尻尾の主を追い掛け、バザードは足を動かし続けた。

黄金色の毛並みが美しいうさぎは、とても野生には見えない気品を滲ませた顔つきだ。しかしバザードには少しもその事実が気にならなかった。うさぎそのものは、そう珍しくもない。何度か父の狩ったそれを見る機会はあり、つい三日前にも大きなうさぎをみたところだった。しかし、生きている、それも子供のうさぎに出会うのは、これが初めてだ。比較対象がいないのだから、目の前のうさぎに対しても「生きている子供のうさぎだ」以上の感想を持ち得なかった。


バザード・ブラックは猟犬である。正確には、猟犬見習いだ。

代々うさぎ狩りなど小動物を狩り続けてきた、由緒正しきブラック家。その嫡男として生まれた、血統書付きの子犬だ。

まだ幼いと案じる親の目をかいくぐっては自由に森に入り、遊びと共に狩りを覚えるようになって数日。初めて見つけた大きな獲物が、前を行くうさぎの少年だった。


「じゃあどうして狩らないの」

「お前みたいなすっとろいのを狩っても意味ないし。俺は天才だって見せつけるには、もっとでかくて強いのを狩ってこそだろ」


半分は本当で、半分は嘘だ。

バザード・ブラックは才に溢れていた。同年代の猟犬見習いが四苦八苦して挑んでは敗れる訓練を難なく突破できたし、仮にできない場合、誰よりも努力を重ねてやはり誰よりも早くに合格の証を受け取っていた。何もかもが一番で、それが当然だった。

周囲の大人たちの驚嘆、歓喜。同年代の羨望、憧憬。それらを一身に受けるのが心地よくて堪らない。

だからこそ、訓練ではない『本物の獲物』だって、前例がないくらいの若さで仕留めてみせたかった。


茂みに飛び掛かった瞬間のバザードには、確かに獲物の首を狙って牙を突き立てようという意思があった。それをしなかったのはうさぎの悲鳴に面食らったのと、自分と同じに生きている、自分と大して違いなく見える生き物の命を奪うことに、僅かな迷いが生まれてしまったからだった。

こんなしけた面をした、痩せぎすで、自分より小さなうさぎを狩ったところで意味はない。もっと大人の、見上げるくらい大きく、まるまると肥え太った獲物を見つければいい。

そう自分に言い聞かせたバザードは、今は好奇心のまま動いていた。金毛のうさぎの後ろに、数歩の距離を開けて続いている。

そんなバザードの内心を知る由もないうさぎは、幸運にも噛み殺されなかった事実をどう受け止めているのか。少なくとも警戒は解かないまま、しかし無理にバザードの追跡を振り払うこともなく、とぼとぼと歩いている。


「ぼくのことはほっといて」

「俺のことは気にすんなって!」

「巣穴を知られたくないんだよ」

「どうせ隠すのも下手だろ。どうすれば見つかりにくいか教えてやってもいいぜ」


うさぎの主張はもっともだったが、バザードは元より誰かの言葉に唯々諾々として従う気性ではない。

反対に助けてやろうと尊大な態度を取れば、うさぎが緑の目を細めて振り返った。下がり眉の間に皺ができて、迷惑に思っていることを隠そうともしていない表情である。


「いらない」

「なんでだよ」

「…叔父さんの言った通りにするから、いらない」

「叔父さんいんの?なんで親じゃなくて叔父さんから教わるんだよ?教えるの上手いとか?」


矢継ぎ早の質問に辟易するようなそぶりを見せながらも、答えなければ追及が止むことはないと早々に理解したらしい。うさぎは渋々といった調子で口を開く。


「…親は、いない。叔父さんも、三日前から帰って来ないけど」

「!」


三日前。大人のうさぎ。帰って来ない。

バザードの中で点と点が繋がっていく。


「どうしたの」


不思議そうに首を傾げたうさぎの、柔らかそうな毛に包まれた耳が揺れる。先程から何度も見ているはずのその動きが、いやに頼りなく見えた。


(このまま放っておいたら、本当に、死んでしまうかもしれない)


頼れる大人のいない、いかにも弱っちい見た目をした、小さなうさぎを。

ほんの少しの罪悪感と、膨れ上がった庇護欲によって、助けようと決めた。



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「また来たの」


緑の目を向けられ、バザードは歯を見せ笑う。うさぎの肩が小さく震えたのは、捲れ上がった唇の下に覗く牙を見たからだろうか。


「お前が死んだら困るからな!」


うさぎの少年に会いに来るための方便がこれだった。「数が減る一方では獲物がいなくなる」と口を酸っぱくして言い聞かせる両親の言葉を引用し、うさぎが家族を持つのを助けようというのが、バザードの主張である。胡散臭そうな顔をしていたうさぎも、最近では何度も繰り返された方便に、納得の色を見せつつあった。


「…別に、ぼく以外にもうさぎはいるよ」


時折、こうして拗ねたことを言うのだけはやめなかったが。


「でも、俺がこんなに話したうさぎはお前だけだ」

「ぼくも、こんなに話したのはきみが初めてだけど」


少しの沈黙が下りる。うっかり口が緩んだのはバザードだけではなかったらしい。相手への愛着を感じ始めている事実に、照れ臭さがあるのはお互い様だった。

面映ゆい感覚を振り払うように、バザードは大げさな動きでうさぎの背をバシバシと叩く。元気づけるように、あるいは胸を張らせるように。


「じゃあ今日は、罠を見つけて避ける方法を教えてやる」

「…いらないって言っても勝手に話すんでしょ」

「まあな!お前もわかってきたじゃん」

「…はあ」


溜息の中に、ほんの少しの嬉しさが滲んでいるように思うのは、バザード自身がこの時間を楽しんでいるからだろうか。

緩く持ち上がった小さな唇の端を見て、そうでもなさそうだとひっそり笑った。



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「なあ、早く番を見つけろよ」

「きみには関係ないでしょ」

「ある!」

「…どうして」


うさぎと出会い、日々は流れ、月を一つ跨いだ頃。出会った当初よりも体が出来上がってきたように感じる少年を前に、バザードはうさぎの成長の速さを実感していた。当の本人である少年はというと、耳をピンと立て、注意深くバザードの言葉を聞こうとしている。


「いつも言ってんだろ?狩るばっかりじゃ駄目だからな。そうすりゃ数が減る一方だ。お前らうさぎが番を作って、繁殖して、また次の獲物を産んでくれなきゃ困る」

「そんなこと言われて素直に番を作るわけないでしょ…」


全く以てその通りである。しかしバザードは少年の言葉を意に介さず、目を細めて笑った。


「別にいいだろ。どうせユーゴーも大人になれば番は必要になるし」

「バズもね」


いつしか二人は名前で呼び合う仲になっていた。狩るものと狩られるものたちが、名を教え、あだ名で呼び合う必要などない。今や友人以外の言葉が見つからない程に縮まった距離を、バザードは重く捉えてはいなかった。

ユーグラムはあくまでユーグラムである。他のうさぎとは違う。それだけだ。

「獲物に肩入れしすぎるな。手痛いしっぺ返しを食らうかもしれないぞ」と脅しつける大人の声など、恐るるに足りない。見るからに無害なうさぎでしかないユーグラムに、どうこうされることなど天地がひっくり返ってもないだろう。そんな幼い慢心も、バザードがユーグラムの元へ向かう足取りを軽くする一因だった。


「俺は…まだいいんだよ」

「ぼくも、まだ」


まだ、というのは繁殖期に入っていないという意味だと、お互い言わずともわかった。まだ小さく、細く、しなやかで、伸びしろのある体だ。少なくともバザードが交尾できるようになるまでは、あと数か月の猶予がある。

そこを過ぎれば良血統のメスと引き合わされることもあるだろう。未だ異性への関心が薄いバザードにとっては面倒で、期待よりも不安の大きい未来だった。


「………うさぎって…」

「なに?」

「…なんでもねえ」


いつから繁殖期に入るんだ。という疑問は、喉の奥に引っ込めた。なんとなく、その日が近いような気だけはしていた。



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いつもユーグラムと落ち合う辺りに、見慣れた耳が見当たらず。しかし、嗅ぎ慣れない匂いが微かに漂っていた。

その匂いを追った先で、茂みにへたり込んだユーグラムを見つけた。


「匂いがする」


熱に浮かされたようにそう囁くと、ユーグラムが顔を上げた。激しい運動でもした後のように真っ赤で、呼吸も荒い。瞳は潤んでいて、大きな目の縁から涙が零れ落ちそうになっていた。


「…!こ、来ないで」

「………あまい、におい」

「お願い、バズ…」


グルル。

獰猛な音が鳴る。

どこから?


バザードの、未だ細く、やわらかそうな喉から。

獲物を狩る猟犬の立てる音が、確かに鳴り響いていた。


「おねがい、こないで…」

「………ユーゴー…」


地に伏せて懇願する姿を、かわいそうに思うのに。それでもバザードの足は止まらない。

止めることができなかった。どうしても、欲しくてたまらないのだ。甘美な匂いを放ち、惹きつけてやまない、その喉元が――


「…う……う、……うぅ」

「…ユーゴー……、…っ、なんで、泣いて」


不意に、我に返った。とうとう大粒の涙を零し始めたユーグラムの、ぺたりと垂れた耳が胸を締め付ける。

悲しませたいわけではなかった。怯えさせたいわけでもなかった。

ただ、本能に従っていた。あとほんの少し、手を伸ばせば届く。その距離でようやく止まることのできたバザードを、ユーグラムが恨めしそうに見上げる。


「…来ないでって…言ったのにぃ…っ」

「あ…え……っ!?」


草の匂いがする。バザードの背に擦れた葉が、強い匂いを放っているのだとわかった。腹の上の重みが邪魔でうまく起き上がることができない。

荒い息を繰り返し、ユーグラムが赤い舌を覗かせる。


「もう、知らないから」


大人に言われて想像していたよりもずっと手痛い、しかし溺れるようなしっぺ返しが、バザードを待ち受けていた。


猟犬が、うさぎの。それも、メスとしての番になると、泣き叫ぶ羽目になるなどと。

誰も教えてはくれなかったし、誰も想像すらしていなかっただろう。

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