モヤモヤ

モヤモヤ



「納得いかない‼︎」

アビドスで起きた事件以来、良い意味で変わり果てた給食部の厨房。ミレニアム製の自動調理器やトリニティから送られた立派な食器の中、吐き出すような声が上がる。

まるでゲームの一枚絵のような構図で二人の少女は対峙していた。


「何がでしょうか…?あぁそうだ、今のうちにレジ締めやっときますね。仕込みと食洗機ちゃん3号のメンテナンスもしておきますので、先に帰ってしまって大丈夫ですよ」

「うん、ありがと。正直今日は課題が多いから助かるなぁ…いっつもごめんね」

「いえいえ、学業との両立が一番です。私は今謹慎扱い、自由な時間が多いですからね

その辺はお任せいただいて結構ですよ?」


時間に追われがちな給食部部長は、手慣れた手つきでそそくさと変える準備を済ませて…

「じゃあお先に‼︎…じゃなくて⁉︎ちょっとだけ話聞いてくれない?」

─────本題を忘れて帰宅しかける。

「あら?分担の話でご不満があるのかと。私で良ければ聞きますが…なんでしょうか?」


失いかけた勢いを取り戻すように、鞄から力強く雑誌を叩きつけるフウカ。

見る人によってはいじめと見られてもおかしくはないが…この程度ではゲヘナでは挨拶にもならないので誰も気にしないし、気にするべきだとも思わない。

「まずこれを見て。この雑誌の表紙にいるのは誰?」

「私ですね」


「そう、じゃあこのインタビューに答えてるのは?」

「それも私ですね」


「最後に…次にくるクロノススクールの取材の対応をするのは?」

「私ですけど?それがどうかされましたか?」


「そう!それが問題なの!わかってくれる⁉︎」

「……どの辺りに問題があるのか教えていただいても?」

本当に訳がわからないようで思わず質問で答えてしまうハルナ。

その回答はどこかばつが悪そうな、勢いのあった先ほどの対応と打って変わっていた。

「ハルナが給食部で働いてくれるのは嬉しいんだよ?ところ構わず爆破するのも辞めてくれたし、アビドスで給食係をしていた子達も手伝ってくれるしね?」

「…?では、なおさら何が問題なのですか?」

さすがに、爆破を辞めたのは自分の舌や価値観をもとに食の貴賤をジャッジすることはできないと考えているだけで、思想が変わったわけではないということは伝えないようだ。それを言えば、フウカがこの先の話を切り出せずに絶句してしまうと理解していたためだろう。

「問題っていうのは確かに間違ってたかも。でもさぁ…今給食部といえば私とハルナみたいになってるじゃない?それがちょっとねモヤモヤするって言うか…?」

「あぁ…そうですよね…私のような者と並ぶのは不名誉極まります。美食を冒涜した愚か者がとなr」

「いや違う違う。そういう話じゃなくてね?納得いかないのはそっちじゃないの。」


「うんじゃあ言うね…なんか馴染みすぎじゃない?ほかの子達の前だと言いづらいけど実は前から言いたかったの」

意を決して伝えるべきことを伝えた。彼女なりの言葉で。

「馴染みすぎている、なるほど馴れ馴れしいのが気に触ると言うことでしょうか?」

…結果としては、少々ズレる。自罰的なフィルターを通した解釈に面食らうフウカ。

「そうじゃない‼︎そうじゃあないの…なんというか前から居たみたいな?感じが納得出来ないって言う話」

「失礼な!私はよくフウカさんと共に過ごしてきましたよ⁉︎

…もちろんそれをあなたが望んでなどいなかったことことは理解しているつもりですが…」

そうではないと否定するのも億劫なのか、はたまた隣にいられて迷惑であったことを否定してしまうと割と本当に迷惑だった時のことまで否定してしまうからか?

食い気味に被せながら話題を変えようとする。


「うん、えーっと上手く説明できないけど…とにかくモヤモヤするんだって!なんていうか今までのことなんかチャラにしてるじゃん?アッ、いやアビドス時代のことじゃなくて…」

しどろもどろになるフウカ

そこに現実が追い打ちをかけた。


「では…明日のインタビューを代わります?公認欠席の報告とクロノススクールの皆様方への連絡は今からでも間に合うでしょうし」

暫しの沈黙

一瞬だが二人にとっては重要な瞬間

その答えは


「…無理。今更変えたら迷惑だろうし…ハルナに任せる…」

「承りました。ではそのように。」


──結局いつもどうりの結論

モヤモヤが取れるのはいつの日になることやら


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