モブ生徒の日記 2冊目

モブ生徒の日記 2冊目

ハモンドオルガン

...ない...

確かに出発前には持っていた切符がない

列車に乗るまでの自分の行動を思い返してみる

...どうやら財布を開ける時に落としてしまったようだ

「...切符は?」

その子は顔色一つ変えずに催促してくる

落として...なくしました...

...何やってんだこいつと言いたげな冷ややかな視線が私を貫く

穴があったら入りたいとはこの事だろう

入ったら最後、その穴墓穴にされそうだけど

「とりあえず駅に着いたら降りてついてきてください」

はい...

私は申し訳なさそうにしながらその子の後をついて行くしかなかった

逆らったらハチの巣より酷い事になりそうだし


私が連れてこられたのは急ごしらえで倉庫に作られた取調室のような場所だったしかし見方を変えれば元々そういうように作られたような雰囲気がある

私のほかにもキセル乗車をしようとした、又はそうみなされた生徒が2人いた

一人はゲヘナの生徒で、もう一人は百鬼夜行の生徒のようだ

ゲヘナの生徒は腕と足を組みその子を見つめていたがその子は意に介していない様子だった

百鬼夜行の生徒は何故か怯えきっていて助けを求めるような目を向けてきたが私にはどうすることもできない

扉が重々しい音を立てて閉まる

「取りあえず座ってリラックスしなよ」

言われるままに座ることにした


「皆、今日は治験に来てくれてありがとう」

...治験?なにそれ?

「あ、説明してなかったよね、あの列車でキセル乗車しようとすると治験に参加してもらうって規則に書いてなかった?」

書いてあったのそんなこと...?

「それじゃあ...あ、忘れ物した!ちょっと待っててもらえる?」

バタン...

部屋から出て行ったのでなんでそんなに怯えているのか聞いてみることにした

「えっと...実は...銃が...暴発して...それでさっきの子に向って弾を撃っちゃったんでっす...そ、それで...」

「どうなったんだ?」

「その弾を...弾いて...私に...治験に興味ないかって...詰め寄ってきて...とても、怖かった...」

...?...弾を...弾いた?

「どうやって弾いてたんだ?」

「切符を切る為の道具で...弾いてました...」

「...あんたよくそんな奴相手にキセル乗車しようとしてたな」

誤解なんだけど...

「皆-、待たせちゃってごめんねー」

キセルを意図してやったわけじゃないと言おうとしようとした瞬間に戻ってきた

「...まだ怖がってるの?とりあえずこの動画でも見てリラックスしなよ」

その子は何かの動画を再生した

『うああああああああうぅ!』

その瞬間悲鳴が鳴り響く

しかし驚いたのは突然悲鳴が鳴り響いたことではなかった

その声は私が一番よく知っている

その悲鳴を出しているのは他でもない、私自身だったからだ

「なん、だよ、これ...」

「あ」

私はその場から逃げようとした、しかしいつのまにか座っていた椅子にベルトでしっかりと固定されており、更にはその椅子は地面にしっかりと張り付けられており動かない

「ああうん、やっぱり君たちは私が見込んだ通りいい楽器になりそうだよ!」

「おい、楽器ってどういうことだよ!治験じゃなかったのかよ!」

「まだそんな嘘信じてたんだ」

そういいながらその子はどこからか刃物を取り出し、百鬼夜行の生徒の肩に手をのせる

「ひゃ、ひゃだ!たすけて!」

「安心して、すぐになれるからさ」

「ああ"あ"あ"あ"あ"ああ!」

慣れた手つきで腕を切り離し、肉をそぎ落としてゆく

「くそっ、は外れろ!外れろ!外れろ外れろ外れろ!」

「ああ、そうだね、列車の方はわざと外れやすくしてるって言ってなかったね」

「こ、この——」

「うーん、やっぱり打楽器は難しいしな、そういえば百鬼夜行には向こうでは見かけなかった打楽器があるみたいだね、今度作り方を教わりに行こうかな?でもその前ににこれでいいか確認しないとね」

もう手元の肉塊には興味はないと言わんばかりに、ゲヘナの生徒の方を見ながら迫ってくる

「や、やめろ」

「少しだけだから...ね?」

「いやだ、頼む...」

「やめ——」

金切り声がこだまする

「こ...この...ま...マゾ...」

「ああ~なるほどー、ここはこう組んでこう張ればいいんだ、他のとは全く違うなあ、ほんとに作り方を学びに行かなくちゃね」

とめどなく流れる罵倒をその子は意に介していないし興味もないようだ

そして絶叫が聞こえ、静まり返って数分後...

「ごめんごめん、待たせちゃったね」

そういいながら満足そうな笑みを無邪気に興味とともに向けてくる

「楽しみは最後まで残しておくタイプなんだよね、私」

そういいながらコードをどこかから取り出す

「これから貴方がどんな音を奏でるのか楽しみだなー」

私はこれからどうされてしまうのだろうか


「ああー聞こえてる?これが貴方の音!キヴォトス中隅から隅まで探したとしても決して見つからない唯一無二の音!貴方だけの音!美しいでしょう!?

...あれ?おーい、あ、もしかしてだけど痛みに耐えきれずに壊れちゃった?残念だなぁ、折角本人の感想が聞けるかと思ったのに、T社の特異点も何とかして盗んでおくべきだったな...」


...うん?

ーん...ぬぐ?」

「あ、あれ...寝ちゃってた?」

「皆-お疲れー、はいこれ治験の謝礼」

「えっえ?いつの間に終わったんですか?」

「皆ぐっすりだったから起こすのがしのびなくてさー」

「そ、そうなんでしたか、じゃあ私はこれで!」

そういって百鬼夜行の生徒は出て行った

「げ、もうこんな時間!私もこれで!」

ゲヘナの生徒も出て行った

「いや、ごめんね、キセル乗車を盾に強制的に引っ張ってきちゃって、次からはちゃんと入れ物でも買ってなくさないようにね!」

やっぱりそんな規則なかったんだ

「いやごめんって」

そうして私は部屋から出た

やはり悪い噂は噂に過ぎず、そんな事実は存在しないんだなと思った

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