モロッコ村学園全滅

モロッコ村学園全滅


*文章はイメージです。


 半ば崩落した学園に二人分の足音が響く。小さくて白いのがイヌでさらに小さいのがナゾだ。今イヌと言ったが普段の彼女を知るものが今の彼女を見れば絶句は免れないだろう。いつもの狂騒は鳴りを顰め普段からないハイライトは今や完全に消え失せ瞳に影を宿している。ナゾは一見普段通りの無表情に見えるがよく見れば目は擦った後のように赤く、目元は湿っているのが分かる。

 ある教室の前で立ち止まった二人はそのまま壊れた扉を跨いで中に入って行った。イヌがその教室で拾い上げたのは下半分が千切れ飛んでいる生徒の死骸であった。どうやら振り抜かれた預言者の尻尾を避けられなかったらしい。イヌは拾った上半身を汚れるのも厭わず背負っていたリュックの中に押し込んだ。もともと詰まっていたリュックの中から半ば炭化した誰かの頭部が転がり落ちる。校門前で拾ったソレはよく自作のロケットブーツを自慢していたことを思い出す。イヌとナゾが見たのは飛んで逃げようとした彼女がミサイルに撃墜され黒焦げになった場面だけだった。

 残骸となった学園をくまなく巡り最後に二人がたどり着いたのは中庭だった。気まぐれで射撃上手な同級生に雰囲気を出してほしいと頼まれて作った墓場が立ち並ぶ中庭は預言者が作り上げたであろうクレーターと本体が通った後であろう大穴でボコボコになっていた。イヌはその中庭から比較的マシな部分を見つけ出しリュックを下ろし、ナゾから受け取ったスコップで穴を掘り始めた。日は沈み辺りを暗闇が支配する。と、下ろしたリュックから異音が聞こえた。ナゾがイヌに声をかけ、リュックを開ける。呻き声を上げながら出てきたのは牛の世話が好きだった先輩だ。チャームポイントの一つだったツノは頭の一部ごとごっそりと無くなっていた。ヘイローを浮かべず赤黒い体液を溢しながら這いずってこちらへ向かってくる先輩にイヌは持っていた銃のストックを振り下ろした。何度も何度も、先輩の動きがなくなってからは馬乗りになってすり潰すように、いつも早起きしては牛の様子を見に行っていた様子を思い出しながら何度も何度も振り下ろす。そうして原型すらわからなくなった残骸をリュックにもう一度押し込んで、イヌは穴掘りを再開した。

 リュックから呻き声が聞こえること数回、最終的に原型が残っていた全ての遺体を残骸に作り替えてから、イヌはようやく穴掘りを終えた。イヌが全ての遺体を損壊してからどこかに行っていたナゾも帰ってきた。どうやら遺体の代わりに入れるわかりやすい遺品を探してきたらしい。リュックごと穴に落とした遺骸は混ざり合いすぎていて誰が誰だかわからなくなっていた。死体の代わりに丁寧に遺品を墓穴に入れていく。物知りな三年生の先輩は銃器の扱いが致命的に下手くそで火矢を普段使いしていた。司書の二年生は不公平な取引で喧嘩になりゾンビを嗾けることもあった。同級生のモヤシっ子は野生の猫に噛まれて死にかけることがあったが優秀な製本屋だった。一人一人のことを思い返しながら墓穴に仕舞う。最後に一番関わりの多かった医務室のあの子の医療カバンと銃器を仕舞い込み、油と擦ったマッチを投げ入れた。

 墓穴から火の手が上がる。焼けて塵になって舞っていく仲間たちをイヌとナゾは何も言わずに見ていた。その火が消えるまでじっと見ていた。その後、夜が明けて燻りすらしなくなった墓穴を埋め立て墓石を建てた。26人の学生の名前を刻んだ墓石を建ててからイヌはもう一つだけ墓石を建てた。ナゾは近くから拾ってきたアイスの棒をその脇に突き立てた。


「はい!シリアスはコレで終わり!転校手続きをするので続きやっていきます!」

「転校するにはいくつかの書類を連邦生徒会に提出する必要があるね」

「面倒くさすぎるんじゃないか?」


 二人は学園から去っていった。彼女たちがここに帰ってくるのはいくつかの学園を終わらせてからになる。最後に建てた墓石には、大きく糞珍歩と刻まれていた。


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