ユイ先生とルビー
私の通う陽東高校は芸能科と普通科で分かれている。
カリキュラムは基本的に同じだが、芸能活動しやすいように欠席と早退のラインが芸能科は優しいという点ぐらいの差だ。
あとは先生方も芸能活動に理解ある方が多い。
そんな先生方の中でも社会科の旧姓森、現在宮本、なユイ先生は生徒が出ている作品や舞台をきちんと見てくれている数少ない先生だ。
「それでは授業を始める。
不知火さん、世界地理p28、アフリカ大陸の気候についてを読んでもらいたい。貴女が出る映画のCMを見たが面白そうな作品だな。夫と見に行こうと思う」
「ありがとうございます。きっと先生に褒めてもらえる出来だと思います。
…アフリカ大陸は…」
「ありがとう。不知火さんが読んでくれたようにアフリカ大陸には特徴的な気候区分がある。
寿さん、続きを頼む。
それはそうと貴女が出ている雑誌を買ったのだが…寒くなかったか?私自身寒いのは得意じゃないから下に着込んでいるから心配で…」
「だ、大丈夫です!ウチ丈夫なんで!!」
…とこんな感じで一人一人当てる時にコミュニケーションを取ろうとする。それは普通科でも変わらないらしい。
加えて普通科では生徒達と流行りの番組や雑誌、映画などを聞いて調べていたりするそうな。
お兄ちゃんが言うには
『ウチの生徒出てないから調べてるみたいだな。出ていたら頑張っている、て褒めてやりたい、て話してた』
とかなり生徒思いの先生なのだ。
見た目も小柄で線の細い美人さんだから男女問わず人気がある。
私は知らないけど先生が結婚した、と噂が流れた時は芸能科、普通科共にみんな涙したとか…
そんな先生だから私も何かコメント貰いたい!そう思っている。どんなことを言ってくれるのだろうか。
「星野さん、申し訳ないが私と職員室に提出物を持って行ってくれないだろうか?恥ずかしい話、少々量が多くてな…」
みなみとお兄ちゃんの話で盛り上がっていたところ先生に声を掛けられた。先生から当てられることはあるけれど、個別に話したことは無いので驚いた。
もしや、まだアイドルとしての活動が微妙な私の持たれている印象が分かるチャンス?
先生からコメントをもらう=一般的な星野ルビーの評価、みたいな。
身内のダイヤやコハク、ママやパパは褒めてくれるけど身内だし。
「いいですよ!任せてください!!」
「すまないな…寿さんと楽しく談笑していたのに。
寿さん、彼女を借りる」
「ええですよ。ルビー、待ってるからな」
「うん!じゃあ先生いきましょう!
」
「ああ、ありがとう」
先生と並んで提出物を持って廊下を歩く。
先生、細くてちっさいのに姿勢がぶれずに静々と運んでいく。
運びながら先生に色々話かけると笑顔を浮かべて相槌を打ってくれるので色々話がしやすい。
家族のこと、ロリ先輩のこと、友達のこと、短いながらたくさん話した気がする。
(凄く話しやすいなぁ…私の話をニコニコしながら聞いてくれるし、いっぱい話しちゃう!
あと先生凄いなぁ…全然重そうに感じない…)
私は割とえっちらおっちら運ぶのだけれど先生は静々と運ぶ。背の高さ的に厳しいから私を読んだのだろうけど全然平気そう。
私必要だったのかな?
「そういえば、星野さん」
「あ、はい!」
聞き役だった先生から話を振られて少し驚いた。なんだろうか。
「ピヨえんチャンネルを夫と見たが被り物をして体操するのは大変だったのでは…?」
「!見てくれていたんですか!!嬉しいです!」
先輩加入と私達の活動一発目を見てくれている人がいた!嬉しい!!
「ああ。身体の健康のためにな、彼のチャンネルを観ている。まさか君と有馬さんが出てくるとは思わなかった」
先生はくすくす笑うと本当に可愛らしい。お人形さんみたいだ。
「いやー、アレが私と先輩のアイドル活動一発目なんです。まずは色々事務所の方々の力を借りて宣伝して…いつかは同じ事務所のマ…」
「マ?」
「ま、マーベッリクなアイさんみたいなアイドル目指してがんばります!」
「貴女ならきっとなれる。貴女に星の輝きを見たからな。
さて、ありがとう星野さん。
私は基本的にこの学舎に通う子達みんなの頑張りを応援している。
貴女のことも当然だ」
「先生…星の輝き、って言ってくれましたけど私、輝いてました?」
「ああ!弱音を吐かず、最後まであの体操を乗り越えた君の姿は間違いなく!!」
力強く先生は言い切ってくれた。
…まだまだなんだけどな。
それでも私の、先輩の頑張りを見てくれているのが嬉しかった。
「私は君達が大舞台で輝く様を見てみたい。応援しているよ」
「ーーーはい!ありがとうございました!!」
今日事務所でユイ先生に褒められた、てことを先輩に伝えないと。
そう思いながら教室へ戻った。
1年後
浅草
「星野さん?」
「?ユイ先生!!なんで浅草に⁈あ、私はお仕事です!先輩もいますよ」
「そう、凄く頑張ってるのは観ていて分かるよ。実は私の家が近くでね…夫と娘を待っているんだ。欲しいものを見つけたらしくてね。だだをこねるから主人が折れて買いに行った」
やれやれ、と困った風に笑いながらも穏やかに微笑む先生。家族を愛しているのが分かる。
そういえば先生、お子さんいたんだった。今2歳になったばかりだとか。
割と年齢不詳なんだよね。可愛し。
旦那さんどんな人なんだろ?芸術家、とは聞いたけど。
「ユイ、すまない。カヤがねだるものだからつい…」
「私達自身、この子に甘いところがあるから気をつけないとな。反省会だ」
「〜♪」
長身の髪を括り、前髪で左目が隠れた男性に抱き抱えられた女の子がネコの小さなぬいぐるみを抱きしめてご満悦な様子。
この2人が…
「星野さん、紹介する。
彼が私の夫のイオリ。仏像専門の彫刻家だ」
「ははは…彫仏師の宮本です。妻から聞いていましたが教え子に現役アイドルが居るとは…」
「あははは、まだまだ駆け出し中です!頑張りますよー!!」
「ふふふ、そしてこの子がカヤ。貴女達の歌が好きでよく聞いている。
カヤ、このお姉ちゃんはルビーちゃんだよ。貴女が好きなお姉ちゃん」
「☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆」
凄く喜んでくれているのかな?笑顔で手を伸ばしてくれている。
おずおずと手を伸ばして小さな手と握手する。
「はじめまして、カヤちゃん。星野ルビーです。応援よろしくね」
「!!」コクコク
「カヤが嬉しそうに頷いている。幼いのに分かるんだな」
「好きな人が目の前にいるからな。
きっと幼心に忘れられない経験として残るだろう」
私は小さなファンと先生のご家族と写真を撮り、カヤちゃんにサインを描いて別れた。
いつまでアイドル出来るか分からないけど、大きくなったカヤちゃんに推しだと言って貰えるようになるまで頑張り続けようと思った