ヤンリタSS『秘事』

ヤンリタSS『秘事』


※注意※

・ヤンマとリタが付き合っている

・Hの流れまでが長いのに本番なし…服を脱がせる前と事後

・後日談あり

・ヒメノが友情出演

・糖度は高め











 結局、着てしまった…。

 リタは今日の自分の服を見ながら独り言ちた。

 襟に薄紫色のフリルと袖口にピンク紫色のフリルが施された白いブラウス――胸元にはピンク紫の大きなリボン――に、白色のフリルや薄紫のレースが付いた丈の短いティアードスカート。髪はツインテール。…普段とまるで違う出で立ちの自分に、今から逢う相手はどう思うのだろう。




 数日前のヒメノとの遣り取りが頭を過る。




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「リタってヤンマと付き合ってるの?」

「ヴァッ?!何故それを…?!」

「あ、本当だった…。

 カグラギから聞いて、鎌を掛けてみたんだけど」

「な…っ」

 カグラギがどうして知っているのだと一瞬 思ったリタはすぐに、カグラギだしな…と流した。

 それよりも、だ。――ヒメノに知られた…。何故それを…?!と反応してしまった、前言撤回はちょっと厳しい…しかも、相手はヒメノである。

 リタは俯き、どうしたものかと頭を抱えた。

「ねぇ、ヤンマってどんな感じなの?」

「………」

 話をどう逸らそうと考えていたリタはヒメノの問いに何て返せばいいかわからず黙っていたら

「ちゃんと愛されてる?」

 とんでもないことを訊かれ

「っ、愛…ッ?!」

 声が裏返る。

「だって、ヤンマ…ゴッカンが五道化の物になった時リタのこと心配している様子じゃなかったんだもの」

「それは…!私を信頼してくれているからだ…私がゴッカンを奪還すると」

「ふーん…。

 信じてるのね、ヤンマのこと…」

「まぁな」

「だったら、服は?あのときリタが着ていたお洋服について何か言ってた?可愛いとか似合ってるとか」

「 っ ……」

「やっぱり言われてないんだー…」

「いや、それは…」

 ヤンマの性格上、難しいだろう。

「だいたいヤンマはアイドルみたいな衣装を着たリタのことどう思ってるのかしら」

「ぇ」

「リタは気にならない?」

「………っ」

 …全く気にならないと謂えば嘘になる。

「そうだわ!」

 いいことを思い付いたとヒメノはこう続けた。

「今度のデートにその格好して行くのよ!」

「……は? はぁ?!」

 なにを!言い出すんだ?!この女王は…!!

「恋人がデートでおめかししてきたら嬉しいはず。――ふたりっきりの時なら何か言うでしょ」

 ふたりきり。その単語に、つい考え込む。


 ―――ふたりきり…。ふたりだけの時なら…言ってくれるかなぁ


「決まりね」

 ふふと笑むヒメノに圧し切られ、


 次の逢瀬で、アイドル衣装を着ることとなった…(彼女は自分を心配してくれているのだろうから無碍にできない…と言い聞かせて)。




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 とは謂え…

 恥ずかしい。

 ‘あのとき’は潜入捜査と割り切っていたから何ともなかったけれど。――いまは凄く恥ずかしい。


 でも…。

『恋人がデートでおめかししてきたら嬉しいはず』

 ヤンマはどうだろう。もし嬉しいと思ってくれるなら…




 リタはこれまでのデートを振り返った。




 オシャレに然して興味がなく、デートでも黒い燕尾服風のコートと黒を基調とし紫のラインが入った襟とダブルボタン付きのノースリーブシャツに黒のズボンという常時と変わらぬ服装だった。

 …それは、デートをする所が大抵ゴッカンであることも多少なりとも関係しているかもしれない。

 リタは街の喧騒というものがあまり得意でなく、仕事以外で他国へ行くのは億劫だった。リタのそういう性分を慮って、逢瀬の際はヤンマの方がゴッカンに来てくれている。


 けれど、ゴッカンには娯楽施設がない。ふたりはサイバーン城のリタの部屋か書庫で過ごした。




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 書庫の本棚には法律の専門書や判例集,過去の裁判記録等、法に関する書籍がずらりと並べられている。

 ヤンマはページをぱらぱら捲りながら、人を裁く為にこんな小難しいこと知っておかなきゃいけないって大変だな、と言った。彼は法律なんて知ったことかと突っ撥ねるタイプだと思ったから、読んでもつまらないだろう、と切り返したら

「小っちぇ時から本を読んで学んで…そんで現在(いま)のリタがいる…お前の、真面目さとか“決して揺るがない”信念とかの根幹に触れた気がするから、つまらなくはないぜ? むしろ、ちょっと嬉しい つーか…」

 再び本に目を落とした。

 ‘あのとき’ヤンマの僅か紅くなっている耳を見てこっちまで照れてしまったのをリタは憶えている。


 リタの部屋ではテクノロジーの話をよくした。

 最初、こんな話つまらないか、とヤンマは申し訳なさそうにしていたけれど、彼の語るそれは興味深かった。ので、

「否、そんなことない。おまえの思考回路が少しでも知れてよかった…」

と答えたら、そっか、と安堵の声を溢した。

 それからと言うもの、ヤンマは時々自作のオモチャを持ってくるようになった。ロボットや自動車・ヘリコプターの模型――ラジコンと言うらしい――,スノードーム…ヤンマはそれら一つひとつ何であるかを説明し、使い方・遊び方を教えていく。

 手作りのモノをくれるのは勿論 嬉しかったけれど、そのこと以上に楽しそうに説明をするヤンマが愛しかった。――だけど、そんなこと、むず痒くて口にできない…。


 だから、リタはお礼も兼ねてコーヒーを淹れることにした。

「自分で淹れてみたんだけどよ、」

 あるとき、ヤンマが切り出した。

「あんま巧くできないんだよなー…。

 やっぱリタが淹れるやつが旨い!」

 彼はニカッと笑った。

 リタは、そうか…と返すだけで精一杯だった。




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 思い起こせば、自分は彼からもらってばかりだ。


 私は…私は…――なにをあげられるだろう…。ヤンマに。


『恋人がデートでおめかししてきたら嬉しいはず』

 ―――この格好、ヤンマ喜んでくれるかな


 可愛いって思ってくれるだろうか…似合っていると言ってくれるだろうか…――期待と不安と気恥ずかしさを隠すように、リタは上から長いマントを羽織った。








 待ち合わせ場所――城の門前に着いたところで

「リタ!」

 自分の名を呼ぶ声。

 ヤンマが、よっ!と片手を上げて立っている。

「今日はマント羽織ってるんだな。珍しい」

 早速、彼にいつもと異なる装いだと気づかれた。

「変か?変だよな?!着替えてくる!」

 途端、マントの下のらしくない服装をヤンマに見られるのが恐くなって、リタは城内へ逃げようとするが…

「ま、待てよ!」

 呼び止めるヤンマに肩を掴まれ、マントが滑り落ちた。

「!あ、すまん…!

 ん?…リタ、お前…その格好…」

 み、見られた…ドン引きされたらどうしよう…

「いいな!似合ってる!」

「ぇ」

 いま、なんて…?

「いつもと違うけど、いいじゃん…」

 ヤンマが満面の笑みを浮かべている。

「……///」

 お気に召してもらえたようで一安心だけれど、――これはこれでこそばゆい気持ちになる。

「ってか、急にどうしたんだ?

 あーもしかして、久し振りに逢うから…――俺の為??」

「………っ///」

 改まって訊かれると恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。

 リタが羞恥の余り何も言えずにいたら、ヤンマも照れくさくなったのか

「いやいや…流石に自惚れすぎか…」

なんて言い出すから、慌てて

「そんなことない!」

 強く言い返した。そこまではよかったのだけど

「おまえに見てほしくて…」

 勢いで言うつもりのなかった胸の内を口走って…。

「マジで…?///」

 照れながら鼻の頭を掻くヤンマと視線がぶつかる。

「 っ、///」

 リタは堪らず彼から目を逸らした。

 それから、何とか弁明をしようと口を開く。

「 これは…その……ヒメノに言われて…」

「ヒメノに?なんて言われたんだ?」

「何故かヒメノに私とヤンマが付き合っていることを知られていて…」

「は?!なんで?!どういうことだ?!」

「カグラギから聞いたと言っていた」

「…げ、カグラギかよぉ…あいつの情報網こえーな、どっから嗅ぎ付けやがったんだ…」

 はぁ…と溜息を吐いて、ヤンマは先を促した。

「この服は、五道化にゴッカンを奪われてミノンガンが唐突に始めたアイドルオーディションで着たんだが」

「ヘェ…あの時、こんな衣装も着たんだな。俺、ちゃんと見てなかったから」

「それどころでなかったんだろう?」

「というか…ゴッカンが五道化に乗っ取られたって聞いて、リタがどうなっているのか気になって見に来たんだよ。

 そしたら、いきなりアイドルオーディションだろ?

 カメムシ野郎がリタに変装してるにしちゃいつものリタと人格が違いすぎる…洗脳の可能性を疑ったがヒル女はその時点だとンコソパに居座ってるからそれも無い。

 変装と洗脳の線は消えた。

 他には…って考えて、カグラギは裁判長という辛い役目を辞められるという甘い蜜でリタを取り込もうとしてるとか言ってたが、リタがそんくらいで揺らぐはずないから有り得ねェ。

 とくりゃぁ、ミノムシ野郎が突然おっ始めたってことを考慮して、奴らの目的を探る為に敢えてアイドルオーディションに参加することにした…つまり――潜入捜査」

「!」

 ヤンマはわかっていた…!わかってくれていた…!

「お前のことだ、潜入捜査でオーディションを受けるなら全力でアイドル目指してるやつになりきるだろうなって。

 国を奪(と)り返す為なら、国民を守る為なら、お前は何だってする。――俺も、そうだ」

「!!」

「国の為、民の為、一所懸命オーディションに挑んでるお前の姿を見てたら…これ以上ンコソパ放っておけねぇなって、本腰 入れて奪還しなきゃなって、気合い入ったわー」

「っ、そ、そうか…」

 思い掛けずヤンマの背中を押していた模様。

「そんで、急いでウルコン回収した訳!」

「押収品を無許可で持ち去るのは違法だ。また捕まると考えなかったのか?」

 彼の力になれたのだとすれば嬉しいことだけれど、その結果が犯罪行為なのは見過ごせない。

「お前になら捕まってもいいよ」

「ーーーッ///」


『お前になら捕まってもいいよ』

 ―――ヤンマ、おまえッ…

 リタは心の中で叫ぶ。

 なんてことを!さらっと!言うんだ!


 うっかりときめいたリタの心中を知る由もないだろうヤンマは続ける。

「ウルコン回収した足でンコソパに戻ったから、俺…リタのアイドル服じっくり見てないんだよなー」

「っ、それでだな…

 付き合っているなら今度 逢う時にこの服をヤンマに見せたらどうかとヒメノに言われて…」

 リタは胸のドキドキを悟られないようにと祈りながら、事情を話した。

「で、今日 着たってことか」

 納得した様子のヤンマに、あぁ…と小さく返す。

 と、ヤンマがこちらをまじまじと見て、こう告げた。

「似合ってるよ。可愛い」

「~~~っ///」


 ヤンマにはこういうところがある。普段は可愛いなんて口にしない。彼はシャイなのだ。だけれどたまに、言う。ぽろっと。おそらく彼自身も無意識のうちに。


 その証拠に…

「…って、なに言ってんだ俺?!思わず、口に出しちまった…!恥ずかし…!」

 発言後に照れる。


 自分で言っておいて照れるんじゃない!と思う。言われたこっちが恥ずかしいのに…と。でも…厭でない、嬉しい、から、リタはそんなこと言うな…と拒否しない。嬉し恥ずかしで、なにも言えないのだけれど。


 しばらくして落ち着いたのか、ヤンマがこちらを向いた。

「…もっと近くで見ていいか?」

「 っっ、…どう ぞ…」

 ヤンマがゆっくり近づいてくる。

「やっぱりさ…」

 目の前まで来て

「リタの瞳(め)、綺麗だな」

 ヤンマは呟いた。

「!!///」

「こっちの瞳(め)、いつもは前髪で隠れてるじゃん。だけど、今日の髪型だと両目ともばっちり見える。

 前髪 払って瞳(め)を見るのもいいけど、瞳(め)が隠れてないって新鮮だ!」

 彼は何かを新しい発見をしたかのように、楽しそうだ。


 『恋人がデートでおめかししてきたら嬉しいはず』。――ヤンマは喜んでくれたみたいだとリタは感じた。


 それにしても…

 ―――近い…!!顔が、近い…///

「うわ、近っ!///」

 リタが思ったと同時に、ヤンマが発する。

 どうやら近づきすぎたとようやく我に返ったらしい、悪りィ!と詫びて彼は少し離れた。

「………///」

「………///」

 ふたりして黙り込む。

「悪い!!」

 突然、ヤンマがまた謝ってきた。

「??」

 首を傾げるリタに対し

「…あ、あのさ……」

 ヤンマは若干 言い淀んでから口火を切る。

「その気があって近づいたんじゃないんだけどよ…――今ので“その気”になっちまった…」

「 !!~~~ッ///」

 ヤンマがなにを言っているのかリタは理解した。

 “その気”って、シたい ということか…――理解して、胸が高鳴る。

「厭か…?」

 こちらを窺う彼の表情(かお)はせつなげで…。

 きゅん、とした。


 ヤンマとシたのは数える程だ。逢う度に抱かれたのじゃない。

 多くは、一緒に本を読んだり、オモチャで遊んだり、コーヒーを飲んだりして過ごしている。リタはふたりでいられればそれでいい。ヤンマもおんなじ気持ちならいいなと思うし多分そうなんだろうと思う。ふたりで逢うと必ずヤる訳でなく、ヤンマに無理矢理 組み敷かれたことなんか一度もない。キスは何度もしているけれど(ヤンマとのキスはコーヒーの匂いがする)。彼が身体目当てで付き合っているのでないのをリタはよくわかっている。

 だから、いまのだって、下心から『…もっと近くで見ていいか?』と言ってきたのじゃないってこともわかっている(その時点で“その気”なら事に及んでいるはずだ)。

 だから、だから、


「いつもと違うリタが新鮮で、近くで見ようって…。

 そしたら、目の前にリタがいて…いや俺が近寄ったからなんだけど、顔 近っ!ってなって…、それで…――触れたいなって…もっとお前を感じたいなって…」

「///」

 顔を紅くして想いを綴る彼に、こっちまで紅くなる。

「ダメ、か…?」

 熱を帯びたヤンマの双眸(ひとみ)に切羽詰まったものを感じて。

 ドキンッ――リタのハートが早鐘を打つ。


 似合っているって言ってくれた。可愛いとも言ってくれたし…。――理由を付けて、自分に言い訳する。

 それに…

『リタの瞳(め)、綺麗だな』


「………駄目じゃない……」

 リタは伏し目がちになって応えた。


 ヤンマに求められるのは厭でない。


「そっか」

 ヤンマは少年みたいににっこりする。

 その笑顔にリタはドキリとして、ヤンマの顔が見れず下を向いた。

 ヤンマが近寄ってくる気配がする。そっと、マントを肩に掛けられた。

「リタ」

 名前を呼ばれて、両頬にヤンマの手が添えられる。ヤンマと瞳(め)が合った。

 額に額をくっ付けられた。ヤンマしか見えない。

「目ェ閉じろ」

 言われた通り瞼を下ろせば、唇が重なった。

 甘くて長い唇づけ。だんだん苦しくなって…――息ができない…っ

 そう思ったとき、キスから解放された。

 腰が抜けて仰け反りそうなところで、ヤンマの手が背中に回され、そのまま抱き寄せられる。彼の胸に顔を埋めることとなり…、鼓動が聴こえた。ヤンマの、鼓動が。


 ―――ドキドキしているのは私だけじゃないのか…


 それが嬉しくて。知らず知らず笑みが溢れる。


「リタ、」

 ヤンマの声にリタは顔を上げた。

「部屋、行くか」

 リタはこくりと肯く。…きっといまの自分は顔中が真っ赤だろう。

 ヤンマに手を引かれ、城の中ヘ。リタは繋がれた手のぬくもりに高揚と緊張と羞恥を覚える。斜め後ろからヤンマを窺い見ると首までほんのり色付いていて彼もまた自分と同じように昂っているのだと察してホッとした。








 部屋に着くと、ふたりはベッドの端に並んで座る。リタはマントを脱いだ。

 ヤンマの手が肩に乗せられる。

「リタ…」

 その呼び掛けを合図に、リタは睫毛を伏せた。

 そして、キス。角度を変えて何度も交わす。唇づけが深くなって、口の中にヤンマの舌が入ってきた。その舌はリタの舌を絡め取り、口内を掻き乱す。

 リタの肩を掴んでいたヤンマの手の、片方はそのままにもう片方がリタの腕を滑り…胸を触った。

「あ、んっ」

 鼻にかかったような声が出る。

 チュ…ッと音を立てて、ヤンマは唇を離した。

 そうして彼は愛しげな眼差しを向けてくる。


 そんな瞳(め)をして見つめられたら…――どうにかなっちゃう…!


 熱にうなされるかのように、頭がぼぉーっとしてきた。


「リタ… お前の声、もっと聴きたい…」

 掠れ気味の声で囁かれて、耳を甘噛みされ、首筋に唇を落とされ…

「ヤン、マ…っ///」


 ふたりの身体がシーツに沈んだ。






「なぁ、」

 ベッドで愛し合った後、ヤンマが話し掛けてきた。

「これからは俺がいないとこでその格好するの禁止な」

「えっ」

 ヤンマにたくさん可愛がられて、その余韻に浸っていたリタはまだ頭が正常に働かない。

「えっ、じゃなくてよ…

 これから先、俺以外の奴にその服は見せんな ってこと!」

「…どうして…?」

 今後この衣装を着るつもりはないのだけど、ヤンマがわざわざ言及してくるのは何故だろう。

「普段かっちり着込んでるお前が、そんな露出度の高い格好したら…破壊力ヤベーから」

「?! そうか…。わかった」

「よしっ!

 そしたら、寝るか!」

 ヤンマに抱き締められる。リタの心臓が跳ね上がった。

「おやすみ、リタ…」

「……おやすみ…」

 抱き締められた瞬間は心拍数が上がったけれど、ヤンマの腕の中にいると安心する。

 リタは瞳を瞑った。



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 数日後のこと。


「リター!」

 ヒメノが駆け寄ってくる。

「この前のデート、どうだった?ヤンマはなんて?可愛いとか言ってくれた?」

 矢継ぎ早に尋ねられて戸惑った。しかも質問の内容が内容だ、リタは赤面する。

「おい、ヒメノ!もうやめろ」

 割って入って来たのは、ヤンマ。

「俺の裁判長を困らせるなよ、お姫様」

 ヤンマはヒメノを軽く睨み付けて、こちらを覗き込む。

「大丈夫か、リタ」

 やわらかな声色にリタは、うん、と一言。

 ヤンマはリタの手を取って、そこから連れ出してくれた。






「ヤンマ、先刻…『俺の裁判長』って…」

「あ?ヒメノにはバレてんだからもう隠す必要ないだろ?」

「それはそうだが」

「それに…一遍ガツンと言っとけば、もう詮索してこないだろーし」

 そう付け加える、ヤンマの顔は微か朱に染まっていて…ヒメノの対応に困惑しているリタの為に、彼は自身も恥ずかしいのにそれをおしてああいう言い回し――『“俺の”裁判長』という言い回しをしたのだと勘づいた。


 こういう然り気なさが好きだ。


「ヒメノは一国の王だからな、その辺の分別はあるさ」


 ヤンマの弁を聴いて、リタはヒメノが右目をどうしていつも隠しているのか問うてきたときのことを思い出す。


『…無神経だった。

 事情はあるもの…撤回させて』

 ‘あのとき’ヒメノは右目の秘密を話さないリタに謝った。


 彼女は相手が本気で嫌がることを言わない、しない。そこは配慮のできる人物だ。

 ヤンマもヒメノを信頼しているのだろう。ヒメノは友人だから、彼が彼女を殊更 邪険にしないでくれることがリタには有り難かった。


「そうだな」

 リタが同意して口許を緩めて

「ありがとう」

 微笑み掛ければ、

 ヤンマも微笑みを返してくれる。



 笑い合うふたりを、暖かな陽射しが包んでいた―――。

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