メロメロの実を食べてしまったコルサさんの話

メロメロの実を食べてしまったコルサさんの話


某海賊漫画ネタ。


「実にアヴァンギャルドッ!!!」

澄んだ青空の下で本日もお決まりの台詞を元気よく叫ぶ彼の名はコルサ。パルデア地方を代表する芸術家であり、くさタイプ専門のジムリーダーでありー海の悪魔をその身に宿すと言われる悪魔の実の能力者である。


彼の身に一体何が起こったのか?話は一週間ほど前に遡る。くさタイプのポケモンをこよなく愛する芸術家は、いつものように好みのくさポケモンを追いかけているうちに森の中に入り込んでしまった。目の前の事に熱中しすぎて周りが見えなくなるのは彼には日常茶飯事。いつの間に森の中に、と思い辺りを見渡すと、やたら目立つ果実が目に留まった。


サクランボのような見た目だが、はっきりとハートの形をしており、自然物とは思えないエキセントリックな色合いに不思議な渦巻き模様。

「ふむ、今までに見た事のない果実だな…新種のきのみだろうか?」

始めて目にするファンシーな果実に好奇心と探求心がむくむくと沸き上がり、コルサはその果実をもぎって自宅へ持ち帰ったのだった。


早速キッチンで例の果実を水洗いし、手に取って四方から眺めてみる。カジッチュのようにフルーツに見えるポケモンではないかと一瞬考えたが、どうやら違うようだ。匂いは…ほぼ無臭。見た目からは明らかに熟れている筈なのに匂いがしない。皮が相当厚いのだろうか。指で押しつぶすと程よい弾力を感じる。食べ頃のようだ。


一通り観察し終えた後包丁を手に取り果実を半分に切ってみる。果汁はほとんど出ない。やはり匂いは感じなかった。主人が何をやっているのか興味があるらしい手持ち達が近寄ってきたので、果実を見せてみた。彼女達は顔を近づけるなり「ミ゛ュッ!?」と嫌そうに声を上げ去っていった。くさポケモン達が嫌がるという事は毒があるのだろうか?ただ彼にはどうもその果実が有毒には思えなかった。それどころか…口にしたいとすら思えるのだ。意を決して一口齧ってみた。


「……ゥグッ!?」

あまりの不味さに吐き出そうとしたが、ティッシュを探している内に思わず飲み込んでしまった。不快感が食道を通り抜けると同時に、体が悪寒を感じゾクゾクし始める。やはり有毒だったのか…!?とひとまず水を飲もうとコップを手にした瞬間ーコップが石化した。


「…………は?」

数秒置いて間抜けな声が出た。何だこれは?夢か?きっとそうに違いない、随分とリアルな夢だなハッハッハ。実にアヴァンギャルド…メロメロの実?そうかワタシはメロメロの実を食ったのか。カナヅチになってしまったのは仕方ない、まあ元々海にもプールにも行かないから大した問題ではないだろう。みずタイプの使い手じゃなくて良かった…


「……って違うだろう!?何をワタシはすんなりと受け入れている!?!?」

こうしてジムリーダー、芸術家であるコルサの肩書に新たに「悪魔の実の能力者」も加わってしまった。


例の出来事から二日ほど、制作も寝食も削って色々調べて分かった事は…別の次元にある世界ー大海賊時代と言われる世界には「悪魔の実」と呼ばれるトンデモ果実が存在し、一口でも食べると人間離れした特殊能力を身につけることが出来る。コルサが口にしたのは「メロメロの実」という実で、魅了した相手や攻撃を食らわせた物を石化させる能力らしい。悪魔の実の中でも最強種と言われる「自然系」は自らを溶岩や光や雷に変えられるらしく、それは日常生活に支障が出そうなので不便そうだなとコルサは思った。何故そのような危険物が近所に生えていたのかというと、どうやら次元に歪みが生じ一瞬両世界が混ざり合ってしまったのではないかというのが調べた結果からの推察だ。つまりあちら側の世界に本来いない筈のポケモンが存在する事になるのか?まあ確かめる術はないのでどうしようもないのだが…兎に角悪魔の実の能力は本体が死ぬまで(あるいは死んだ後も)留まるらしいのでコルサはずっとメロメロの実の能力者となった訳だ。やったねコルさん!


それからは秘密裏に能力をコントロールする特訓をした。実にアヴァンギャルドな能力でインスピレーションが刺激されるが、触れるもの全てを石化する訳には当然いかないし、自身の生み出した作品に魅了される人間を石像にするなど言語道断。ジムリーダーのコルサには幸いにもこちらのセンスもあったらしく数日もすれば問題なく能力を抑制出来るようになった。周囲にはバレないようにこの能力の事は隠しておかねば…と思っていた。今日までは。


来月開かれる個展の打ち合わせと会場の下見を終えたコルサは、帰りの途中何者かの気配を感じた。一人ではない、複数人…恐らく三、四人はいるだろう。

「…先ほどからコソコソとワタシの跡をつけているようだが…何者だ?」

振り返らずに問うと、複数の男女がコルサを取り囲んだ。前に二人、後ろに二人。

「…よぉ、偉大な芸術家の大先生。ちょーっと付き合ってもらえないか?なあに、大人しく付いて来てくれりゃ何もしねえよ。利き腕が大事なら…どうすりゃいいか分かるよなぁ?」

大方金目当ての誘拐犯といったところか。男性にしては細身で小柄なコルサに完全に油断し、品のない笑みを浮かべながらジリジリと迫って来る。


「……分かった、言う事を聞く。だから危害は加えないでくれ、頼む。」

困ったようなアンニュイな表情でそう告げると、手前の二人が色気たっぷりの表情に思わず魅了されー

「……メロメロ突風(リーゼ)」

一瞬で石化した。


「…な、何だこりゃあーグッ!?」

「メロメロ盾(ブークリエ)!」

更に後方の二人に、すらりと長い脚から放たれた蹴り技が炸裂した。鋭くも美しい軌道で放たれたキックは両人に当たり、叫ぶ暇すら与えず石化させる。


「…明日になったら石化を解いてやる。それまでここで反省していろ。キサマらの事は当然警察に突き出すが…次また同じような事をしたら永遠に彫像のままだからな?よく覚えておけ。」


凄みと色香を纏った表情で忠告すると、何事もなかったかのごとくその場を去っていった。残されたのはもはや何も聞こえていないであろう物言わぬ石像達のみ。


男の名はコルサ。高名な芸術家で、くさタイプ使いのジムリーダーで、多くの者を魅了させるメロメロの実の能力者である。


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