メタ宗時空SS
十二月上旬、全国放送のドッキリ特番に檀クロトさんとシロトさんが出ると聞いた僕たちは、なんとなくCRに集まりテレビをつけた。普段はこういうのを見なさそうな飛彩さん、大我さんまでもテレビの前だ。
放送が始まって四十分くらいだろうか。続いては親孝行ドッキリ、と司会のお笑い芸人が大げさな身振りで言った。二人はこのコーナーに出るらしい。
ゲーム会社にとって年末は戦争だと聞いていたが、よく収録スケジュールをねじ込めたなと内心で思う。CMの間にスマホを見れば、早くも実況スレが三分の一ほど、二人への期待で埋まっていた。ゲームに加え本人のファンも多いので納得だ。
「あ、CM明けた! 始まるよ!」
飛彩さんのケーキを狙っていたニコちゃんが、ポッピーの声で顔を上げる。
『有名人がサンタクロースに扮して親孝行に挑戦する定番企画。今回はなんとゲーム業界から、幻夢コーポレーションの檀クロト・シロトが挑戦します』
やたら勿体ぶったナレーション。貴利矢さんがこれラヴリカじゃね? とつぶやいたのとほぼ同時、特別ナレーション担当:ラヴリカの字幕が映った。何してるんだあの人。
『幻夢コーポレーションの年末と言えば、全国の病院や施設へ現れるバグスターサンタたち。普段はサンタを統べる正宗社長に、息子たちからサプライズプレゼント!』
『幻夢コーポレーションの檀クロトです。社長は今、本社の仮眠室で休憩中です。そこに忍び込んでプレゼントを置くというのが今回のチャレンジですね』
『同じく檀シロトです。社長に喜んでもらえるよう頑張ります』
対外用の三十歳モードで話す二人。僕たちは彼らの実年齢を知っているので、背伸びしているような姿につい吹き出してしまう。
その間に番組は進み、サンタ帽を被った二人は本社勤務のバグスターたちが確保したルートで悠々と侵入した。
「お前の実家、セキュリティ緩くね?」
「FPSやサバイバルゲーム系のバグスターが案内してるからだよ!」
「なるほど、隠密行動に特化しているのか。今度その手のガシャットも依頼してみよう」
「最近は特殊能力有りで鬼ごっこするサバイバルホラーが人気だっけ? それ系で作ってもらうのはアリかもね」
「ちょい古くない? てかダメだからねそれ。ホラーだと大我がクリアできないじゃん」
「てめえ余計なこと……」
「もー、静かにしてください! ほら、仮眠室に着きましたよ?」
暗視カメラで映し出されたのは社長専用の仮眠室。ビジネスホテルのシングルみたいな内装でシャワーも完備だ。忙しい時はここに泊まるのもザラだと聞いたことがある。
『順調すぎる展開……』なんてナレーションを聞き流しつづ、ほのぼのドッキリが円満に終了するのだと思っていた僕たちは、続くラヴリカの言葉にびっくりした。
『──実はこれ、ゲームクリエイターたちへの逆ドッキリ!』
「「「「ええっ⁉︎」」」」
みんなのリアクションが重なる。
『ベッドにいるのは皆様ご存知メタモンバグスター、我らが社長・檀正宗に変身しています』
そしてカメラは切り替わり、なんの変哲もない事務机を映した。ん、と首を傾げたのは飛彩さんだ。
「電気スタンドが無い」
「え、普段はあるんですか?」
「あー、ホントだ! 暗くてわかんなかったけど、本当は電気スタンドと卓上加湿器があるの! 飛彩ってばすごーい!」
「仮眠室まで行ったことあんの? どんな関係よ」
「社長が風邪を引いた時、往診に行っただけだ」
画面の中で変化の理由が明かされた。事務机だと思ったのは中に人が隠れられるハリボテ、ドッキリでよくある大道具だ。正宗社長は特大クラッカーを持って机もどきの中に潜み、天板を突き破ってサプライズをするのだとか。バグスターたちの全面協力で実現した夢のドッキリらしい。
『社長はぐっすり寝てますね』
『いつもお疲れ様です……じゃあ、プレゼントを枕元に……』
双子は目を合わせてにっこり笑ったあと、マイティ模様のラッピングが施されたプレゼントを枕元に置く。
その瞬間、消えていた電気がポップに点滅し、陽気なクリスマスソングも流れ出した。
え、何これ、予定に無い。慌てるクロトさんとシロトさん。視線が机に向く一瞬を狙い、
「め、メリークリスマス!」
バァン‼︎
紙テープが飛ぶ。テレビっぽく白いガスも吹き出す。『ドッキリ大成功』の看板を持ったバガモン、元の姿になったメタモンバグスターも揃って、あとは煙が晴れるのを待ちネタバラシをするだけ。ニコちゃんや大我さんは机を叩いて笑い、ポッピーが「私も参加したかった〜!」と頬を膨らませ、飛彩さんは無表情。
僕はふと、これ大丈夫なのかな、と思った。クロトさんとシロトさんはメタモンバグスターの能力の一つで生まれた、実は100%人間なのかも怪しい二人だ。生まれたのは十年前、そこから一気に成長して今の姿になっている。つまりあの人たちは、三十歳の振る舞いができるしそもそも大人びているけれど、まだ十歳なのだ。
不安は当たっていた。煙が晴れたとき、二人は本気で泣いていたのだから。
クロトさんはサプライズが失敗したと勘違いし、番組に迷惑をかけてしまうと啜り泣きの合間に謝罪する。シロトさんの方はクラッカーに驚いたのが主な理由だろう、腰が抜けていた。双子でも泣き方は違うんだな、という軽口は貴利矢さんのだ。
『パパ……私たち、うまくできなくて……』
『怖いことするパパは嫌い……!』
完全に素が出ている二人を、社長・バガモン・メタモンバグスターが取り囲んで撫でたりハグしたり、一生懸命に甘やかす。
『クロト、シロト、泣き止んでくれ! 私が悪かったから! プレゼントをありがとう、お前たちの気持ちだけでパパは嬉しいよ』
『坊ちゃんたちの計画も大成功だガ! このバガモンが保証するガ!』
これ放送していいんだ。僕はポッピーへ目配せした。ポッピーは「広報課がオッケー出したから放送されてるんだと思うよ?」と可愛くウインクした。