メテオリーテ
その日私はウタを連れ、島の郊外にある住宅街を訪れていた
この辺りは比較的最近整備された区画であり、島外からの移住者や若い家族が多く暮らしている
そんな居並ぶ新築物件の一つ、周囲と比べ特別大きいわけでも、デザインが凝っているわけでもない、ごく普通のありふれた家の前に立ち、呼び鈴を鳴らす
数秒して、小気味のいい足音と共に扉が開かれた
「おじい様!ウタお姉ちゃん!」
勢いよく飛び出し、私に腰に飛び込んできたのは、テゾーロとステラの娘、メテオリーテだ
「おっと、リーテ、今日も元気だな」
「…おはよう、リーテ」
今年で5歳になるリーテは一段とステラに似て、しかしその瞳はテゾーロと同じ色をしている
ステラと同じ金髪には同じく金色の細かな装飾の施された髪飾りが輝き、その中心には深い緑色をした球体が埋め込まれていた
これは私がリーテが生まれた際に、テゾーロ達に送ったモルダバイトだ
その謂れとテゾーロの髪色にも遭っていたから送ったのだが、テゾーロは後に自身の能力で髪飾りを作り、その時にワンポイントとして埋め込んだのだ
…本当はテゾーロとステラ、二人の今後を祈って送ったのもので、この使い方ではこれの持つ石言葉からは少し外れてしまう気もするが、まぁ本人たちがいいならいいだろう
ちなみにこの髪飾り、テゾーロの持つ指輪と同じく奴の能力の制御下にあり、リーテに何があっても守れるようにというやつの親馬鹿さの表れでもある
この子が生まれた当初、私は歌の才能を期待し将来的にはテゾーロとの親子デュエットを、とも思っていたのだが、どうも本人は歌よりもダンスや演技の方が好きなようだ
特に母親であるステラも演じた―あれは子供向けの簡易版だったが―"星空の唄"のヒロインがお気に入りで、毎日のようにベッドを舞台に想像の観客を相手にしたワンマンショーを繰り広げているそうだ
…埃がまうからや得てほしいというのが、当のステラの談だが
ちなみにこのワンマンショー、時折我が家でも行われている
私やウタのほか手の空いている者を相手に、星空の唄のラストシーンをたどたどしくも精一杯熱演する様子は見ていて実に微笑ましい
この年でこれほど演技にのめり込めるなら、将来的にはやはり我が劇団に…
…と、話が逸れてしまっていたな
「こらリーテ!ダメでしょ飛びついては!
申し訳ありません○○様、ウタちゃんも…」
後ろから少し慌てた様子でステラが歩いてくる
本当は走ってでも止めたいのだろうが、今の彼女の状態がそれを許さない
ちなみにリーテはすでに私の腰から離れ、ウタに抱き着いている
ウタは突然のことに少し驚いたようだが、満面の笑顔で己に抱き着きながら頬ずりしてくるリーテに自然と笑みがこぼれていた
「いや、構わんとも、今日も元気そうで何よりだ」
「…私も、別に…、嫌じゃないし」
「そう、ですか…、本当に申し訳ありません
改めまして、よくお越しくださいました○○様、それにウタちゃんもいらっしゃい」
「あぁ、邪魔するぞ」
「…お邪魔します」