モネ編 雪解け
~パンクハザード~
そこは元々、政府所属のとあるチームの研究施設があった島。
だが元海軍大将・赤犬と、同じく元海軍大将・青キジが決闘を行った結果、片方は常に燃え盛り続け、片方は極寒に閉ざされる凄まじい環境の島へと変貌を遂げ、もはや誰も近付くことはなくなった。
天しかし実はこの島は今“最高にして最低の科学者”シーザー・クラウンの根城となっており、同時に七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴがカイドウとの取引に利用している謎の果実“SMILE”の材料『SAD』の製造工場も存在している。
要は裏社会に蔓延る儲けと企みでみっちり詰まっている悪の島なのだ。
ルフィ達は最初この島にあるSOSを受けてやって来たのだが好奇心が抑えられなくなり、ウソップ達の制止も虚しく上陸する事となった。
そしてもう一人の七武海ローと出会い、紆余曲折あったのち『シーザーを誘拐すれば面白い事が始まる』と唆されて同盟を組み、やたらと強引な干渉で捕まえに掛かって……今に至る。
「うぎっ…この、きさまぁ!」
「“ゴムゴムの…」
「!?」
当然殴られて激怒するシーザーも反撃したのだが、元々科学者である彼にルフィのスピードはとても捉らえられない。
このまま殴って終わりか…そう思われた、次の瞬間。
「JETガトリング”!!」
「“カマクラ”」
「うおっ…!!な、壁ェ!?」
突如として現れた雪の壁と、宙に舞う謎のハーピーに阻まれてしまい、追撃する事は敵わなかった。
「さすが億越えね、そこらの海賊じゃ壊せないのだけれど」
「はぁ、はぁ…モネか。助かった…!」
「マスターお逃げを…!…無駄な戦いです」
「まったくだ!!」
「あ、待てよこんにゃろ!!」
負けじと追いすがるルフィだったが、モネと呼ばれたハーピーの妨害であえなく足止めを喰らい、吹雪舞う室内でやむを得ず彼女と対峙する。
しかし良くも悪くも一直線に攻めるルフィと、中々にクレバーで冷静なモネの相性は最悪であり…。
「なんだこりゃ!?出せーっ!!」
「うふふ…十層に重なった雪の洞、その名も“カマクラ十草紙”!!いかがかしら?」
あえなく強化されたカマクラの中へ囚われてしまい、シーザーを追う事が出来なくなっていた。
おまけにモネはどうやら雪の力……『ユキユキの実』のロギアらしく、自身は自由に雪中をすり抜けてルフィを挑発する余裕がある始末。
されど先程武装色付きでも防がれたとはいえ、それでもノーマルなJETガトリングであったのだから、時間稼ぎになればいい方だろう。
「こんなもんすぐぶっ壊せる!!ムダな事すんな!!!それに、お前には全然負ける気がしねえ!」
「でしょうね。私もあなたとの戦いに勝てる気はしないわ?」
が…どういう訳かモネはそれを認めた上で、依然として余裕を保ち続けている。
一体何故か?
「けれど戦闘力と勝敗は…別物でしょう!?」
その理由は、まさかの『ハグ』で明らかになった。
「うわ、なんだ、抱き着いて…」
「私に抱き着かれたら、もう終わり。冷たい体で徐々に体力を奪ってあげる…」
雪原で起こる低気温由来の体力低下をなんとそのまま再現できるらしい。
まんまと喰らったルフィは、何も言えずボーっとしている。
「……」
「ほら、たまらなく眠い筈…気持ちいいでしょ?だからほら、そのまま目を閉じて、さあ、楽に…」
そのままルフィはモネの策にハマり、眠らされてしまうのであった……。
「特訓勝負か!なら負けねえっ!」
かと思いきや。
「きゃっ!?」
凄まじい火事場の馬鹿力なのか勢い良くモネを押し倒し、攻守を逆転させてしまったではないか。
とは言えここで終わるほどモネも先のハグを過信しているわけではない。
「ハンコック直伝の特訓で強くなるチャンスだ!!やってやる!」
海賊女帝とのつながりが気にならないでもないが、今優先すべきはシーザーを追わせない事。
なので個々はひとまず雪中に避難…出来れば、良かったのだが。
「え」
ふと、モネはなんとも妙な涼しさを感じ、思わず視線をそちらへずらす。
…それが不味かった。
「うわ、な、ちょっ、まっ、えっ…!?」
何故ならば、そこを覆い隠してくれるているはずのものが、ルフィもモネも『なかった』のだから。
しかしなぜそんな事をしたのかも、と言うか何一つ邪気も良くも感じないまま抱き着こうとしているのかも…全てに一切理解が追い付かぬまま。
———“ズン!”
「はうっ!!!??」
「よし、最初の一発は何とかなった!!…ここから本番だぞ!!!」
行為と気合のかみ合わなさに依然として混乱しながらも、モネの中に沸くのは大きな怒りだ。
(ふざけてるわ…若様も知らない秘奥をこんな奴に暴かれるなんて…っ!?)
次第に始まるルフィの攻撃もなんのその。
内心でふつふつと黒い熱を燃やし続け、覆いかぶさる麦わらの男を、猛禽のような視線で射貫く。
モネにはルフィを足どめする策も仕留める策も山ほどあるのだ。
故に心は乱さない。奴の命を貫くまで、冷たい体へ焔をともす。
そして激しく動き始めたルフィを見やり…モネはその能力すら霞むほど、冷徹な笑みを浮かべてみせた…!
(そうやって油断していなさい…疲れを見せたその瞬間、その喉笛、噛み千切ってあげる…!!)
~~~
十分後。
「も、もうや、やめっ…やめやっうあぁ~~んっ♡」
「くそっ!!まだ体力あり余りまくってんのかこいつ!!!」
冷徹な笑みはどこへやら…すっかり余裕がなくなっていた。
女ヶ島やルスカイナ島で海賊女帝すらも『つぶす』ほど特訓したルフィに、その手の経験など無いモネはまったく叶わなかったのである。
おまけにルフィは本当に勝負か何かと勘違いしているらしく、また野性そのまま行動している所為か止まる気配がない。
(ダメ、もう、ダメなのにぃ…!!)
更に助けを求めようにもここは“カマクラ十草紙”の内部。
完全な密室である上に音は全て吸収されてしまい、ルフィが壊すか自分が解くまでずっとこのままなのだ
「はきゃあああぁぁ~~~!!」
「うおっ、なんでこいつこんな凄えんだ!?中も冷たいしこのままじゃやべぇっ!」
「あ、あ、あ、あっ、あっ、あああぁぁ~~~!?」
もう何も考えられず、身体の最奥へ走るすさまじい刺激と熱量に、ただただ流されるまま。
(お、おと、され…)
ルフィはますます勘違いと真剣さからヒートアップするわ、モネの懇願も言葉にならないわで最早どうにもならず…。
「JET………バズーカぁ!!!」
「んはああぁぁぁ!!」
~~~
「…………」
———パンクハザード崩壊中。
あのあとモネは気絶させられてしまい、結局シーザーを追跡する事を許してしまった。
しかも目覚めてから何をする気も起きず、ただぽーっと、奇跡的にも安全地帯となったこの部屋で天上を眺めるのみ。
誰かの事を思い浮かべるような顔をして、時折お腹をさすっている。
「……」
それと同時に傍にいた電伝虫が鳴る。
どこか熱に浮かされた顔でモネが受話器をゆっくりとろうとして、しかしそのまま翼を後ろに引いた
「麦わらの、ルフィ…♡」
そして本当の主である、ドンキホーテ・ドフラミンゴからの『全てを巻き添えに死んでくれ』という命令を、耳に入れる事すらなく…新たな光に導かれるかのように、いずこかへと消えて行った。
…余談ではあるが。
「あの雪女の気配がする!!」と言う理由でルフィがシーザーから心臓のような物を取り返し、念のため彼が大切に保管しているのだが、それはまた別の話である。