ヤマニンゼファーちゅー大好き概念

ヤマニンゼファーちゅー大好き概念


「トレーナーさん……俄風ですが、また良いですか?」


 大きな二つ結びの鹿毛、大きな流星、右耳の赤いリボン。

 風のようにふんわりとした雰囲気の担当ウマ娘、ヤマニンゼファーは尻尾をそわそわ揺らしながら問いかける。

 またか、そう心の中で思いながらも、俺は椅子に腰かけながら両手を開いた。

 良くないことだと、理解しながら。


「…………いいよ、今週はこれで最後だからね」

「はい、貴方を見ていると、どうしても誘風に吹かれてしまいますね」


 ゼファーは俺の言葉に柔らかく微笑むと、早足に近づいて来る。

 そして正面から、ふわりと膝の上に飛び乗って、そのままぎゅっと抱き着いて来た。

 彼女は俺の胸元に顔を埋めて、すうっと大きく、ゆっくりと呼吸をする。

 ふわふわな彼女の髪と耳、その童顔に見合わない豊満な膨らみが押し付けられて、心臓が高鳴る。

 鼻先をくすぐる甘くて、草原の風のように爽やかな香りが、鼻先をくすぐった。


「トクトク……♪ トレーナーさんの心臓が、風早に鳴っているのが聞こえます」

「……キミみたいな可愛い子にそうされると、どうしてもそうなるんだ」

「まあ、何時からそのような甘い風を吹かせるようになったのでしょう?」


 すりすりとゼファーは、自身の匂いをつけるように頬ずりすると、顔を上げて背を伸ばした。

 金色の熱っぽい瞳が、微かに赤く染まる頬が、薄くて小さな唇が、目の前に来る。

 彼女はゆっくり俺の背中に両手を合わせて、少しずつ顔を近づけていった。

 息がかかりそうなほどの距離になった時、彼女は小さく言葉を紡ぐ。


「……今日もあいの風を、私に、ください」


 そしてゼファーは、自身の唇で、俺の唇に触れる。

 キス、口づけ、接吻────それはつまるところ、唇を重ねる、という行為だった。

 切っ掛けは、ただの事故。

 彼女が転んでしまった時、それを受け止めようとして、失敗して、偶然、唇が触れ合ってしまった。

 尻尾と耳をピンと立ち上げながら、口を押さえて、涙目で顔を真っ赤にしていたことを、良く覚えている。

 そのまま彼女は謝罪とお礼を口にして、疾風のように駆け出してしまい、しばらく話すことすら出来なかった。

 真剣に償いの方法を考えていた時、彼女が現れて、恥ずかしそうに言った。


 ────また貴方の息吹を感じても良いですか、と。


 もちろん、良いわけがない。

 担当トレーナーと担当ウマ娘が、キスをするなんてあってはいけないことだ。

 でも、彼女の懇願するような顔と、以前、唇が触れた時の感触が、どうしても離れなくて。

 たまになら構わない、と俺は答えてしまったのであった。


「ん……ちゅっ……んっ……」


 ゼファーは可愛らしい音と声を出しなら、短い間隔で、唇を何度も重ね合う。

 曰く、触れ合う一瞬が、キスをしている中で一番好きから、だそうだ。

 実際に、彼女は唇を重ねる度に目つきが蕩けていき、幸せそうな表情になっていく。

 しばらくそれを繰り返していると、突然、彼女は顔を離して、困ったように首を傾げる。


「……トレーナーさん、少し、唇に乾風が流れていませんか?」

「……ごめん、最近乾燥していたから、不愉快だったかな?」

「いえ、これはこれで新風を感じて爽籟なのですが……今日は少し趣向を変えて、しなととしましょうか」

「えっ」


 ぽかんとする俺を尻目に、ゼファーは再び唇を寄せて来る。


「あむ……ちゅう……」


 そして今度は、自らの唇で俺の下唇を優しく挟む。

 ゼファーはそのまま、はむはむと甘噛みしたり、ちゅうと吸ったりしてきた。

 ふわふわとした彼女の唇の感触と、その瑞々しさと熱さが、脳に直接届くような感覚。

 さらにはちろりと舌で唇を舐めてきたりと、彼女のやりたい放題であった。

 やがて満足したのか、彼女はまた顔を離して、にこりと笑みを浮かべる。


「どうでしょうか? 少しはしゆたらべになったら良いのですか?」

「……潤いはもらえたけど、顔が熱くてすぐに乾いちゃいそうだよ」

「あら、それは盲点でした……ではもっと、トレーナーさんに茅花流しを……」


 そう言ってゼファーは唇を尖らせると、耳をぴこぴこと動かして、催促をし始める。

 これは、彼女からの、今日の仕上げの合図。

 彼女との口付けは三段階に分かれている。

 啄むようの短く繰り返すもの、その日の思いつきで行い物、そして最後。

 一番最初に、彼女にお願いされて唇を重ねた時、どうしてもとお願いされたこと。


 ────最後は、あからしまに、貴方から長風なキスをして欲しい、です。


 俺はゼファーの右耳と左の頬を両手でそれぞれ触れて、こちらから顔を近づけた。

 そのまま動くことのないゼファーと唇を重ねて、舌を強引にねじ込む。


「んんっ……! んちゅっ……れろ……ん……」


 びくんと最初こそは震えるものの、すぐに力を抜いて、ゼファーの方も舌を絡ませて来る。

 お互いの熱い吐息を、唾液を交換し合う。

 その最中、俺は右手で彼女の耳を軽く撫でてあげたり、揉んだり、くすぐったりと弄ぶ。

 すると彼女は気持ち良さそうに身体をくねらせ、嬌声を上げてしまう。


「ひゃっ……ふあっ……んっ……ふっ……あむ……ちゅ……」


 それでも、ゼファーは唇を離さないで、舌を絡ませ続ける。

 数分くらいそれを続けて、お互いが息苦しくなって、顔を真っ赤にした頃、ようやく顔を離した。

 俺達の口元から、てらてらと光り輝く、どこか淫靡な唾液の橋が架かる。

 獣のように荒く、炎のように熱い呼吸が、お互いの顔を撫でつけた。


「ふふっ、トレーナーさんの荒天の熱風が、気持ち良いです……♪」


 理解しがたい趣味だが、ゼファーは息切れした後の俺の呼吸を浴びるのが好きらしい。

 ……理解しがたいわけでもないか、確かに俺も熱くなった、彼女の甘い息を浴びるのは嫌いじゃない。

 とろりと蕩けきって、力なく乱れた顔をする彼女が、とても愛おしく感じてしまう。

 息が整う頃合いを見計らって、俺は彼女の頭を胸元に寄せる。


「あっ……」

「こう、したいんだよね?」

「…………はい、ふふっ、とっても東風です」


 ゼファーの頭を優しく撫でてあげると、耳はリラックスしたように外側を向いて、尻尾が緩やかに揺れる。

 やがて彼女の力が抜けて、ずっしりとその重みを感じるようになると、彼女は小さく囁いた。


「……また、してくださいね」


 ダメだよ、と思いながらも、その言葉はどうしても出てこない。

 だから俺も、わかったよ、と彼女の耳元で小さく囁きを返してあげた。

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