モンキー・D一家の日常 “放送事故っちゃった”②
―――お昼ご飯も終わり子供たちと遊んでいた時、玄関から『ただいまぁ』と声が聞こえた。
「おかえりミライ。今日は早いんだ」
「うん、何か楽器の講師の人が急に来れなくなってね。それに今日の夜から天気悪くなるからって早めに切りあがったの」
「そうなの、ご飯は食べた?」
「学食で済ましたから大丈夫だよ。あ、そうそう島の商店街で何か移動商店の団体さん来てたよ。食材とかも売ってた」
「本当?もしかしたら何か珍しいものあるかも、ルフィにも違うお肉食べさせてあげたいし。
よし買い物行くか、マストー、ママの買い物手伝ってー」
「はーい」
帰ってきた長姉の話を聞いて、丁度いいとあれこれ買い物のリストを頭の中で整理、力自慢の息子に手伝ってもらおうと声をかけるが
「おれも行きたーい!」
「……あたしも行く」
「ぼくも!」
「うーんまぁ、珍しいものは見に行きたくなるよね、良いよ。ただし街中では勝手に離れちゃダメだからね」
ララとムジカも着いて行くことになり、お母さんは買い物へと出かけて行った。
「じゃぁミライ、セカイの面倒頼んだよぉ」
「はーい」
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『何と言うか……お母さんしてるなぁ』
『くぅぅっレコーディング室しか見えねぇからもどかしい!』
『しっかり母親してるウタちゃん……良い』
『ママァ!!僕の面倒も見て―!!!』
『ウタは僕のママになってもらうんだ!!』
『おい何かやべー奴らいるぞ』
『お前らみたいな変態にはビッグなマムに面倒見てもらうんだな』
『あれは嫌だぁぁ!!』
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リスナー達がやんややんや騒いでる時、レコーディング室に人影。
学校の制服から私服に着替えたミライが入ってきた。
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『お!ミライちゃん!』
『私服可愛い!スポーティTシャツ!』
『良かった、そこは母親に似なくて良かったよ』
『ウタの私服Tシャツはダサいからなぁwww』
『てか、ミライちゃん何するんだろ。何か探してる?あ、トーンダイアルだ』
『音楽学校通ってるし、予習とかじゃね?』
『えらいなー』
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電伝虫が配信中になっていることも知らずにミライはレコーディング室に置いてあるトーンダイアルの一つをデスクの上に置いて深呼吸する。
何やら意を決したかのように目つきを変えて、ダイアルのスイッチを押した。
「ひとりぼっちには飽き飽き~なの♪
繋がっていたいの~♪
純真無垢な想いのまま Loud out♪」
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『まさかのウタカタララバイ!?』
『お母さんの歌練習してる!』
『ていうか上手!ミライちゃんも歌姫なれるよね』
『まぁ身近に最高の歌手がいるし、エレジアの学校通ってるからね~』
『しかし、この歌よく歌えるなぁ』
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母親の曲の一つを目を閉じて歌詞とリズムに集中して歌い続けるミライ。
そしてサビに入り、ラップに移る。
「ないものねだりじゃないこの願い~♪
I wanna know 君が欲しいもの
本心も気づかせてあげるよ
見返りなんて要らない あり得ない
ただ一緒にいて ※mnっpぅ
ああ!!噛んだ!やっぱりここでミスるぅ!」
と、苦い顔してしゃがみ込んで顔を覆う。誰にも話してないが実は彼女は母親の歌の完コピを目指していた。
新時代から風の行方までの6曲(もちろんトットムジカは知らないが)歌えるように練習しているのだが、一番の難関がこのウタカタララバイである。
サビまで歌えてもその後の鬼のようなアップリズムラップで躓いてしまうのが最近の悩み。
親にバレずに歌えたらけっこう自慢できそうと思い内緒で日々練習してるのだ。まぁ今日でリスナー達にバレたけど。
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『可愛い♪』
『まぁウタカタララバイはねぇ、あれは本当に難しいよ』
『自分の知り合いでも歌えたって人はいないなぁ』
『お母さんの曲真似してるミライちゃん良いね』
『ハァハァ、ミライたん(*´Д`)』
『失せろ!!!』
『なんかこのコメントビリビリしね!?』
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その後は母親の曲を2,3曲練習して水分補給。そして柔軟と健康的なプライベートを送る。
「ちょっとだけ動かしとくかな、ナマッてたら嫌だし」
と言って彼女は部屋に備えつけられてたサンドバックの前へ
ステップして手首と足首を入念に回して温める。
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『あれってミライちゃんのだったんだ』
『てっきりマスト達のかと』
『普通に考えてルフィさんのだろ』
『お前新参者だな、海賊王の拳はサンドバックじゃ受け止めきれない』
『可愛らしいパンチやキックが見れるとなればサンドバックも喜びに--』
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とリスナー達はこれから見れる光景に少しワクワクしたことだろう。子供のサンドバック遊び、見てて微笑ましいと……だが
--ドガッシャァァン!!!!!
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『『『ええええええええええぇぇぇぇ!?!?!?!?』』』
『サンドバック一回転しなかった!?』
『子供の放つ蹴りじゃねぇ!!』
『血筋!?遺伝なの!?』
『ミ、ミライさん……おみそれしました』
『強くなったなぁミライ、じぃじは嬉しいぞ』
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と、電伝虫の向こうで驚嘆の嵐の中、彼女はサンドバックを撫でて『ぁぁ、二回転いかなかったか。もうちょっと師匠みたく綺麗に入れば』とキックのフォームを見直す。
回転蹴りや前蹴り、後ろ回し蹴りとハンコック師匠直伝の蹴りを繰り返す。一発入れる度にリスナーは思ったことだろう。
『この子は何を目指しているの?』と……彼女はただ家族のために強くなっただけだが。
そのあと、何発か蹴りをお見舞いし終わり、何を思ったのか彼女は途中逆立ちしだした。
「パーティテーブルキックコース!!」
どっかで見た逆立ち回し蹴り……無論、このキックに関してはペシペシと音が鳴るだけだった。
「うん、やっぱ無理。サンジさんってどうやってあんな強く蹴れるんだろう?逆立ちで」
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『可愛い』
『可愛い』
『可愛い』
『黒足の蹴りって確かに異常だよな』
『あの人の脚力は人類じゃない』
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と、出来ない技は諦めてサンドバックを虐めた後、彼女の体力作りも終わり部屋を出た。
数十分経ってから、玄関の扉が開いた音がした。買い物からウタ達が帰ってきたらしい。購入物を整理して子供たちは遊びに行きウタも一息入れた。
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『おかえりー』
『おかえりーって俺らも暇なんだなぁ、半日は見てるぞこれ』
『しゃーないって、ウタ姫の放送事故はそうあるもんじゃない』
『楽しもうぜ、そして(・∀・)ニヤニヤ』
『悪い奴しかいねぇのかよ!俺もだが!』
『って、ん?ウタちゃんだ』
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レコーディング室に入って来た彼女、先ほど筋トレした時と同じくらいのラフな格好である。
またトレーニングかなと思った皆の予想通り、彼女は筋トレ用にも使ったマットを地面にひいた。
だが彼女はそのマットの上に行く前に、おもむろにサンドバック前へ移動した。
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『あれ?ウタさん?』
『まさか……彼女も?』
『いやあり得るぞ、海賊王の嫁だぞ……』
『サンドバック耐えれるのか?』
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ザワザワと電伝虫の向こう側が騒がしくなっていき、当人は耐性を低くして……。
「ゴムゴムの~~鞭ぃ!!」
ぺちん……と小さい音を鳴らすだけのローキックが出てきた。
むふぅ、とウタちゃんはご満悦。
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『可愛い』
『可愛い』
『可愛い』
『って親子で技真似か、可愛い』
『流石に嫁のフィジカルは普通か……』
『てか学生なのにサンドバック回転させるミライちゃんがヤバい』
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と、ウタの体術が一般人と同等と発覚してほんわかするリスナー達であった。
さてと、彼女の日課であるヨガを始め、深呼吸。マットの上でそのセクシーな身体を保つ秘訣を臆面も無く披露(放送事故なので仕方ないが)
とここで
「かあちゃん何してんだ?」
わんぱく長男坊が乱入。
「んん?ヨガって言ってね、身体を健康にする体操だよ」
「あ!俺知ってる!上達したら火吹いたりワープしたり、父ちゃんみたいに腕伸びるんだろ!」
「そ、そんなヨガはママ知らない……」
リスナー達も思った『どんなヨガだよ』と
と、ハトのポーズを崩して息子に『一緒にやる?』って誘い、息子も興味本位で大きく頷いて母親の真似してヨガを行う。
が……
「飽きた!!外行ってくる!!」
「うん、5分と持たなかったか」
父親に似たのか、じっとする事が出来ない長男坊に苦笑しながら彼女はヨガを続行。
そして10分くらいしてからだろうか
「ママー、セカイが泣いてるー!」
「おしめも替えたのにぃ!」
ライトとムジカがワタワタと入って来た。ああもうそんな時間かと思い一度水を口にして
「うーん、多分ミルクかな?」
と子供たちに安心するように説明した。
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『ん?』
『ん?』
『え?』
『んぇ?』
『んぉ?』
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そして、セカイを抱いたミライが入ってきて
「あ、やっぱり?機嫌が悪いわけじゃないと思ってたから」
はい、とソファに座ったウタに泣いてるセカイを渡す。
さて……ここでウタは哺乳瓶も粉ミルクも用意するそぶりを見せない……ということはだ。
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『ミルク!?……ほわぁ!?』
『おっぱいぃぃぃぃ!!!!!!』
『おっぱい!おっぱい!』
『ウタちゃん!?これはやばくね!?いやガチでまずくね!?』
『歌姫のぉ!?ブァストがぁ!?全世界にぃ!?』
『祭りじゃぁ!!!!』
『失せろぉぉおおおお!?!?!?!?』
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―――新世界、レッドフォース号にて
「おおおぉぉおぉお?!!!??ウタぁぁああ!!?消えろお前らぁぁああ!!!」
四皇赤髪のシャンクスは全世界にいるであろうリスナーに向けて本気で覇気を飛ばしていた……。
これには幹部達も大慌てである。気持ちはわからなくもないが
「お頭!意味ねえことすんなよ!新人達が泡拭いて倒れたぞ!!」
「うるせぇ!!このままじゃウタのパイが世界中に放映されちまう!?ウタチチデカパイがががががが!?!?!?!」
「ウタカタララバイみてぇに言うな!!何とかして止める方法をだな!」
とスネイクやライムジュースがうんうん唸り、ホンゴウが『あ!』と指を立てた。
「いや普通に電伝虫使えば良いんだよ!」
「そうだよ!連絡先わかるんだから!」
「なんでこんな簡単な方法が思いつかん俺達!?」
人間、慌てまくると初歩的な解決策すら思いつかなく事もある。
よし早速とシアタールームにある電伝虫を使おうとシャンクスが振り向いた……が
「なぁ!?電伝虫が気絶してやがる!!」
「うわ!マジか!やべぇ!他の電電虫もぐったりしてるぞ!?」
「映像電伝虫も白目向いてる!どうりで配信も映んねぇはずだ!」
船中の電伝虫が気絶していたらしい。これには大頭も冷や汗を流し
「覇気でも食らったのか!?誰だよ!こんなことした奴は!」
「「「おめぇだよ!!!」」」
四皇の無差別覇気に耐えれる奴は稀だ。電伝虫も気絶するのは仕方ないことであった。
「ウタぁぁぁあ!!ミルクストップだぁぁあ!!」
じいじの叫びは周囲の海に響くだけであった。
―――今、まさにソファに座ってセカイを抱きながら微笑むウタ。
「はぁい、ミルクでちゅよぉ♪」
そのままシャツをたくし上げ……全世界に放映された。
「腹減ったなぁ!」
ドアップされたマストの後頭部が
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『おいぃぃ!?』
『マスト君!そこ!どいて!見えない!』
『お兄さん!ちょっとズレて!少しで良いから!』
『ダメだ!他の兄弟と話し始めた!ライト君まで重なって見えん!』
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リスナーがやんややんやと文句垂れてるが、それも直ぐに収まった。
マストとライトが笑い合う笑顔の間で見えたウタの慈しむ顔。
愛する我が子がすくすくと育つ様を見た彼女の笑みは本当に幸せそうだ……。
ララやムジカがいるから皆の見たい所は見えないが、セカイにミルクを与えるウタの表情を見たリスナーは悔い改める。
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『天使……いや女神や』
『歌の女神様がここにおわす』
『申し訳ございませぬ神よ……私は愚かにも女神様の胸にばかり頭が』
『俺達って……邪な存在だな』
『人間は皆罪深き者……』
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幸運(?)なことに授乳中はマストやライト達が電伝虫の目を塞ぐ形になり、ウタの胸が映されることは無かった。
数分後、レッドフォース号にて気絶から覚めた電伝虫が映像を流し、その状況を確認した赤髪海賊団はコメントの様子からとりあえず危機(?)は免れたと安堵したという……。
さて、電伝虫の向こう側がてんやわんやな状況から一転、落ち着いた雰囲気となり時間は過ぎる。
今は腹減ったと騒がしかったマストはドーナツを食べてた。ウタが昼のショッピングで子供たちのために買ったらしい。
レコーディング室にてライトと一緒にもぐもぐ食べるマストとライトの男兄弟は美味い美味いと頬張る。
その時、マストはあることを思い出して声に出した。
「ああドーナツ♪うましドーナツ♪穴までうましドーナツ♪」
「兄ちゃん何その歌?」
「父ちゃんが教えてくれた、これ歌いながらドーナツ食うともっと美味くなるみたいだぞ」
「へ~~~じゃあ俺も歌う!」
「「ああドーナツ♪うましドーナツ♪穴までうましドーナツ♪」」
仲良き兄弟のメリエンダであった。
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『麦わらぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!』
『うぉ!!?このコメントビリビリくる!?』
『たまにあるよな、痺れるコメント(物理)』
『しかし面白い歌だなぁ、誰の歌だ?』
『アレだろ、児童向けの即興曲だろ』
『ああ、そういうやつか。もしくはルフィさんが作ったとか?』
『違うよ!!これは偉大で気高く!かつ可愛げのあるお兄ちゃ--』
『?』
『?』
『? なんかコメント途切れた?』
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とある国にて妹に対するちょっとした兄のお説教があったとか無かったとか……
そして、夕方近くなり親子二人でボイトレをしてたウタは隣で水を飲んでるミライと談笑してた。
「ミライも上手くなったね、声の音域広くなったよ」
「ママには遠く及ばないけどねぇ」
「そりゃ流石にそう簡単には追いつけさせないよ、えっへん」
「あはは、私ももっと練習しないと」
「焦らなくて良いからね、歌は急に上手くなることは無いから。自分の声と喉とお腹と一つ一つ付き合っていくことだから」
「はーい」
親子の会話というより歌手の師弟のような会話だ。世界の歌姫が先生だからどこよりも最高の環境であろう。
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『親子デュエット聞ける今って最高だよな』
『この放送事故、マジでありがたや』
『可愛いと歌上手いが合わさり最強に見える』
『てかミライちゃん、マジでそこらの歌手より上手くね?』
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と、ここで今日の練習は終わりにしようと口にして、ウタは思い出す。
「あ、今日はパパが航海から帰ってくるから今から夕飯用意しないと」
「そうだね、パパって帰ってくる日は絶対お腹空かせて来るもん」
「ミライ手伝って。まず食糧庫から恐竜の尻尾肉とロックビッグバードのもも肉100kgずつは運ばないと」
「マストにも運ばせよ、あと野菜は私たちの分だけで良いかな?」
「パパも最近美味しく食べてくれるから用意して良いよ、20kgくらい」
そして二人はレコーディング室を後にして愛する夫(父)ための料理準備に勤しむ。
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『今何かおかしくなかったか?』
『単位間違ってね?グラムじゃなくて?』
『キロ言うたな……合わせて200kgの肉?いや野菜20kgも十分おかしいけど』
『しかも恐竜言わんかった?え、絶滅してないの?』
『グランドラインのどこかにいるらしいぞ、たまーに流通してるの見たことある』
『てかロックビッグバードって世界一でかい鳥だったっけ?え?どうやって手に入れたの?』
『海賊王の家だ。何でもありだ。』
『そうだった、ここ海賊王の家だった』
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可愛い奥さんやお子さん達の微笑ましい配信に騙されるかもしれないが、海賊王一家なのだ。
所々、常識外な場面が見られる。
日が沈みかけ、オレンジ色の海となった時間帯。
レコーディング室は静かであったが、遊びに入ったマストとライトが扉を閉めなかったからか外から調理音が聞こえる。
リスナー達も『腹減った』やら何やらと空腹を主張してきた。
そして、勢いよく扉が開く音。家のどこにいようと聞こえる大きな声。
「ただいまぁああ!!」
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『おかえりー』
『声でか!』
『一週間はかかる航海だったみたいだぞ』
『ああウタちゃん言ってたね。ルフィニウムやらルフィ成分不足中とか』
『旦那も会いたくて仕方なかったのかもな』
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海賊王のご帰還である。だがリスナー達が見る光景はそんな大仰なものではなかった。
「おかえりぃ!ルフィ!!」
「パパおかえりー」
「父ちゃん!おかえり!!土産あんのか!?」
「父さんおかえり!」
「……おかえり」
「おかえりなさーい」
「ぉぁぅぃ」
愛する妻と娘の温かいおかえりの挨拶に破顔し、腕を伸ばして全員まとめてハグしてみせた。
ゴムゴムのぐるぐる巻きとか言われてるルフィにしか出来ないハグに皆キャッキャッと笑い合っていた。
そう、ここは海賊王という肩書き何か関係ないただの仲睦まじい家族の光景である。
これにはリスナー達も変な茶々をいれずに朗らかな笑みを浮かべるしかない。
「ねぇルフィ~寂しかった~」
「俺もだ~ウタ~」
と、ここからはバカップル夫婦のお決まりのやり取りが行われる。軽いキスを交わし、イチャイチャと抱きしめ合いながらクルクル回る。
そう、全て子供たちの目の前でだ。三つ子たちはパパとママ仲良いねぇと笑い、マストはまーた始まったとやれやれ感を出す。
そしてこのやり取りと一番見てきたであろうミライは
「ママ、お肉焦げる前に戻って来てねー。パパはコートハンガーに海賊コートかけてね、後シャワーでも浴びてきたら?」
「「あ、はーい」」
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『なにこの手慣れ感!?』
『IQ下がる両親の下では長女はしっかりするのですねぇ』
『願わくばこの光景を目にしたい』
『わかる、レコーディング室しか見えないから会話で情景を思い浮かべるしか出来ないんだよなぁ』
『でも、すごいわかりやすいんだよな、ここの家族のやり取りって』
『うんうん』
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夕飯の時、家族の『いただきます』という言葉が響く。
そこから始まる談笑と食事音、主に父親が体験した冒険譚を肴に食事は進む。
ある島に上陸した。そこにいた人達の話。未知の洞窟やジャングルの冒険。強い敵やそこにあったお宝。
帰りの航海で起こった天災、だが仲間たちと切り抜けた清々しい話に家族は皆色々な楽しそうに感想を交わす。
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『ねぇ、なんかゴーレムとか聞こえたぞ』
『不思議岩とかって言ってたけど、岩が動いて襲ってきたってこと?』
『しかも話の途中で出た海賊って船長が5億ベリーの結構大きい海賊団だよね?』
『航海中に竜巻にあったっていうけど……竜巻から生還出来るんだね、船って』
『注・彼らは特別な訓練を受けております。素人は真似しないでください』
『出来ねぇし、したくもねぇよ』
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海賊王の冒険譚なのだ、一般人には奇想天外過ぎる話がこれでもかと出てくる。
ルフィは話ながら腹を満たし、笑顔でウタに『ご馳走様』と手を合わせる。
そこでリスナー達は驚愕した『200kgの肉を完食しやがった』と……
夜が更け、子供たちも寝静まる時間……月が美しく輝く。
レコーディング室にてインスピレーションを刺激されたのか、作曲活動をしてるウタはペンを回しながら鼻歌を歌う。
再開した夫の冒険譚を聞いて心配になったり笑ったりと心動かされたのだ、この感動を少しでも歌に昇華出来ればとデスクに向かう。
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『また新しい曲が出来そう!』
『これは楽しみだ!ウタちゃんの才能マジで神がかってる!』
『まぁ海賊王の話聞けばアーティストとして何かが刺激されるんじゃね?』
『間違いないな』
『最高の海賊の家には最高の歌手か、確かにベストマッチな組み合わせかもね』
『確かに……ん?』
『ぁ、海賊王だ』
『パジャマ来てる』
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レコーディング室の扉が開き、中にルフィが入ってくる。作曲中のウタに紅茶を持ってきたらしい。
「ありがとう」
ウタは小休止として、カップを受け取り口をつける。
「おう」
と、ここでルフィはどこかバツが悪そうな顔をして
「ウタ、その、遅くなって悪い……」
「ううん、航海に遅れはつきものだよ。それに」
彼の頬にキス
「こうして無事に帰ってきてくれたし♪」
「ウタ……」
愛する者の許しの笑顔にルフィもつられて笑みを浮かべる。
これにはリスナー達も『尊い』という意見が一致し、拝む者もいた。
だが……リスナー達はこれから慌てることになる。
「なぁ……ウタ」
そっと抱き寄せて彼女の唇を軽く奪う。そのまま彼女の瞳を見つめる。
「子供たちも寝たし……良いか?」
「っ!?…………ぇっとぉ……先にシャワーを……」
「悪ぃ、待てねぇ」
とウタの首筋に鼻を当てて彼女の温もりと香りを堪能しだす。
「ル、ルフィ……」
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『ひゃわぁぁぁああ!?!?!』
『お、おおお、おお、落ちち着けけけけけ!?これは海賊王の罠だ!?』
『もまえがもちつけ!?え!?試合始める!?ここで!?』
『海賊王が歌姫をムシャムシャする動画!?これは滾る!!!』
『悪いがこっから先はR指定だ』
『言ってる場合か!?!?!ルフィぃぃぃぃ!!!一回止まれぇぇぇええ!!!!』
『ルフィさん!!二人のあれこれが映されてますよぉ!』
『ルーシー!?!?!?はわわわわわわ!?』
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そんな大騒ぎのリスナー達には気づかず(当たり前だが)、ルフィはウタをそのままレコーディング室にあるソファに寝かせようとする。
だが、ウタは期待半分恥ずかしさ半分で顔を赤くし、何とか一度心の準備をしたく部屋を見渡す。
「えっと戸締り」
「鍵は閉めたぞ」
「セカイが起きるかも」
「起きたら直ぐわかる」
「明日、予定が……」
「あるのか?」
「ごめん、無い」
下手くそな言い訳も通じず八方ふさがりになり、もう言い訳が通じないとウタは観念した。その時たまたま部屋の壁際に置いてた電伝虫に目が行く。
「あ、ほら電伝虫を一応虫小屋に入れてね!」
配信の時から戻すの忘れてたと彼女は電伝虫の目の前まで来て、そっと持ち上げる。
その時……彼女は違和感に気づいた。なんかこの電伝虫……目が充血してるし疲れてる。
ジィっと彼女は電伝虫を見つめ、背中にある装置に目が行く。
「…………ぁ」
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『ぁ』
『あーあ』
『(ノ∀`)アチャー』
『気づいたか』
『ここまでのようだな、楽しかったぜ!』
『良かった!!R指定配信は無くなった!!』
『歌姫のお顔が爆発するまで、3・2・1…… 』
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「ほあひゃあぁぁぁぁぁあああ!?!?!?!??ystvづいmlg」
「ウ、ウタ!?!?」
顔を真っ赤にしたウタはそのまま電伝虫の配信ボタンを今度こそ正確(けっこう乱暴)に切り、虫小屋の中に入れる。
そのまま奇声を発しながら寝室まで走り去ってしまった。
「…………なんだぁ?」
哀れ、事情をまったく知らない海賊王は夜のお楽しみを味わうことが出来なかったとのこと……。
(うそうそうそうそ!?!?え、いつから!?まさか配信からずっと!?!?嫌だ!恥ずかしい!!
なんでぇ!?うわ最悪!こんなミスするぅ!?あぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ!!!!)
寝室の布団の中でダンゴムシの様に丸まって自分の黒歴史になるであろう今日の配信事故にウタは悶えるしかなかった……。
後日、ゴシップ誌にて『熱愛止まず!!海賊王と歌姫夫婦は未だにアツアツ!!!』というネタが掲載され、さらに悶えることになる。
皆も日々の何気ない行動にも気を付けよう。思いがけないミスにより、悶絶するほどの失敗に陥らないよう……。